「すまない、今のは嘘だ」

そうクラトスが言えばロイドはふり返って、きょとんと彼を見つめた。ベッドに座り剣の手入れをするクラトスはとくにいつもと変わった所はない。紡がれた言葉も淡々としていて目線はロイドではなく、剣を向いている。

「世界が統合されたら…誰も犠牲にならない世界だけが欲しいって話か?」

思い浮かぶのはそれしかない。ロイドがそう言えばクラトスはゆるゆるとかぶりをふった。じゃあ何だ、と目線でうったえればようやくクラトスの瞳がこちらを向いて静かな声でこう呟く。

「それしかいらない、という部分だ」
「…?」
「ロイド、こっちに来なさい」


よくわからないがとりあえずクラトスの指示に従い、ロイドは彼に歩みよる。彼はベッドに腰掛けているから、自然とロイドを見上げる形となり、ロイドは慣れない位置関係にわずかに動揺した。優越感よりも下から見つめられている羞恥心の方が断然勝る。そんな内心穏やかではないロイドとは裏腹に、クラトスは普段とあまり変わらない表情でロイドに告げた。

「いいか、ロイド。一度しか言わないからな」
「へ?ああ、うん」


言っている意味もわからないまま、ロイドは生返事をする。するとクラトスは彼の腕を優しく引き寄せて、細身の体を力強く抱きしめた。まわされた腕に力がこもる。クラトスの左手はロイドの後頭部へ添えられ、くしゃりと梳くように撫でられた。当然ロイドは目を見開き予想外の展開に、あうあうと口を動かす。

「ク、クラトス!?あ、あの………」
「私は、」

一度言葉をくぎり耳元でその言葉が──ロイドへと囁かれる。

『       』

さらりと告げられたその言葉にロイドは顔を真っ赤に染めた。

「あああああああ、アンタ、よくそんな恥ずかしいこと言えるな!!」
「恥ずかしいもなにも…」

事実なのだが、とクラトスは困ったように微笑む。

「…クラトスって案外……抱き付き魔だよな……」
「お前にだけだ」

''新しいこの世界に何を望むか''

そう問われれば、クラトスにとって答えなど一つしかないからだ。



『お前がいれば後はなんでもいい』


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