「父親らしいこと?」
「お前の願いを一つ、何でも叶えてやる。どんなものでも買ってやるし、どんなことでもしよう」
そんなこと言われても、とロイドは思った。
クラトスがデリス・カーラーンへ旅立つまであと数日。最後の最後に我儘を聞いてくれるのは嬉しいが、同時に何だか悲しくなった。この人は最後まで自分に優しい。それが酷く今のロイドにとって残酷だった。
「ロイド?」
顔を覗きこんできたクラトスに気付いて、ロイドは顔を上げ笑顔を向ける。自分は今上手く笑えているだろうか。
ああ、きちんと息子の顔ができてますように──
「大丈夫だよ」
そっとその気持ちを伝えた。その言葉は緩やかな拒否だったのか、それとも遠慮した結果なのかは今でもわからない。
「父さんには、いろんなものをもらったから。それで十分」
そう言えばクラトスはただ「そうか」と呟いた。何も言わずに彼の胸にもたれ掛かれば、そっと頭を撫でられる。行動で甘えることならいくらでもできるのに。
「クラトス」になら我儘は言いやすかった。シルヴァラントで旅をしていた頃は、何か要求があれば遠慮なく彼に頼めた。素直にいろんなことが言えた。「クラトス」の前では自分はいつでも正直だった。
だけど結局最後まで「父さん」に我儘は言えなかった。甘えることはできたけど、本当のことは言えなかった。酷く自分は嘘つきだった。
『大丈夫だよ』
──全然大丈夫なわけ、ないのに。
どうしてあの時素直になれなかったんだろう。
どうしてあの時強がってしまったんだろう。
「ずっと隣りにいてください」
ただ我儘に、
そう言えばよかった。
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10/11/06