本当あいつって謎なやつなんだ。
いっつも冷静で慌てたりしないし、無口だし笑った顔もみせない。そんでむちゃくちゃ強い。何か強そうな技もバンバンだすし、なっがい詠唱の難しい魔法もスラスラだしてくる。たぶん俺達が見てきた技や魔法はほんのわずかで、本当は町ひとつ破滅しちゃうくらいすっげー魔法だせるんじゃないかな。…さすがに大げさか。でもある程度加減しながら旅してるからなあ、あいつ。だってガチに必死に戦ってるアイツ、見たことねえもん。だからいっつも5割くらい…いや3割の力しかだしてねえと思うんだ。

最初は余裕ぶってるアイツに俺だってムカついたよ。だけど余裕ぶってるわけじゃないんだ。すべて計算して、体力を温存してるんだって最近気付いた。余裕ぶってるんじゃなくて、本当に余裕をもって戦ってるんだ。それは俺とアイツにある経験の差をみれば当たり前のことだった。あいつは俺と違って一生懸命じゃない。俺みたいに取り乱したりもしない。いつも真剣だけどちゃんと心にゆとりを持ってて、常に「自分」が意識の中にある。


だけどさ、たまに見えなくなるんだ。



あいつの心の色が。













「………風呂、空いたぞ」


聞き慣れたその低い声に俺は手元から顔をあげて、首だけ後ろに振り返った。


「お。了解、じゃあ俺も入ろうっと」

明日はいよいよ旅の最終地。
救いの塔。


剣をいつも以上に念入りに手入れしていた俺はその双剣をベットの脇に立て掛けて、立ち上がった。
クラトスが気をきかせて用意してくれていたバスタオルをひっつかんで、バスルームに直行


しようとしたんだけど……



「っあ……う…!?」


クラトスの隣を通りすぎるか、すぎないかで右腕を捕まれた。

ぎょ、っとして振り替えると片手で俺を引き寄せた無言のクラトスがこちらを凝視している。はっきり言って顔がめちゃめちゃ怖い。お、俺この数分で何か悪いことしてねえよなっ!?……え、…タオル?用意してくれてたのにお礼言わなかったから……?いやいやいや、そんなどっかの母親みたいな真似は……いや…まさか………



「…な……なん、…?」

おそるおそる問い掛けた俺に、クラトスは意外な言葉を発した。



「大丈夫か」





「はい??」

俺を覗き込むその綺麗な顔に思わず素っ頓狂な声を返す。心なしかその瞳は俺に気を使ってるような、もしくは心配してくれているような色が………あるようにも見えたけど、実際のところはよくわからない。


「大丈夫って……何が?」
「………寝不足」


痛いところをつかれてどきっとした俺の目尻にクラトスの親指が触れて、さらに心臓がはね上がった。滅多に触れてこないクラトスの指は、風呂上がりが影響したのか暖かくて柔らかく、目の下をゆっくりとなぞっていく。

つか

どうしたんだよ、こいついきなり。



「くま、できてる……?」
「うっすらな」
「そ……そか……」


こういう時のお決まりというか、やっぱり挙動不審になるのが俺の癖だ。なんだろうな。コレットとかジーニアスなら普段から抱きついたりじゃれあったりできんのに。クラトスだと何かものすごく恥ずかしい。今だってほら、
抱きつくはおろか、指の先が触れてるだけなのに。

………………

男相手に何をどきまぎしてるんだか。

クラトスは仲間であって、そりゃ友達っていうより師匠って言葉が似合うけど。

俺には兄貴がいないから、なんだかんだ言ってこの人を慕ってただけ。



「就寝する時間はいつも私と同じだっただろう」
「……………」
「それなら、…横になってからまた余計なことを一人で考えていたのか?」
「………余計なことなんかじゃねえよ」


少し拗ねたように見上げればクラトスが呆れたようにため息をついた。その指が目尻から離れるのを目線で見送ってから深い色の目をじっと見つめてみる。こころなしか細められたそれは、俺に続きの言葉を要求しているように見えた。

「………何か………あんま実感わかなくて」
「実感?」
「この旅が終わる実感だよ。明日で終わるわけだろ?どんな結果でも」


もちろん思い描く明日は世界再生を成功させて、シルヴァランドに繁栄をもたらす未来だ。だけど万が一、万が一のことがあったとしてもこの旅は終わるわけで。そんなこと考えたくもないけど、それが現実だ。


「それでずっと考えてた。本当にヤバい状況においやられたとき、一番に………何を優先させようかって」
「それで……何にすることになったのだ」


「 コレットだよ 」



当たり前と言えば当たり前のことたが、やっぱり俺は彼女を優先させることにした。もし万が一、この命がなくなったとしても、コレットが生きていてくれたら悔いなどない。ともかく、死ぬなら目的がほしかった。コレットに命を捧げる、それが俺の「義務」ではなく「権利」だと気付いたとき、俺の決心は固まったのだ。

もうあいつをなくしたくない―――――


そう、心から思えるから。



「…………」

クラトスが不自然に黙り込んだ。

もしかして呆れているのだろうか。少し意外だった。「何を今さら、当たり前だろう」なんて無表情のまま言われるかと思っていたのに。普段はうざったいそれだけど、それも今日で終わりかと思えば少しだけ惜しい気もした。


「あ、でも心配すんなよ!今日はちゃんと寝るから!」
「…………」

「だからアンタも明日はよろしくな」


クラトスの妙な反応は適当に流した。もしかしたら心配かけちゃったかな。こいつ意外に気にするから。それも何故か俺にだけ過保護だし。……失言だったかな、死ぬ覚悟の話は。


捕まれていた腕もいつのまにか離されていたので、俺は黙り込むクラトスをその場において、バスルームへ行くことにした。風呂から上がったらこの気まずい空気もなんとかなっているだろう。そうぼんやり考えがら、木製のドアノブに手をかけ、右にまわしてドアを中へ押した。


「ロイド、待て」


まだ何かあるのか。


いい加減うんざりして俺は後ろを振り返って



直後に顔を真っ赤にして前を向いた。





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