教会の鐘がなった。


わいわいと人々が騒いでいるのが聞こえる。おめでとう、おめでとう、そう口々に言われているのは黒いタキシードを着た新郎さんと純白のドレスを身に纏った新婦さん。二人とも幸せそうに微笑んで彼らのまわりに集まる人々に「ありがとう」と何度も返してた。腕を絡ませている夫婦は目を合わせてはにかむ。私はそんな二人と大勢を何メートルも遠くから見ていた。実際普通の人間なら人だかりしか見えない距離なんだけど、私はもう人間じゃないから新郎新婦の幸せそうな顔までしっかりと見える。見たくないものまで、見える。

「おいコレット!」

ふいに愛しいその声がして、振り返ると予想通りの人物がいた。彼は鷲色の髪を揺らしながら私に駆け寄って、その大きな瞳を不思議そうに私に向ける。

「こんなところで何してるんだ?いきなり宿からいなくなるからみんなびっくりしてたぞ」
「うん、ごめんね」

少し舌をだして私は悪戯っぽく謝った。違う。悪戯っぽく見せて謝った。実際は全然そんな気分じゃない。羨ましい、妬ましい、憎い、そう訴えるこの感情。みんなが思うほど私はいい子じゃないし人を妬むことも憎むこともある。たぶんロイドは私のこんな黒い感情、一生気付かないだろうな。

「何でここにきたんだ?」
「あのね、あれを見てたの」

私が何メートルも向こうにある人だかりを指差せば、彼の瞳がそれを追う。あまりに遠い場所にあるそれにロイドは一瞬顔をしかめたがすぐに「ああ」と気付いたふうに言った。

「結婚式か」
「うん。そうだよ」
「もっと近くで見なくていいのか?見たいんだろ?」
「別にいいの」

私には程遠いものだからこの距離でいいの。


もちろん後者は口にだしてない。私がにっこり笑って「ロイド、もう行こう?」と言えば彼は首を傾げたけれどすぐにうなずいた。たぶんお昼ご飯だから私を呼びにきたんだと思う。だったら彼だって早く宿に戻って昼食をとりたいはずだ。

予想通り「腹減ったー」と呟いた彼は私より先に宿へ向かって歩き出した。そんな彼に苦笑して、もう一度結婚式が行われている教会へ目を向ける。相変わらず新郎新婦は幸せそうにへらへら笑ってた。

「…お幸せに」

ぽつり、とひとつ呟いて私はロイドに追い付くために駆け出す。最後に呟いた言葉は思ったより酷く冷たく聞こえた。


こうやって世界は
私と反比例するように
私と関係ないところで
幸せになっていく。



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