※管理人にしては珍しくがちほもです←






オレ達のクラトスはあんなことしない。

オレに剣を向けたりしない。

裏切ったアイツはクラトスとは別人だ──


いつしかロイドは、自分にそう言い聞かせて精神を保っていた。

言い方を変えれば現実逃避。

もちろん心の奥底では真実を認めていた。自分に剣を向け、背を向けた彼こそがまさしくクラトスだ、と。むしろ今までロイドに対して師のように厳しく、そして兄のように優しかったクラトスが偽者だ。ロイドを他の仲間より特別気にかけて、ロイドにだけ向けたあの微笑みは、信用を得るための偽りの仮面だったのだ。

ちゃんと知ってる。

知ってるけど。


…あまりにも自分は、彼のことが大好きだったから。


「あれ」


だから街中で「クラトスによく似た背中」を見たときも、躊躇なく後をつけた。
実際にはクラトスなのだからなおさらロイドは追いかけた。

別人、別人。

あいつは俺たちの仲間だったクラトスじゃない。

だから追いかけるんだ。

あのクルシスの天使を問いただして、どうしてこんな所にいるのか聞き出すためだ。


そう、言い聞かせながら。



* * *


「…ここらへんだと思ったんだけど」


すぐに後を追いかけたのだがロイドは見事にクラトスを見失ってしまい、気がつけば薄暗い路地裏にたどり着いていた。人気は全くなく、街の喧騒もあまり聞こえない。今思えばこんな路地裏にクラトスが来るわけがなかった。

見間違い…か…?

たしかに、あの鷲色の髪が見えたのだけど。



「……帰ろ」


ふう、と溜息をつき前髪をかきあげた。自分でも気がつかないほど、何故か神経を使っていたようだ。

クラトスに会えるかも、なんて期待なんかしてない。

ただ、敵と対偶するという緊張だけで「もしかしたらあの日のクラトスがいるかも」何て思って…ない。


だからロイドは急速に襲ってきた疲労を「安堵」でごまかした。正直、落胆しているのは言うまでもない。


もう一度息をはき、踵を返す。もともと自分は買い物当番だったのだ。さっさと済ませて、クラトスのことなんか寝て忘れよう──





「…随分、隙だらけのようだな」




懐かしいその低い声にロイドの思考がとまる。俯きがちだった目線をゆるゆると上に向けると、やはり懐かしい鷲色がいた。仲間だったころのとはちがう、白い騎士団服。しかし目も声も雰囲気もロイドが慕っていたころのクラトスそのものだった。



「クラ……トス…」


驚きのあまり、剣をとるのも忘れて茫然と彼を見つめる。リアルタイムに彼のことを考えていただけに、「お約束」な展開についていけない。


「ど……どうして…アンタ、ここにいるんだよ!!まさかつけてきたのか!?」
「つけてきたのはお前だろう」
「ああ……そうか……って、ななななな、何で……」

表情がめまぐるしく変わり、相変わらず冷静さに欠けるロイドを見てクラトスは呆れたように溜息をついた。


「…お前が私を追跡しているのは気配で気がついていた。撒くのは容易かったが……自分から路地裏に入っていったからな。まんまとお前は罠に引っ掛かったわけだ」

「わ…な……?」


つまりクラトスはわざと、自分をここにおびき寄せたというのか。後からついてくる自分と距離を保ち、かつ行方をくらまして──この路地裏につれてきた、と。

「先に言っておくが、別にお前をおびき寄せるためにこの街を歩いていたわけではない。今回は本当にたまたまだ。…追跡されていることには、正直かなり驚いた」


しかし、それでは一つ気になることがあった。たしかに彼が気配に敏感であることは知っている。しかし、ロイドが彼を追跡している間、クラトスは一度も後ろを振り返っていなかった。なのに……

「……どうして、オレってわかったんだ?」


その問いにたいしてクラトスは、答えない。急に訪れた沈黙に、ロイドは訝しげに彼を見つめた。相手が自分の敵であることは既に忘却の彼方である。


ふ、とクラトスがロイドに向かって足を進めた。

近付いてくるクラトスに心臓がどきり、と跳ね上がる。魔法をかけられたわけでもないのに、体が上手く言うことをきかない。剣をとるのも忘れて、ずるずると後退りをすればロイドの背中にとん、とコンクリートの壁があたった。


「あ………う」


逃げ場を失ったロイドは視線を泳がせるが、この状況では無駄なあがきである。そうこうしているうちにクラトスがロイドを追い詰めるように壁に片手をついた。

今まで経験したことがない至近距離に、思わずロイドは頬を染める。おずおずと彼を見上げれば、深い色の瞳と目があった。敵を見据える眼光ではなく……もっと情熱的な瞳だった。


あれ。

オレ、男相手に
何でこんなに照れてるんだろ。



「く……らとす……」
「私が、」

一度、息をつきクラトスは掠れた声で囁いた。


「私が…お前を間違えるわけがない」


ぽかん、とクラトスを見つめるロイドだったが、その言葉の意味を理解したとたん顔が真っ赤に染まる。


「な………っ」


なんだろう。
今日は気分がおかしい。
オレも…クラトスも。


自分は「彼とよく似た背中」を追ってきたはずだ。 実際、クラトスに変わりはないけど、あれだけ優しかった彼が自分を裏切った現実を認められなかったから。いつかオレのクラトスが戻ってくる。だからユグドラシルに頭を下げる「奴」はクラトスじゃあないって──


じゃあ、こいつは誰だ?

見たこともない熱い目線でオレをみつめるこいつは……クラトス、なのか?





「…っ……」

ゆっくりと彼の指がロイドの顎を捕らえて、上に向かせる。
嫌でもその瞳と目があって、背筋が甘く痺れた。

「ロイド…」



ゆっくりと端整な顔が近付いてきて、さすがに何をされるかロイドにもわかった。拒絶というより、単なる照れで顎をひくが、追いかけるようにクラトスが体を密着させてくる。


互いの熱い吐息があたって目眩がする、キスまで約2センチの距離。


ふ、とクラトスの背中越しにビルとビルの間から空が見えた。こんな状況でロイドはその青色を綺麗だ、と思った。まるでクラトスの背に映える、蒼い羽みたいだ──と。


街の喧騒も聞こえなくなる。そして視界の青色も霞み、彼以外何も見えなくなった。


「クラトス、」


今目の前にいる彼が果たして「仲間のクラトス」なのか、「敵のクラトス」なのか。


さっぱりわからなかったけれど、ただロイドは求めるように、愛しいその名前を呼んだ。


++++++

これが本当の
やまなし
おちなし
いみなし 笑

10/11/16


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