はっと気付いたときに迫り来る後悔。至近距離にあるその鋭い鷲色の瞳と目線がかち合った。鋭い、というのはあくまで目の形であって、視線は至極柔らかいものだった。睨むというより、目を細めてじっとロイドを見つめているクラトス。ふにゃり、とロイドを脱力感が襲い、強く掴まれていたクラトスの襟がゆるゆると解かれていく。冷静さを少しずつ取り戻すたびに、溢れそうになる涙を堪えてロイドは呼吸を整えた。さんざん罵声を上げたロイドは、呼吸が荒い。
「ご、めん」
下を見て呟いた。
後ろめたさに相手の顔を見れなかった。
自分の愚かさに気付くのはいつも、大事な人を傷付けてしまった後だ。
どうしてもっと
大人になれないのかな。
ロイドは本気でそう思った。
「ロイド」
柔らかい声がしてロイドが顔をあげれば、いつものように頭を撫でられる。小さい頃からのクラトスの癖が、今はこんなにも苦しい。自分がまだまだ子供だと見せつけられているようで。
「や…めろよ」
半分の照れと半分の居心地の悪さでクラトスの手を払おうとしたロイドは、その手の向こうにあるクラトスの表情を見てしまった。
言葉が、出なかった
自分が大人になれない理由がわかった。本能が警告しているのだ。
大人になれば
この人は離れていくから。
隣りになんていてくれないから。
「おとうさん」
「……っ!?」
先程の歪んだ微笑みとはうってかわって、クラトスが動揺した顔を見せる。
ああ思い出した、何も知らない無邪気な幼少期、自分はこの人をそう呼んでいたんだ。
お と う さ ん
「すきだよ」
──離れる決意なんてしなくていい。
アンタもオレも。
本当はそう言いたかったが、中途半端に成長したロイドの心が、それを拒んだ。
大人になんてなりたくない。
だけど
この人を「好きだ」と感じるこの想いは紛れもなく、大人になろうとしている自分のものだから。
* * *
不器用な彼の愛がわからなかったわけじゃない。ただ、戸惑っていただけだ。彼の愛情と自分の成長に。
だからこそ、すべてが歪んで見える反抗期が過ぎ去った時、この瞳は
本当に綺麗な「蒼色」の空を映し出した。
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20101127