世界再生の旅 壁ごしの会話




「………」


また、目が覚めた。


何度も夜中に目を覚ましてしまう自分に暗闇の中でクラトスは少々うんざりしながら溜息をついた。浅い眠りゆえにしょうがないことだが、やはり面倒くさい。一度でいいからロイドのようにぐっすり熟睡してみたいものだ。隣りのベッドで呆れてしまうほど壊滅的な寝相で爆睡している息子が少し羨ましくなった。まあロイド本人はまだ息子だなんて気付いてないわけだが。全く誰に似たのだ………何て言わずともわかるか。

いつものようにしばらくぼうっと両目を開いたまま静かに呼吸をし、天井の染みを無意識のうちに数えながら次の眠りのタイミングをさがしていた。が。耳に入ってきたその音で一気に覚醒し、思わず息をのんで耳を澄す。

ざらざらとした表面の白い宿屋の壁からは、`普通の人間なら`静寂しか発しない。断続して聞こえるそのおとは聞き取るにはあまりにも小さく、そして微かなものだった。ベッドから降りた彼は無音でたたずむ壁に寄り掛かり背中をつけて静かに瞳を閉じる。音だけでなく気配にすら敏感な彼は「彼女」が壁を挟んですぐ隣りで座りこんでいることがすぐにわかっていた。


「神子」


独り言のよう呟けば、音は止まる。


「眠れないのか」


なるべく優しく問い掛けてやった。相手はまだ状況に馴染めずにいる少女なのだ。表面上、世界再生の旅が始まってからいろいろまわり気を使ってお気楽なフリをしているようだが、「神子」に関することには未だ馴染めていないはずだ。


「ごめんなさい……起こしちゃいましたか?」

彼女には似合わない、震えた声がする。これまた必死に強がっているようだが、言い終えた後のしゃっくりですべて明らかになってしまった。


「………………」
「…えへへ。ごめんなさい。何でもないんです、何でも」


背中の壁ごしに聞こえてくる彼女がすすり泣く声。その痛々しい音にクラトスは瞳を閉じたまま「そうか」とだけ呟いた。


壊れゆく世界の代償は、あまりにも大きかった。
 

2011/09/03 17:55



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