ひょっとしてあれは恋だったのではないか、と聞かれればロイドは首を傾げたくなる。理由は単純にして明快、彼の恋人になりたいわけではなかったからだ。たしかに彼を誰かにとられるのは嫌だったし、女性にしろ男性にしろ彼が自分以外の人物に微笑んでいれば多少なりとも独占欲がわいた。だがその微笑みの対象が母であれば話は別で。むしろ母を一途に想い続ける彼がどうしようもなく好きなのも事実だ。


だからあの感情は、ある意味「恋」ではなかった気がする、とロイドは思った。

今思えば自分と彼は「好きだ」の「愛してる」だの言い合うのは数えるほどしかなかった。というかそれがはたして「一人の人間として」だったのかも怪しい。わざわざ確認する必要もなかったし、確かに自分は彼を父として、師として、そして一人の人間として愛していたのだからそれだけで十分だと思った。

彼と離れた今では少しだけ後悔してみたりもする。あの日のキスの理由を聞いておけばよかった、と。


『ロイド』


ふと彼に名前を呼ばれた気がして真上を見つめるが白い雲がただゆらゆらと流れているだけだった。空耳だと分かっていてもいちいち頭上を見上げる自分にロイドは苦笑する。愛しそうに自分を見下ろす彼の微笑みが、まだそこにある気がして上を見上げてしまうのだ。

(…変な癖、ついちまったじゃねーか)

せめて、自分が彼を見上げる必要がなくなるまで隣りにいて欲しかった。この背が彼に追い付いて、ちゃんと親離れできるまで一緒にいてくれればこんな癖もつかなかったし、こんなにも彼を恋しく思う必要もなかったのだ。



今でもあの感情が恋だったのかわからない。
ただ言えることは、きっとその想いは「恋」なんて言葉じゃ表せないほど複雑で、どうしようもないくらい深い愛だったということだ。


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10/11/02
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