いつも、自分は「間違えた」と言っていた父親。
暴走したミトスを止めもせず、だからといって心から賛同することもせず、見てみぬフリをしていたことを悔やんでいる気持ちはわかる。
もう一度あのときに戻れれば、なんて思う気持ちもわかる。
クラトスがなんとかしておけば犠牲は起こらなかった。それは事実だ。



「だから俺は、本来なら生まれるはずじゃなかったんだ・・・・・・・・」


ふと気づけば、クラトスが犯した間違いの延長線上に自分がいた。
言葉にはしなかったがずっと大好きだった人の、後悔の結果が自分だった。
もちろんクラトスはそんな風にロイドを思っていないことくらい、わかっている。わかっていても一度そう考えればその考えは頭を離れなかった。
自分の命の重さにおしつぶされそうになった。
それと引き換えになった犠牲の数に目眩がした。
そんなことまわりにいえるはずもなく、結局は自問自答をし、無言の母に語ることぐらいしか対処法が見つからない。本人に聞く勇気もない。聞いたところで、さみしそうに笑われて、優しく頭を撫でられるに決まっている。
その想いが頭を巡れば巡るほど、素直に言葉を口にだせなくなった。
のどまで出てきた何千もの言葉を飲み込んだ。


「ロイド、それは違うよ」


うなずいていただけだったコレットが、はじめて思いを告げた。
まわされた腕に力が込められたので、ロイドは静かに瞳を閉じる。
温かな、その体。
どんなに恰好悪い自分でも、無条件に抱きしめてくれる彼女は、昔からなんら変わらない感触でロイドを包んだ。

「クラトスさん、そんなひどいこと思ってないよ」
「・・・・・・わからないぞ、そんなこと」
「だってパパだもん、クラトスさん」

予想外の答えにロイドが目をまるくして振り返れば、すぐそばでコレットが笑っていた。
ゆっくりロイドの背中に擦り寄るように頬をあて、優しく言葉を紡ぐ。


「こんなにやさしい人の、パパだもん。」


びゅうっと強い風が吹いた。
墓石にそなえてあった花が優しく花弁を散らす。
頭上に舞い上がる花びらをロイドはぼんやりと見上げて、そして瞳を細めて空を見上げた。
もう見えるわけがない父親の姿。
探すこともできなくなった、彼の想い。
離れ離れだった15年以上のありったけ愛を、あんな形でしかもらうことができなかったけれど。



じわり、と涙でにじんだ空にロイドはつぶやいた。


「おれ・・・・生まれてこれてよかった・・・・・・」


しゃっくりをあげながらでもちゃんと言葉にした。

もう言葉は届かないことはわかっている。
だけど、言いたかった。
言わなきゃいけないことだと、思った。





「・・・・・あんたが父さんで・・・・本当はすっげえ嬉しかったんだぞ・・・・・ばーかっ!」




*****





「うふふー」
「……なんだよ」
「何かね、昔思い出しちゃって」


ロイドは若干拗ねたように、真っ赤にした鼻をすんすんと鳴らしながら、コレットを見た。
彼女それに顔を綻ばせると、ロイドの肩にもたれかかる。


「ロイド、ちっちゃいころジーニアスと喧嘩して、よくここで泣いてたでしょ。それを慰めにきてたのを、思い出したの」
「あー……そういえばそうだったっけ…」
「うん。いっつも、お母様のお墓の前で、泣いてたよね」



何だかそれが照れ臭くて、ぽりぽりと人差し指で頬をかきながら、ロイドは赤くなった。
コレットは随分前からロイドの隣にいる。
思えば泣いた回数は自分の方が多かったかもしれない。
そう言った意味では、コレットは自分よりずっと強いとロイドは思っていた。コレットは何があっても、ずっと笑っていられるからだ。だからこそ、その笑顔に隠された傷を誰もが気付いてやれない。その可愛らしい笑顔は、時に嘘を語る。しかも大抵、ロイドのために。



「だからね……私、お母様にちょっとヤキモチやいてたの」
「え?」
「だってロイド、お母様の前なら格好つけないから。お母様だけ、ロイドの本心知ってズルいなあ……って」


そうでしょ?と、寂しげに笑いながら首を傾げる彼女に、ロイドは唖然としたその瞬間。
再び強い風が吹いた。
舞い上がる彼女の小麦の髪と、慌ててそれを抑えようとする彼女の小さな悲鳴。その一秒が、何故かロイドの中でいろんなごちゃごちゃしていたしがらみが無くなって。






「ろ、………ロイド……?」
「コレット」


気がつけば、地面に手をついてコレットに迫っていた。
真っ赤になって口をぱくぱくしている可愛らしい顔を、ロイドは真顔でのぞきこむ。額と額をゆっくり重ねた。



「俺の本心、知りたい?」


静かに、低く問い掛ければ、さらにコレットが赤くなった。突拍子もないロイドの行動に半分の照れと戸惑いを表情に浮かべて、彼女はこくりと頷いた。
ロイドが目を細める。その表情はやはりどことなく、クラトスの面影を残していて。


「俺の心はさ、」


人差し指でコレットの心臓のあたりを優しくノックした。きょとん、とコレットはそれを見つめ、視線をそのままあげてロイドを無垢な瞳で見上げる。人形のような大きな瞳の長い睫毛が、太陽の光をのせて煌めいた。


「いつだって、ここにあるよ」


だってそこしか居場所がない。


普段の天真爛漫なそれとは違う、優しい微笑みをロイドは浮かべた。口元を緩めて、コレットに笑いかける。それに対して彼女は、くちをあけたまま、真っ赤になって震えていた。ただでさえ大きな瞳を、さらに丸くして。
しかし、急に彼女はうつむいてしまう。何事かとロイドが様子を見ていると彼女は顔を真っ赤にしたまま、きっと顔を上げて彼女らしくなく声も張ってロイドに畳み掛けた。


「そんなんじゃ、やだ!!」
「えっ……」
「もっとハッキリ言って?クラトスさんに言えなかった分、しっかり私には思ってるコト伝えて欲しいよ」
「…………」


緊張した面持ちで自分を見上げるコレットに、ロイドは驚いた表情のまま目をぱちぱちと動かした。
コレットの態度には驚いた。でもそれ以上に、コレットの言っていることが正論すぎて驚いた。
確かに自分はハッキリ何かを公言することを避けていた。曖昧なまま、いつだって適当なまま。だって本当に思っていることを口にすればキリがない。とくに相手が大事な人であればあるほど、その思いが複雑すぎて、上手く伝えることができない。
父親にはそれができなかった。
どの言葉が一番最適なのか、わからなかった。





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