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たろう先輩は、私たちより2個上で、友人の会社の先輩らしい。
バーのカウンター席で喋っていた私たちの隣の席に座ったので、女3人とたろう先輩で飲むことになった。

友人にとっては会社の先輩だが、私にとっては違う。しかし、年上であることには変わりないので、「たろうさん」と呼ぶことにした。


たろうさん、どうして1人で飲みにきたんですか。

たろうさん、彼女いないんですか。


聞きたいことは山ほどあったが、友人の上司の愚痴が止まらず、話を変える勇気も私にはなかった。
顔も知らない上司の愚痴に何の興味もなかったのだが、友人に愚痴を聞いてもらう日もあるので、私も聞かないわけにはいかなかった。

私は知らなくても、たろうさんは、その上司のことを知っている。
どんな気持ちで聞いているのだろう。
どんな対応をするのだろう。
そういった興味はあって、たろうさんの言動に注視していた。

たろうさんは、友人の愚痴を肯定するでもなく、否定するでもなく、笑って流していた。

それが、すごく好印象だった。

きっと、肯定していたら、「この人、陰で上司の愚痴を言うような人なんだ」となっただろうし、否定していたら「そんな言葉が欲しくて愚痴ってるんじゃないのに、乙女心の分からない人だな」となっただろう。
肯定とも否定ともとれない相槌を打ち、時々笑って場を和ませ、そんなたろうさんに甘えて、友人は溜まっていた鬱憤を全て吐き出したようで、

「あー、スッキリした!もうこんな時間かー、解散しよっか!」

もっと、たろうさんのことを聞きたかったのに。という私の気持ちを無視して会を終了させてしまった。
もちろん、その友人に悪気はないし、たろうさん本人を目の前にして「あなたのことをもっと知りたい!」と言う勇気も、私にはないのだが。

でも、名残惜しい。
素直に、またたろうさんに会いたい、もっと話したい、と思った。
思っただけで、やっぱり言えず、その日はそのまま別れた。


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