「…よし決めた!」

ロイドがパチンと携帯を閉じて、ベッドの上で立ち上がる。そんな彼をゼロスとクラトスは黙って見上げ、続きの言葉を待った。


「今日一日、俺がゼロスの面倒見てやるよ!!」
「………え?」
「そう言うと思った」


宣言したのがロイド。首を傾げたのがゼロス。溜息まじりに笑ったのがクラトスだ。

面倒を、見る?


ゼロスはロイドのことばを復唱する。ぽかん、と彼を見つめてみるがロイドの瞳は父親の方を向いていた。


「部長には今日休むってメールしておいたから大丈夫だぜ。だから父さんは家のこと気にしないでいいよ」
「すまないな」
「いいって!仕事頑張れよ!」


人懐っこい笑顔を向けたロイドにクラトスは小さく笑い、視線をゼロスへと向けた。途端にどきんとゼロスの心臓が跳ね、若干上目使いになってしまう。何だ。何事だ。自分をどうする気だ。


「な、なんだよお父様」
「………ロイドを頼んだぞ」


優しい声音で紡がれた言葉にゼロスは「はあ?」と怪訝そうな顔をする。しかし次の瞬間、彼にくしゃくしゃと頭を撫でられると目をまんまるにしてその場に固まってしまった。見下ろされる視線は優しくて、紅色の髪に時節絡む細い指はどこまでも心地いい。手の平の温さも直にゼロスへと伝わり、思わず顔を赤くして目線を右下へずらした。

「………子供扱いかよ……」
「私にとってはまだまだ子供の年齢だからな」


ふふ、と笑った彼は二度軽くぽんぽんとゼロスの頭を優しく叩き、手を戻した。何故かそれを名残惜しく思い、ゼロスはクラトスの手を目で追ってしまう。それこそ子供っぽいのだが。


(何か調子狂うなー…)


わけのわからない気持ちがもやもやと胸をざわつかせる。何かおかしい気がするのだ。それは礼儀正しいロイドを見たときとひどく似ている気分。こいつらってこんな奴だっけ?と己に問い掛けるが、初対面の彼らの本性などわかるわけがない。ただ自分は先程のクラトスと全く同じ言葉を、随分前に誰かに言われたような気がするのだ。


『ロイドを頼んだぞ』


………ああそうだ。雪が降ってたのはあの時だ。


「いってきます」


クラトスの言葉にはっと我に帰り顔をあげれば既にクラトスは部屋を出ていた。閉まったドアの向こうから、トントンと彼が階段を下るスリッパの音が微かに聞こえる。ロイドは「いってらっしゃい!」と大きな声で、ドアの向こう側へと声をかけ、ぴょんとベッドから飛び降りた。


「ぬお!?びびった、急に飛び降りるなって!」
「あ、ごめん」


相変わらず癖毛の鷲色の髪をゆらゆらと揺らして、彼はへらりと笑う。ゼロスが少し拗ねた顔をすれば「んな顔するなってー」と頬を抓ってきた。

「い、いひゃい」
「それにしても無駄に可愛い顔してんなー本当に人間か?」
「………っ、おい、男に向かって変なこというなよお前!」
「ははっ、でも本当に美人だからさ!」


わけわがわからない。


へらへらと笑う少年をじとりと睨んで溜息をついた。なんだこのガキは。クラトスもそうだが何かペースが乱される。せめて相手が女であれば扱いやすいのに――――


「あ」


ゼロスが素頓狂な声を上げる。ん?とロイドにきょとんと見つめられるが、気にしない。そうだ。思い出した。貴族階級の女性の顔がひとり、ふたり浮かんでは消える。

「俺………相当な女好きだったかも……」
「ええっ!?そうなのか!?」
「あ…いや、違う。……何かをキッカケにやめたんだよ…」


そのへんの記憶があやふやだった。はて。何だったのか。金さえ貰えれば相手が男であろうと寝ていた自分は、何をきっかけにやめた?



「…………駄目だ。わからない…」



頭を抱えて唸ってみるがそれ以上は思い出せない。よくわからないが、自分は大切な何かを忘れている。根拠は、ない。





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