幸福というのは意地悪で、やってきたと思えばすぐに去っていく。目の前に見えるのに手を伸ばしても届かない。もしそれが気が遠くなるほど離れていたならば諦めもついたはずなのに、時節視界に入るものだから厄介だ。


無茶をしてでも、手に入れたくなる。


「オレ幸せだよ、父さん」


そう、幸せ。たぶん幸せなんだ。だから今まで傷付いてきたぶんまで笑ってみせた。そしたら彼も笑った。苦笑いだったけど。


肩に寄り添って、手を重ねて、傷付けないよう心にそっと触れる。幸せだよ。幸せだよ。そう言いながら、どうして自分は泣いてるんだろう。


「父さん」
「ああ」
「オレ、本当に幸せなんだよ」
「………ああ」
「何で泣けてくるのか、わかんねえんだ」
「ああ」


ただうなずくクラトスにロイドは体重を預ける。彼の肩に頬をすり寄せるようにすれば、クラトスの大きなてのひらがロイドの頭に触れて、優しく引き寄せた。クラトスはその鷲色の髪に顔を埋めて目を閉じる。


「わかってる」
「……うん」
「私は、ちゃんとわかってるから」


囁くようにいった言葉を聞いてどちらからともなく指を絡め合う。この手を離してはいけない。何度もそう思ったけれど、結局それは叶わない。


「でもやっぱりオレは幸せだよ」


──父さんと母さんが望んだ世界がつくれるから

だからこそエクスフィア回収の旅が果たして自分のしたいことなのか、しなくちゃいけないことなのか。それさえもロイドには分らなくなっていた。



──ああ、本当
幸せって意地悪だ。


遠くにあればそれに惑わされ、そばににあれば甘えてしまうから。


「なあ、クラトス」
「うん?」



ぽつりと呟けばクラトスが優しい声音で返事をし、ロイドを覗き込んだ。親指でロイドの目尻を撫でながら、今まで見たことのなかったような微笑みを見せる。


あ、

今すげえ抱き付きたい。


本能的にそう思ったけれど、あえてロイドは目尻に溜まった涙をふいて、繋いだ手をほどいた。

今抱き付けば
きっと彼も自分も
互いを離してやれなくなる。


「呼んだだけだよ」



そう言ったら結局、抱き締められたんだけどさ。


* * *



決してそばにはないけれど淋しくなって空を見上れば、いつでも愛しい青色で彼の温さを感じていられる。頬に涙が伝った日も、空が雨を降らすから全部誤魔化してくれる。あの日、彼が目尻を撫でるフリをして──涙をそっと親指ですくってくれたように。


だから幸せはいつも
優しくて意地悪で
恋しくて

何かクラトスとそっくりだな、とロイドはそっと苦笑した。


+++++++++

10/11/13
修正 10/12/29
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