最期 *1






唐突だがこの物語はここで終わった。
彼らの物語は始まりがあまりにも遅すぎたからだ。
そのくせ最終回は同じようにやってくる。
だから彼は起承転結の流れを崩さないように、もっとはやく動くべきだった。
だがしかし人間というものは普段から死というものを真面目に考えない。
いや、考えないように出来ているのだ。
だから「1日1日を大切に生きよう」という言葉があるのだ。







「………うそ……だろ…………」


ロイドは唖然とその端整な顔を見つめた。


ベッドに横たわる彼の瞳は閉じられていて、微かに聞こえる寝息さえも気配を感じさせないほどか細い。
傍らにロイドが立っても気付かない事実が、彼の異変を強調させた。
窓から入るそよ風が、眠りにつく人物の前髪を揺らし、赤みのかかった髪色が優しく日光の色を映し出す。こんなときに限って天気は良かった。もうすぐ春が訪れようとしていた。



「嘘じゃない。……クラトスさんは、お前に黙ってたんだ。いつか、必ずこうなるって」


ロイドの隣でダイクが静かにつぶやく。震える息子をじっと見つめていた彼もまた、その原因である彼の実父に視線を移した。
神に創られし造形とはこのことを言うのだろう。
女性を思わせるそのきめ細かい肌や、影を落とす長い睫毛、そのすべてがロイドの父親の姿である。
口には出さなかったが、もう誰にも渡したくないくらいに綺麗だった父。

しかしこんなにも容姿端麗な彼だというのに、彼は決して慢らなかった。というか、自分自身にあまり興味がなさそうに見えた。そこがまた不思議で、同時にロイドの心を引き付けた。父親として、また一人の人間として、彼の「人となり」が好きだった。



「クラトス………………」



彼の名前を読んでも、返事をしない。こんなに気持ちよさそうに眠ってるのに、彼があともう数日の命だなんて。



「どうしてだよ……」


約束したのに。

もう離れないって。


今度こそ一人にしないって―――――



眠る天使はそれでも天使なのだろう。
まるで愛しい誰かの夢を見ているように、穏やかな表情をして眠っていた。

 

2012/02/12 22:34



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