Vt小説見ないと話がさっぱりわかりません。そして絶賛クラアン中













「本当は貴方、わかってるんでしょ?」


隣りのアンナが急に独り言のように呟いた。珍しくバラエティ番組をぼんやりと眺めていたクラトスは顔の方向を変えずに「何が」と答える。カラフルなテロップが流れ、様々な映像が映し出されるそれを目で追いながら、特に意識もせずアンナに続きを促した。

ちなみにロイドはいない。今日は新しいゲームの発売日か何だかで一晩中ゼロスの家で遊び惚けるそうだ。つまり真下の部屋に泊まっている。(先程からドタバタと走り回る音が下から聞こえるのはそのせいだ。)明日は休日であるし、ゼロス宅に泊まることは珍しいことではないのでクラトスとアンナはあっさり了承した。ゼロスさえいいのなら遊んできなさい、と。別に夫婦で二人きりになることなど、苦痛でもなんでもない。ただ、やはり息子がいないとなると少しだけいつもと空気が違うのは薄々お互い察していた。



「ロイドの一番が、コレットちゃんじゃないことよ」


意外な発言に驚いてクラトスは隣りの女性を見つめた。テーブルで隣り合わせにちょこんと座る彼女は、ケーキを咀嚼しながらこちらを見上げる。それもいつも甘い物を食べるときはふにゃけたような顔をしているのに、今日に限ってじっと大きな目をクラトスに向けた。もともと童顔であるせいかその仕草が小動物と重なりクラトスは愛しさのあまり頬が緩みそうになる。 それを何とか抑えたのは今はそんな雰囲気ではないと何となく察したからだ。


「………私を責めているのか」
「まさか。違うわよ。ただ何となく貴方は自覚してるのかな〜って」


アンナは小さなフォークでショートケーキのスポンジを掬い、生クリームがたっぷりのったそれを口に運んだ。もぐもぐと口を動かしながらも瞳はこちらを向いている。その瞳の色から好奇心も真剣さもあまり伝わらない。彼女は単純に素朴な疑問を投げ掛けているようだ。


「コレットに聞いた。ロイドは私の話をするとき、それはそれは照れた顔をするらしい」
「まあロイドだものね。困ったわ。これじゃあ相思相愛じゃない」


ふふ、と彼女が楽しそうに笑う。


「親子としてな。ロイドが私に向ける『好き』と、コレットがロイドに向ける『好き』は趣旨が全く違う」
「貴方が私に対して感じる『好き』とも違う?」
「そ……それは、また違う話だろう」


質問の方向性が急に変わったのでクラトスがたじろけば、彼女はおもしろそうに彼の瞳を覗き込んできた。それが昔の記憶と重なって思わず声をあげそうになる。出会った当初も、彼女はクラトスをこんなふうにまるで新しい何かをみつけたかのような瞳で見てきたのだ。外見ではなく、クラトスの心の中を。最初は戸惑いも感じたし、そもそもクラトスのペースをここまで無茶苦茶に乱した女性は生涯アンナ以外存在しない。慣れないうちは苦手な感覚でもあったが彼女に触れてからは、心の中を覗き込まれる感覚はむしろ心地いいとも感じた。



「でもね、私が言いたいのはそういうことじゃないの。確かにロイドの一番は貴方なのよ」
「それは恋愛とは違う思いだろう」
「もちろんそうよ。だけど一番っていうのは、ちょっと違うのよ」

アンナの言いたいことがいまいちわからず首を傾げれば、彼女は一度フォークを食べかけのケーキがのった皿の上におき、少しだけ間をおいてから口を開いた。


「人にとっての一番って恋愛感情とはかぎらないから。友情かもしれないし、親子愛かもしれない」
「……………」
「だから『一番』って表現はかなり広いなあって話」


にこ、と笑いかけるアンナにやっと納得がいった。少しだけクラトスは瞳を伏せてイスの背にもたれた。ふう、と溜息をつけばアンナに頭を撫でられる。「いい子、いい子」と囁く彼女の声はどこか優しく、少女のように聞こえた。


「ロイドが早く、本当の『一番』に気付けばいいわね。じゃないとファザコンになっちゃうわよ」
「その一番がコレットかどうかはいまいちわからんがな」
「うふふ、ゼロス君とかだったらおもしろいのに」
「お前な…」



「冗談よ」と鈴のようにころころと音をたてて笑うアンナに、クラトスは呆れて溜息をついた。ロイドならやりかねないからタチが悪い。だがゼロスは……………




ふと、何気なくアンナが食べているケーキに目がいった。スポンジの間にフルーツがたっぷり挟まていて、その上をいかにも甘そうな生クリームが塗ってあるケーキはどこか見覚えがあり、クラトスは首を傾げる。はて、いつ見たのだろうか。彼がじっとケーキを見つめていればその視線に気付いたアンナが、「ああ、これはね」とそれにフォークを刺しながら言った。


「ゼロス君からもらったの。本当にホワイトデーは5倍返ししてくれたわあ。これ雑誌とかでよく見るケーキ屋のやつで結構高いのよ」



「ああ、」と今度はクラトスが声を出す。そうだ。雑誌にのっていたのだ。たしかマーテルが休憩中にその見開きページをクラトスに見せてきた。本人もたまたま隣りにクラトスがいたから話し掛けたのだろうが、すごくクラトスはユアンに睨まれたのを覚えている。


「クラトスも食べてみなさいよ〜おいしいから」
「お前がもらったのだろう」


同じ男としてゼロスの意志を尊重したかった彼はやんわりと断った。もともとゼロスの気持ちには始めから気付いている。軽い男のように見えて本当は人を想いやれる優しい青年であることも。知っているからこそ本当に奪われやしないかと不安でもあったが、クラトスだってゼロスは息子の友人であり、自分の大切な友人でもあるのであえて本人を問い質したりはしなかった。



ちなみにアンナは、彼のその言葉を自分に対する遠慮と受け取ったのか、あらかじめフォークで刺していた最後の一口をクラトスの口へと持っていった。


「はい、あーん」
「……………」


にこにこと首を傾げながらされると、さすがにクラトスとて断ると罪悪感がわく。困ったような顔をしてもアンナが手をさげる気配はない。しょうがないので彼はその真っ白のケーキを、はむ、と口にいれた。



もぐもぐと黙って口を動かしていればアンナは相変わらず、にやにや笑いながら彼を見つめる。何がそんなに楽しいのか。思わず訝しげに彼女を見つめ返した。


「お菓子食べてるクラトスって可愛い」


しまいにはこんなことを言う始末。



出会ったときからそうだがアンナはクラトスの心中を理解してるようでしていないことが多かった。もちろん心の闇で繋がる性質のある彼らは、深刻な悩みであればすぐに気付く。アンナが鈍感なのはもっと中途半端な、特に色事に関することはこちらが言わないと滅法わからない。友人…というか先輩後輩関係だったころも「誰々はお前のことが好きなんだな」と言ったのに首を傾げられたことだってあった。わかりやすい男の行動に気付かないとなるともはや馬鹿である。もちろん他の男性が下心まる見えな誘いも簡単についていってしまう。なにが二人きりで食事だ。酔わせる気満々ではないか。


年下であることも理由に入るが、どうもほうっておけなかった。



誰にも触らせたくない。



そう自覚するまで、クラトスだって時間はかかったのだけれど。




「どうしたの」


フォークを持ったまま、きょとんと自分を見上げる表情にクラトスは薄く笑って少々強引に彼女に唇を重ねた。久し振りに感じる柔らかく浸食されるような熱い感触。引き寄せるために掴んだ彼女の両頬が震えたので、少しだけ目を細める。悪戯心で人差し指で耳を撫でれれば猫のよう声が聞こえた。


「……甘いな」


唇を離してクラトスはぽつり呟く。程よいショートケーキの甘さが、少しだけ官能的に口内を侵して目眩がした。


「な………によ、滅多にしないくせに」


当のアンナは照れよりも驚きが強いらしく、もともと大きな目をさらに大きくしてクラトスを見上げた。一瞬その長い睫毛をもつ栗色の双眼に囚われるが、ぽかんと見上げる彼女の額にデコピンをお見舞いした。



「痛っ!?………もう何するのよ!!わけわかんない!!」
「わからないでいい。ていうかお前にわかるわけがない」
「ばっ…………馬鹿にされてる……っ」



悔しそうにクラトスを見つめる彼女の頭を、彼は笑いながらぽんぽんと叩いた。


こういった自然なじゃれあいのときによく考える。


結婚してから彼女は家族になったわけだが。そこにあるのは果たして家族愛だけなのか――ということだ。

ロイドに対する「好き」と
アンナに対する「好き」は
果たして同じものか?



「アンナ」
「ん?」




「    」



わざとさらっと呟けば急に彼女の顔が赤くなった。らしくなく目線が泳ぎ、最終的には俯いてしまう。両手を組んだり解いたりする仕草は昔となんら変わらない。昔からクラトスにしかしらない、アンナの表情と頬を染めながら見つめてくる切なげ瞳。


「い…………いまから?」
「他にいつがある」
「え……でも久し振りなのよ。恥ずかしいわよ今更」
「お互い様だ」


平然なふりをしているが無論クラトスも視線がアンナを捕らえていない。


「言っておくが子供がもう一人欲しいわけではないぞ。ただ………」
「ただ?」
「バレンタインのお返しが、お菓子だとありきたりだろう」


自分にしかできないお返しなど、これくらいしか思いうかばない。


そう言うとアンナはさらに顔を赤くして、席をたった。「シャワー浴びてくる」と小声で聞こえたような気がした。


パタパタとリビングを出ていった小さな足音と共に、いつのまにかドラマへと変わっていたテレビをリモコンで消した。途端訪れる静寂が彼に何とも言えない緊張感をさらに背筋から伝えた。ふ、と視界に映った時計を見れば針は11時ちょっと前を差している。だが睡魔は全く訪れようとはしない。いろんな意味で当たり前だが。


「すまない」



クラトスは誰もいなりリビングで一人呟いた。


紅毛の青年がアンナを好きな気持ちはわかる。


だが、


そう簡単に渡せるほどのものでもないのだ。



家族愛とか恋愛感情とか全部ひっくるめてクラトスの『一番』はロイドでありアンナなのだ。矛盾した話だが、納得してもらうほかない。どちらも比べられないくらい愛してる。


浴室から水音が聞こえてくると、らしくなく心臓が跳ね上がり、口許を抑えた。そんな純粋な彼がショートケーキの甘さに打ち勝つほどの、甘い愛を彼女に捧げられるのかはやはり不明である。






一番




ただ種類が違うだけ



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