彼の足音が
やけにリアルに脳内に反響した。
彼がリビングから出て行ったのを確認して、私はその場にへたりこむ。
「い……………今の」
指先で自分の唇を撫でて、呆然と私は空を見つめた。頭の中をものすごい勢いで情報が飛び交っている中、心の片隅でただ冷静にわかることがある。
どんなに優しくても
どんなに寡黙でも
どんなに変り者でも
彼は「男」で―――――
「馬鹿」
思わず、顔を両手で隠した。彼がリビングから出ていってくれて本当によかった。顔から火が出るほど真っ赤になった私は耳まで赤くなっちゃったりして。ついでに瞳も潤んじゃったりして。吐いた熱い息は、羞恥に震えていた。脳裏に浮ぶのは囚われそうになる、あの深い瞳。
体の奥から恥ずかしさとか愛しさとか憎らしさが全部溢れそうになる。
本当彼はずるい。
クラトスのくせに。
クラトスのくせに格好いいなんて卑怯だ。
どくん、どくん、どくん
脈打つ速さは恋の証。
多分私は、完全に彼にいろんなものを持っていかれてる。
窓からふわりと風が吹いても熱は、冷めそうにもない。鳥の優しい囀りが聞こえて私は顔をあげ、窓から外の景色を覗いた。温い朝の光は、木々の朝露を煌めかせ、大空をそっと包みこんでいる。窓から見える景色が、一瞬にして輝きに変わったのは、私が変わったからかしら。それとも彼のせい?
「けだもの……」
負け惜しみのように、ぐだぐだ呟いた。
声は、震えてしまったけれど。
どうやら私は
心の随まで
貴方の色に染まっているらしい。
END
書いててとてつもなく恥ずかしかった。
あ、中へ続きます。