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「………ウソつき………」



完全にクラトスの気配が消えたあと、俺は両足を抱え込んで静かに呟いた。
クラトスはいつもウソつきだ。
帰る場所が俺の所しかないなんて嘘だ。
そうやって、すぐ何処かへ行ってしまうくせに。
もうすぐ、この地からもいなくなるくせに。



もう、一人にしない。


そうクラトスは俺に言ってくれた。
過去に侵した失敗を償うように。何度も、何度も。
一人にしないと言って、オリジンの解放で彼は死ぬつもりだったし、あげくのはてに最後の最後で
また俺を一人にする。


「いやだ…………」


離れるなんて嫌だ。


素直すぎるその言葉は涙になって頬を落ちる。


やっと世界を統合して
やっとやっとクラトスが帰ってきたのに
またすぐに別れがやってくる。
まるで傍にいるほうが間違いみたいに。
次の別れがおそらく、最後の別れだ。
これを迎えれば間違いなく一生会えない。
俺とクラトスは命の尺度も違う。
たとえクラトスが帰ってきたとしても、巡り合うことは必然的に不可能だ。



「クラトスの、馬鹿ぁ……」


しゃっくりをあげて、俺は泣いた。
どれだけ泣きついたとしても、どれだけ止めたとしても
クラトスはきっと意志は曲げない。
俺の思いは届かない。
何物にも捉われない、強靭な克己心。
それがクラトスという人間だ。
そこを含めて俺は彼を好きになったから。



…離れてた13年はちっとも寂しくなかったのに。
一度その暖かさに触れてしまった俺は、本当の意味で一人になる。
クラトスが敵だと初めて知ったときみたいに。


だから彼が俺に笑うたび、優しく見つめるたびに、俺は何度も口に出してしまいそうになるんだ。


一人にしないで、と。




「…………………」


さっきクラトスが俺の耳元にかけた小さな花を手にとった。
まるで誰かの笑顔みたいな色をして、俺を見つめる小さな花。
風がふくとそよそよと揺れて、可愛く首を傾げているみたいだった。
こんないい天気なのに、何で泣いてるのかって…………



「やっぱり俺には似合わないよ」



俺は苦笑しながら、その花を墓にそっと置いた。
クラトスが見つめる花は、母さんだけでいい。
俺には、似合わない。
こんな自分のことしか考えていない、ガキな俺には。



大きく伸びをしてから俺は立ち上がった。
東からは太陽が顔を出して、今日もこれから暑い1日が始まる。
クラトスと過ごせる、最後の夏だった。


そのせいかいつもは目につかない景色が悲しい程綺麗で、俺はまた涙腺がゆるみそうになる。
鮮やかな今年の自然の色を、俺は一生忘れないだろう。
大好きな人を求めれない分、たくさん思い出作るんだ。
夏が終わってしまえば秋空がクラトスを連れ去ってしまうから。




「すきだよ」







もう一生言うことはない言葉は、目眩がするほど綺麗な青い空が吸い取ってしまった。










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そんな罪な男に恋してしまったロイド君。






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