今回ばかりは絶対許してやらない、とアンナは心に誓った。激しく込み上げる怒りのまま目の前の男へ目掛けて不満を言い並べる。それは本気で思ってることだったり、大事だからこそ怒ることだったり、好きだからこそ気に入らなかったりすることで。あまり素直ではない彼女からは嘘も偽りもぽんぽんと口から飛び出した。心の中では怒っている自分をひどく否定するのだけれど。

自分を否定するのは罪を背負う人間の得意技でもある。



「もう……嫌よ!クラトスの馬鹿!へたれ!!この意気地なし!!」
「アンナ…落ち着け……」
「もう、何で貴方はいつもそうなの!!一人でそうやって決めて!!考え込んで!どうして私に相談してくれなかったの!!」
「すまない……しかし私についてくるとなるとお前は……」
「私が貴方についていく?冗談じゃない!!私が貴方を連れていくのよ!!優柔不断な貴方を連れて、無理矢理逃げるって私が決めたの!」

突然、クラトスが目を見開いた。アンナの発言が意外すぎたのだろう。それにかまわずアンナは叫ぶ。いつまにか瞳からは涙が零れて、自分が惨めに思えてきた。しかし今はなりふり構っている場合ではない。

とことん自分自身を否定しはじめる彼に言わなくてはいけない。すべて自分が悪いのだと、決めてふさぎこむ彼を怒らなくてはいけない。彼女だって人のことは言えない。だけれどクラトスを最後の男性と決めたとき、彼女はしっかり覚悟を決めているのだ。自分の辛さも相手の辛さも半分にして、一緒に背負っていくと。

「………頼って欲しいのよ……」


嗚咽と共に流れた言葉はまっさらで素直な感情の証。あまのじゃくな自分の性格をすべて無視した正直すぎるこの思いは、クラトスを想っている証拠。


「……すまない」
「謝らないで」
「すま……」
「だー!!もういいわよ!!」
「……」

背を向けてしゃっくりをあげる小さな体を、クラトスはおずおずと後ろから抱き締めた。彼女が少しだけ震えて、体を強張らせる。先程まで怒声をあげていた彼女は何処へ行ったのか。クラトスの目の前には相変わらず子供のように泣く弱い存在しかなかった。

「何故、泣く」
「うるさい」
「………私が悪かった」
「ええ、貴方が悪い」
「………」
「…………ふ」

アンナが少しだけ目に涙を溜めながらも笑った。それに少し安心したであろうクラトスは腕に力をこめてくる。「この抱き付き魔」、といつもの照れ隠しのセリフがアンナから涙と共に零れ落ちた。

「仲直り、しようか」

耳元で聞こえる優しいその声は、もちろんクラトスのもの。いつも彼女は思うのだが、彼の声は結婚してから甘くなったような気がする。もしかしたらそう聞こえるだけなのかもしれないけれど。

「……馬鹿じゃないの」

そう言いつつ、彼のその一言で簡単に許してしまう自分が一番甘い、と彼女は笑いながらそう思った。


でも好きなんです。

嫌よ嫌よも好きのうち



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テーマ「人外ファンタジー」
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