ひどく、その感情は昔と似ていた。触れた指先が熱くて、くらりと目眩がする。子供の体温はこんなにも高かっただろうか。否、自分の体が勝手に熱くなっているのだ。
「クラトス?」
やめろ。そんな目をするな。``あの人``と同じ表情で呼ぶな。
「どうしたんだよ?急に」
不思議そうに顔を近付ける彼に余裕がなくなる。嗚呼どうして。こんなにも同じなのか。仕草も言葉も、あの日のまま一切変わってはいない──
``彼女``を自分の弱さのせいで失ったとき、クラトスはどんな罰でも受けると心に決めてはいたが。この罰はあまりにも彼には重すぎた。
(もう一度私に繰り返せというのか──)
彼女の純潔を奪った、あの日を。
【罪か罰か】
「なあ…クラトス、暑いって」
腕の中でもぞもぞと動く彼をクラトスは再び強く抱き締めた。途端にロイドの頬が朱に染まる。こんな細かい癖までこの子はアンナに似てしまったのだな、とクラトスは複雑な感情を抱いた。
「なっ……何か今日のアンタ変だぞ?熱でもあるんじゃないのか?」
「熱…か」
たしかに熱はあるのだが、とクラトスは心の中で呟く。もちろん、ロイドの言った意味のものではない。もし、そうだとしたらどれだけ嬉しいか。この衝動を、欲望を風邪によって生まれてしまった単なる気の迷いで片付けられたら。
``彼女に似ているから思わず手を出してしまった''と言い訳できたら良かったのに。
「私に熱があったとしたら、お前は冷ましてくれるのか?」
「…よくわかんねえけど。アンタがオレに看病してほしいっていうならオレはするぜ?」
やはり彼はちがう意味で返答をする。こんな無垢な少年に穏やかならぬ感情を抱く自分をクラトスは激しく嫌悪した。同時に彼に対する愛しさが込み上げて。何が何だかわからない感情で、ぐちゃぐちゃになる。
(ああ…わかった)
アンナに似ているから好きなのではなく。
好きだから、アンナと重ねてしまうのだ。
ロイドを愛しいと思うたびに彼女を思いだしてしまうのだ。
『クラトス?』
きょとん、と見上げる可憐な彼女を欲望のまま組み敷いて。沸き上がる熱情に体と脳がついていかなくて。本能のままに彼女を抱き締めて、狂わせて、愛したあの日。
破爪の痛みに泣き叫ぶ彼女を見て自分は──
(きっと…これが私の罰なのだな……)
ロイドの笑顔を見れば、彼女の涙を思い出す。ロイドの言動すべてが彼女にリンクしてしまうこの病気こそ一生逃れられない彼女からの束縛なのだ。
「クラトス?」
相変わらず彼女と同じ目で見上げてくる彼に苦笑し、クラトスは頭を撫でてやる。
そうだ。あの日自分も言ったではないか。痛みに震える彼女を抱き締めて『もう一生、お前を離してやれないかもしれない』と。
(……束縛しているのは私の方だった)
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果たしてこれは罪か罰か。
自分の首を自分で締めてるクラトス。実際のところアンナさんには旦那に対する独占欲とかないと思う。保護欲100%