「………あれ……マジでどこだよ……携帯……」

掛け布団を両手で押し退け、ベッドの上から這い出て来た人物に彼は目を丸くした。未だ夢うつつなその「少年」は目を擦りながら大あくびをする。寝癖のある鷲色の髪をふわふわと揺らし、だらりとTシャツの襟元が肩から下がっている少年は鬼でも蛇でもなくただの子供だった。



「………あ」


思わず声を出した彼に、少年は顔をあげぼうっと紅色の彼を見つめていた。どうやら寝ぼけているらしく数秒間、言葉のない見つめあいが続く。


「………よお」

痺れをきらした彼が少年に向けて声をかけると少年はぱちりと瞬きをして、ゆっくりと彼の姿を上から下まで眺めた。大きな瞳が上下に揺れ、最後に彼の綺麗な水色の瞳をじっと見つめる。きょとん、とした表情からどうやら少年は今何が起きているのか理解できていないようだった。


しかし、だんだんと事の重大さに気付いたのだろう。自分の部屋に知らない男がいる。しかも何故かガン見されてる。少年はわなわなと体を揺らし、彼を指差した。


「だ…………誰だ、アンタ………!!」
「それはこっちの台詞だっつうの………」


彼は溜息をつきながら、掴んでいた剣の柄から手を離した。相手から殺気は感じられない。それどころか相当驚き、自分に怯えているようだった。掛け布団を腰まで引っ張りあげ、慌ただしくベッドの上で後退する少年はぎゃあぎゃあと騒ぎだした。弱い犬ほどよく吠える。まさにその通りだ。

「ふ、ふざけんな!!不法侵入だぞ不法侵入!!しかもコスプレなんてしやがって!!」
「んなこと言われたって俺サマ起きたらここだったんだもーん。つうかコスプレじゃねえよ」
「はあ?コスプレだろ!だいたいなあ……そんな真っ赤な髪あるわけ」


トントン、



ドアが叩かれた音に、少年は言葉を止めて音の根源へと首を動した。つられて彼もそちらを見つめる。ドアの向こうから誰かがこちらへ言葉を投げ掛けているようだ。


「ロイド。そろそろ起きなさい。今日は部活ではなかったのか?」
「と、父さん!!」


少年が叫びに近い声を出す。どうやらドアの向こう側にいる男は少年の父親のようだ。


「それどころじゃねえんだよ!!し、知らねえ奴が部屋に………」
「おいおい人を不審者扱いすんなって!!」
「………何事だ?」


ガチャリ、とドアノブを回す音がしてその男が顔を覗かせた。少年と同じ鷲色の髪を揺らしている男を、息を飲んで見つめる。鷲色の前髪から覗く鋭い瞳は、たしかに自分をしっかりと射抜いていた。


「………わあお、男前」


思わず正直な感想が零れるとその青年は目をまるくし、照れたように目線をずらす。彼は少年と違い、かなりおとなしく肝の座った性格のようだ。第一知らない男が息子の部屋にいるのにここまで落ち着いているのは珍しい。


「…………ロイド。友達を泊めていたなら先に言いなさい。別に私は怒らないから」


前言撤回。
ただの天然ボケだ。


「と、友達じゃねえよ!こんなやつ!!!」
「そうなんだよお父様。俺サマも何が起きてるかさあっぱりわかんねえんだよねー気がついたらここで寝ててさ」
「……そうなのか?」


小首を傾げる動作もやはり天性のもの。自分が女だったらきっとこういうのを「一目惚れの瞬間」とか言うんだろうな、と頭の端で呟いた。







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