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【一次名前変換SS】



*00.『愛されるだけのヒロイズム』

 夢のようだと、思う。
 愛されて愛されて愛されて、誰からも疎まれず嫌われずただただ甘ったるい自分だけに都合の良い世界。
 嫌われ夢?復讐?トリップ?成り代わり?逆ハーレム程に心地好いものは物足りないならそれも良いかも知れないわ。
 傍観してるだけで愛されてしまえる魅力的な女の子なら羨ましい。嫌われても結局は本命と結ばれて恨まれないなら素晴らしい。
 復讐が目的でも恋愛出来るなら悪くない。トリップなんて下らないこの世の中から抜け出せる好機!
 努力しないでその世界の可愛くて綺麗で愛される女の子に変われるならなんて楽なのかしら。
 自分が正しくて皆、可愛がってくれるし、嫌われない。だって、これは夢なのだからいくらでも都合はつくし、有り得ないと言われても夢なんだもん!
 例えその夢の主人公が虚構でも本来なら居ない存在でも自分とかけ離れて感情移入出来なくても、私は夢の物語を好む。
 転生、まぁ!生まれ変わりで記憶を保てるなんてロマンチック。最強ヒロインだなんて、ねぇ?
 誰よりも可愛くて強くて大好きで綺麗で愛されるだけの容姿、性格。語る言葉は全て正しくて、同じような境遇の女の子なんて目じゃないの。
 平凡な女の子も好ましい。平凡な一生懸命の女の子は王子様を待つだけで結ばれる。何度か会話を交わして、頑張って告白したら必ず結ばれるんだもの!
 恋する女の子は頑張れば好きな人と恋人になれる。みんなは健気だねと相談にのってくれるし、助けてもらえる。
 意地悪されたり古典的なライバルと言う当て馬もスパイスでしかない。耐えていれば気づいてくれて、肝心な時には颯爽と救ってもらえる。

 なのに、なのに。だ。
 どうして私の恋は、実らなかったのか。それが不思議で、不可解で、やっぱり分からない。
 念願の神様とやらに好きな世界でちゃんとハーレム補正も最強設定も容姿も性格も全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部、愛される為に愛されて好きになってもらえる為に変えたのに!
 ほら、可愛い顔だ。泣いてる今だって、絵になる位に。
 崩れ落ちる儚さは、思わず同性ですら抱き締めて慰めずにはいられない筈なのに。
 けれど弱さと共に併せ持つ凛とした強さは、綺麗で格好良くて、惹かれずにはいられない。

「…ぅ、して…!」

 それが何でかな。ぼろぼろ溢れて止まらない涙で目元は赤くなっちゃってさ。嗚咽で声すらまともに発せない。
 大好きで私を愛して守ってくれる仲間想いで優しくて格好良いのにちょっとひねくれた可愛いあの人は、私の事を、まるで可哀想な瞳で見つめて。
 すがり付く指を、ゆっくりと引き剥がす。

「…何で泣くんだよ」

 困惑と迷惑そうに告げられた言葉が痛い。貴方が泣かせたんだと思っても、綺麗で愛される性格の私はただゆるゆると首を振る。

「嘘だよね、」

 嘘だよね、嘘だよね嘘に、決まってる。私を驚かせるつもりだったのかな?えへへ、だったら本当にびっくりしちゃう!嫉妬させたかったんでしょ、もう…不安にさせないで?
 満面の笑顔で明るく振る舞えば、彼だってバレたかと笑ってくれるんだ。
 そう言い聞かせる私を嘲笑うようにこの愛される為の世界は、私を裏切った言葉を彼に言わせる。

「どうして俺がお前に嘘をつくんだよ。付き合ってる彼女が居るって言って、お前が泣く理由が分からないし、非難めいた目を向けられる意図も知らねーんだから」

 まるで俺が泣かせたみたいじゃないかよ、とぼやく彼は二人きりなのに誤解されたらどうすんだ。と続けた。
 誤解って何。だって貴方が好きなのは私なんじゃないの?意味が分からない分かりたくないのに、

「とにかく、俺の事は置いといて聞いたお前はどうなんだよ?彼氏とか、好きな奴が居るから俺に相談にきたんだろ?」

 優しく、聞き返す。私は頭がクラクラしてまともになれないのにきちんと補正は優等生の言葉を吐き出す。


「…うん、だから彼女が居るって言葉がびっくり…」

「失礼だな、つーか泣くほど衝撃的かよ…さすがに凹むぞ畜生」

 いつもと変わらず他愛ないやり取りを適当に切り上げた私は、誰も来ない学校の屋上で風に当たる事にした。
 不審そうにしてたけれど引き止められる事はない。そうよね。だって私は愛されていても彼女じゃないんだから。

 どんなに綺麗で可愛くて、最強の設定でも一番にはなれない。
 なぁんだ、なぁんだ!彼女が居るなんて、そんなの…私の中ではなかった事にしてたのに。

「……それでも、私が主人公でヒロインなら愛されて結ばれる世界にトリップさせてくれたんじゃないの?」

 好きな漫画の舞台で一人。私の味方である神様を責めるように呟いてみても神様から答えはない。
 見放されてしまったのだろうか、私の読んでいた素晴らしくて甘くてうっとりしてしまう物語にはこんな展開なんて、主人公のライバル位しか見た事がない。

 じゃあ何かしら。私はただの悪女で異質で幸せになれない踏み台とスパイスだけの存在だとでも言うのか。
 笑えない。
 このパターンならじゃあどこかに私の姿を傍観して冷ややかに見つめる女が居るのかしら、ああ。

「他人の不幸は甘いわよね…」

 一人。愛されて愛されるだけに相応しい存在は偽りだとするのなら、この世界でこの物語のヒロインにして主人公が現れても驚かないわ。
 思い通りになってくれない世界なら最初から期待させないで欲しかった。我が儘で自分勝手は承知の上だけど。
 これじゃあまりにも中途半端で滑稽じゃないの、悪いけれどそれに甘んじて泣き寝入りはしたくない。
 神様が私を見捨てたなら私はそれに反逆しても自由よね。
 自嘲した私の視界に、次いで狙ったかのように現れたのは見覚えのない女の子だった。


*01.『二次元しか愛せないから残念だよ』

 誰なのか、なんて聞くまでもないようにも思える。きっとこの女の子が新しい主人公なんだろう。

「はじめまして、こんにちは。」

 彼女が口を開く前に先手を打って、笑う。柔らかい笑顔で優しく笑う様は滑稽かしら。

「…こんにちは…」

 余り関心がなさそうにこちらを一瞥しただけで短く返した彼女は短くカットされている髪を軽く耳にかけて、探るように私の様子を伺う。

「菜々城…葉月さん、だね」
「えぇ、確かに私はそういうものだけど、貴女は?」

 確認した名前を確かめて。聞き返された質問に僅かに眉をしかめた。
 名乗る程の人間ではない。と告げて、それでも一応は答えるならばと自らの名前を答える。

「雨女結香…あなたと同じようにトリップしてきた女だ」

 とはいえ、僕はあなたのように望んだ訳でも、あなたをその座から引き摺り下ろす為に現れた訳でもないからね。と静かに続けた。
 ふぅん。僕女だ、初めて見るなぁ…どういうつもりで自分の事を僕と称するのだろうか。
 まぁ、さばさばした外見には似合っていたけれど、それにしたって不思議だわ。
 どうでも良かったんだけど。

「…そういう奇妙な眼で僕を見るなよ。女が僕と言う理由なんて特に深い意味もないもんだ、
 ……さっきも言ったように僕は望んでトリップしたんじゃないし、むしろ完全なるオタクで腐女子なんだから」

 カミングアウトをされた。
 オタクで腐女子!…それは…果たして夢主として相応しいのかしら。私なら読まないわね。
 興味は持つかもしれないとか思ったりしたものの、今の私には然程関係のない話題だ。何せ、その主人公の地位を揺るがされている事には違いないもの。

「…ねぇ、例えば貴女を殺したらこの世界は私の思い通りになるのかな」

 スカートとブレザーのポケットに何かしらの武器になるものはないかと探りながら呟けば、雨女は止めてよ!と引いた。

「RPGじゃないんだからさ、僕が仮にラスボスだとしても僕を殺したらあなたはもうただの人殺しの犯罪者だし、ハーレムだの主人公補正だの愛されだの関係なく終わりだ」

 それに簡単には殺せてもその後が大変だって事も分かれよ、と呆れたように言う彼女だけど、
 冗談でも殺すと告げた私に対する恐怖や警戒心はないのかしら。
 じっと見つめれば#name5#は私との距離を微妙に保った位置で警戒していた。あぁ、そうよね。良かった馬鹿じゃなくて。

「怖いんだけど、何、その笑顔」

「私、天然とか鈍感って苦手なの。無口クールならまだ許容範囲だけどぶっちゃけあれってただ無愛想で感じ悪いだけよね。女は可愛いげあってこそ。
 強かでなければやってらんないの。だから、貴女が私の苦手なタイプじゃなくて良かったって思って!」

 満面の笑顔で握手をする為に差しのばした手を雨女は明らかな拒否反応で眺め、ひきつった顔でとりあえず、そうなんだ。と目を逸らした。
 悪趣味だったかしら。
 でも…性格が良い女なんて居る訳がないでしょう?これはあくまで私の偏見と悪意に満ちた意見だけど。

「…僕は基本的に二次元しか愛せない体質にして性癖だから、きみが幾ら可愛かろうが萌え要素でリアル二次元女子っぽいキャラでも三次元だから好きになれないけど。
 …残念だな、あなたみたいなさらりと嫌みを言える可愛い女子は二次元なら愛でられたのに目の前に現実として存在されたらただ萎縮するだけだ。可愛いだけに惜しい」

 ……今度は私がドン引いた。いえ、確かに私もどちらかといえば二次元好きなオタクかも知れないんだけど腐女子ってあれよね?
 男同士を男女のように恋愛させて揚げ句の果てには女体化だの妊娠だのとか妄想する気持ち悪い思考の人達よね?
 何でもかんでも愛され乙女思考にさせて、それもう男の必要あるの?ってどこかの掲示板で読んだ気がするわ。
 それなのにこの女の子はなんて言った?二次元女子なら愛でられた?気持ち悪っ!!
 え?なにそれ、どういう回路を辿ってる訳。

「僕にしてみれば夢の方が理解出来ないし有り得ないんだけど。ただ自分の考えたオリジナルキャラと二次元キャラを恋愛させて酷いと夢主ハーレム最高!二次元キャラ?ただの踏み台でマンセー要員だけど好きだよ?ただしイケメンに限るとかさ、
 BLの男子夢主にしてもそうだけど、原作の世界に異物入れた上にキャラsageすんなって意見をよく見るね…まぁ僕は見ないし読まないけど最近よく見かける上に二次サイト回ってると大体大半がそういう夢ばっかりだから最近は二次BLより夢が流行ってんの?
 僕は流行りってよく分かんないから夢もうわべくらいの知識しか知らないんだが」

 その割には詳しいじゃないかとも思ったけれど、ここはスルーすべきかしら。
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