時は大きく流れてまわりの環境は変わってしまうけれど。
変わらないものだってある。
「…ロイド?」
気配に敏感なクラトスはすぐ気付いた。ゆっくり瞼を開けて気配のする方を見れば予想通り、愛しい息子が自分の枕元に立っている。しかし、少し様子がいつもと違うのを見てクラトスは少し虚をつかれた。
「ク、クラトス」
「…何だ?」
「えーっと、あのな、その」
言いずらそうに目を泳がせるロイドにクラトスは昔のある出来事を思い出した。
(そうだ、あの日もロイドはこんな顔をしていた)
昔と変わらない息子の仕草にクラトスは頬をゆるめた。
「眠れないのか?」
「え」
「ほら、来なさい」
クラトスは毛布を開き、自分の隣りをぽんぽんと叩く。その瞬間、かあっとロイドの顔が赤く染まった。
「…お見通しかよ」
「昔も同じようなことがあったからな」
「昔ってオレがチビのとき?」
「ああ」
「ふうん……」
そろそろとロイドはベッドに潜り込みクラトスと向き合う体制で横になる。その胸に顔をうずめれば、そっとクラトスがロイドを抱き締めた。
「へへ…クラトス、心臓ばくばくしてる」
「大人をからかうんじゃない」
そう言うクラトスの声は優しくて。ロイドは少しだけ彼との距離を詰めて、ぽつりぽつりと話しはじめた。
「明日のミトスとの決戦さ、」
「ああ」
「正直言ってすげえ怖いんだ」
「………」
珍しく弱気なロイドの発言に、クラトスは驚く。今までにこんなロイドは見たことがなかった。いつでも前向きで、怖いものしらずで、仲間を励ます彼の面影が脳裏にかすむ。大袈裟に言うと、目の前のロイドはまるで別人のように思えた。
「死ぬのはあんまり怖くないよ。だけど世界の命運がオレにかかってると思うと……すげえ怖い」
「………」
「オレのせいで沢山の命がなくなるかもしれない。そう考えると何か眠れなくって」
「ロイド…」
いつでも眩い笑顔をふりまき、周りに希望の光を与えるロイド。だけどそんな彼もミトスに怯え、それを今まで表にださなかったのはきっと仲間を想っている理由であり結果だ。たしかにロイドは強い。心も身体も強い。故に他人のために無理や我慢ができる。しかし。
_仲間とこの大地を失う恐怖。
もともとロイドはまだ、そんな大きなものなど背負えない子供だ。
それでも絶えて、常に前を向き大事なものを守ろうとするロイドがたまらなく愛しくて。
「っ…クラトス?」
「お前は強いな」
クラトスは腕の中の愛しい存在をもう一度強く抱き締めた。昔、腕の中にすっぽりと収まっていた小さな体は今では大きく成長している。以前はただ守っていたこの存在に、自分は何度救われたことか。
「大丈夫だ。私も、お前の仲間もいる。だから一人で背負うな。明日は深く考えずいつも通りのお前でいればよい」
「…うん」
ありがと、と呟いてロイドは彼の胸にすり寄った。その様子を見てクラトスは少しだけ苦笑する。
「…その癖も相変わらずだな」
「え?」
「お前がまだ小さな頃もそうやってすり寄る癖があった」
「…そか」
眠れない、とぐずる小さなロイドを抱き締めて。背中を擦ってやれば嬉しそうにすり寄ってきた昔の儚い思い出。
この15年間でいろんなことが変化したけれど。
ロイドの可愛い癖や、それを愛しいと思う自分も変わってなどいない。きっとそれはこれからも、変らない。
「とーさん」
「……!?」
いきなり呼び方が変わったことにクラトスはたじろき、対してロイドはにへら、と笑う。
「父さん、だいすき」
ああ、何てお前は。
「私もお前を__」
昔も今も変わらずずっと。
私の一番、かわいいひと
「愛しているから」以外に、理由はない。