「俺は………………」
なんと言えばいい。
なんと言えば、自分の気持ちが相手に伝わる?
複雑なこの本心をどうやって言葉にしたらいいのだろう。
そう困ったとき、ピンと張った意識の中、ロイドの中のすべてが1筋の糸となった。
墓石を背にしてコレットと隣どうしになっているので、母親の姿は見えない。だが、後ろから伝わってくる、何か大切なこと。おそらくこれが、母親として最もロイドに伝えたかった言葉。
何て言えばいい。
そんなの知らない。
でも。
生きている特権が、自分にはあるではないか。
「――――――――……」
自分の中で、すべての時が止まった。
思考の端で鳥がチュンチュンと鳴いている声が聞こえる。二人に降り注がれる太陽は心なしかいつもより暑く、そうかまだお天道様が見てるなあ何て思いながらロイドは静かに唇を彼女から離した。互いの微かな息遣いを感じる2センチの距離で止まったまま、ロイドは口を開く。逃げようとしたコレットの両頬を優しく拘束しながら。
「………………好き、だ」
その一言だけで、よかったんだ。
腕をそのまま彼女の背中へ回す。サラリとした金の髪が、風と共にふわりと揺れた。
優しい鼓動と体温が胸に伝わってくる。ほら、こんなにたくさんの「大切」を自分に教えてくれる人なのに。
こんな簡単なこと、どうして言えなかったんだろう。
「………いいの?」
コレットが震えた声で尋ねる。うつむいたままの彼女の表情はよく見えない。
ただその声は、何だか涙を含んでいた。
これじゃあさっきの自分と逆じゃないか、とロイドはこっそり呆れながら笑う。コレットも案外、泣き虫なのかもしれない。
「ロイドの好きと私の好きの意味、一緒だと思っていいの?」
「……一緒だよ」
耳元で笑いながら小さく囁いてやる。ぎゅ、と強く抱き締めればコレットが息を飲んだ。おずおずと服の裾を掴んできた小さな手は、求めるようにそれでも遠慮がちにロイドの背中をはった。
「きっと、ずっと前から一緒だったんだ」
この墓石での思い出が走馬灯のように蘇ってきた。
母が地面に埋まっているなんて信じれなくて、ただそこに手をついたまま現実を疑っていた頃。
それでも母に似合う花を毎日備えた。
笑ってくれたあの顔を忘れないように、彼女に似た淡いピンクの小さな花を。
彼女の顔を忘れてしまっても、同じ花を毎日備えて母を思った。そして今日みたいに青い空を見上げて父を思った。
好きな子に泣き顔を見られたくない。そんな単純な理由でジーニアスと喧嘩したあとの避難所はいつもここで。
でもそんなとき、必ずその子は来てしまう。
物音にふりかえれば優しい少女が、にぱっと笑っていつもそこに立っている。結局避難所なんて関係なかった。むしろ自分は彼女の隣でしか泣いてなかったような気もする。
「コレットの心は、今どこにある?」
腕を緩めて、ロイドはコレットと向き合った。俯いていた彼女が顔をあげた。本気で泣いている彼女も綺麗だった。一度は失った涙だからこそ、その価値にロイドまで泣きそうになる。
真珠の粒のような涙を、ポロポロと流しながら彼女は笑った。
当たり前の伝え方もできてなかったのだと、その時改めて痛感した。
絶対、今日見たことを忘れませんように。
万が一、自分が忘れてしまっても、今ここで見ている母が教えてくれますように。
もう後悔しませんように。
「私は――――」
その続きの言葉がきっと、
泣き虫ロイドを一生強くしていく。
(^∇^)イイワケ
更新停止中なのに、何やってんだお前という意見がほとんどかと………(2012年03月03日現在)
いろいろと理由があるのですあまり突っ込まないであげてくださいお願いしますごめんなさいうわああああ!;
テイルズNLアンソロジー企画してくださった素晴らしい主催者様ありがとうございました!