恋敵

保管庫(SB)


『君は、中立者?』 (ユダ+ゴウ)→ルカ+シヴァ

ルカに「お前達のものになる気はない!」と宣言され、二人一緒に振られてしまったユダとゴウ。しかし諦めの悪い二人によって、今でもルカをめぐる三角関係は続いている。
そしてこの日、語るも涙、聞くも涙の苦労と困難を乗り越え、ゴウはルカを二人っきりのお出かけに誘うことに成功した。所謂、デートである。
秋の下界。風情ある虫の声を聞きながら、月見と洒落込む二人。美しく輝く黄金の月に照らされて、ゴウとルカの心の距離は一層近付くことだろう。


の、はずだったのだが!
「なんでお前がここにいるんだユダー!?」
下界に光臨し、早速目的の丘まで足を伸ばしていたゴウ達の前に、彼は現れたのだ。しかも何故か、シヴァを伴って。
あんぐりと口を開けて遠慮なく指を差してくるゴウに、ユダは対照的な爽やかな笑みを浮かべた。いっそ清々しいほど親しげに手を上げて、二人に挨拶をする。
「やあ、ゴウ。そしてルカ。月見にはもってこいの夜だな。流石ゴウ、最高の月見になりそうだよ」
「なななな何故お前がここに」
「何故、とはどういうことだ?ゴウが誘ってくれたんだろ」
「何!?」
「ルカを月見に誘っているのだが、お前もどうだ、とな」
勿論、ゴウにそんな記憶はない。むしろばれないようにと必死に隠していたはずなのに、何故。
あまりの衝撃に、言葉が出ない。だがこのままでは、ルカとのデートは台無しだ。なんとかこの場を切り抜けられないかと必死に頭を悩ませるゴウに、背後のルカの「そうなのか?」という問いが届く。
反射的にゴウは否定しそうになった。まさか、俺はユダを誘っていない!ルカとの二人っきりのデートを俺がどれだけ楽しみにしていたことか!
しかし、そんなゴウの心の叫びが聞こえるはずもなく、ルカは愛らしい笑みを浮かべた。
「流石ゴウだな。ちゃんとユダにも声をかけるなんて」
「え」
「嬉しいよ、人数は多い方が楽しいし」
「い、いや…」
冷や汗が背中を伝う。そんなゴウに向けて、ユダの口から止めの一言が飛ばされる。
「全くだ。まあ、まさかゴウに限って抜け駆けなんて卑劣な真似、しないと俺は信じていたがな」
にやにや笑う彼によって、ゴウは逃げ道を塞がれた。


それぞれで持参した飲み物や食べ物をその場に並べ、月見は始まった。
開始早々、隅でこっそり話し込み始めたユダとゴウによって、ルカとシヴァは珍しくその肩を並べることになる。
「シヴァもよく来たな。お前もゴウに声をかけられたのか?それとも、ユダに?」
「どっちでもいいでしょ。ま、ユダが来るっていうから付いてきたのは確かだけどね」
ルカの隣に座りながらも、シヴァは簡単にそっぽを向く。つんつんしたその言い方に、だがルカは機嫌を損ねるようなことはなく「相変わらずみたいだな、シヴァは」と軽い笑い声を漏らした。
「何だよ、その馬鹿にしたような笑い。不愉快だよ」
「ああ、悪い。そんなつもりはないよ。思いがけずお前とこうやって話す機会が出来て、浮かれているのかもしれないな」
「…嫌味にしか聞こえないけど」
「それは困ったな。正直な気持ちなのだが」
拗ねるように唇を尖らせるシヴァ。上目遣いでルカを睨みながら、手の中のカップを煽る。
シヴァは全てを知っている。ユダが、ルカを好きなことも。そしてユダとゴウでルカを取り合っていることも。…ルカが、二人の告白を断ったことも。今日の月見について、ユダに情報をリークしたのも勿論シヴァだ。
シヴァとしては不本意なことこの上ない。何が悲しくて、ユダの恋の手助けをしているのだろう。
でも、ユダに幸せになってほしい、と最近思うことも確かで。
「……」
少し前までだったら、ユダの気持ちなんて無視して、ユダを自分のものにすることしか彼は考えなかっただろう。でも、最近はなんだか自分が変わってきたように思う。
そしてその変化は、ルカを中心とした例の三角関係を観察するようになってから起こったことだった。
「…なんで、ルカはユダを選ばないの」
ずっと不思議に思っていた疑問が、するりと唇の隙間から零れ出た。ルカが驚いたような顔で振り向く。
シヴァは熱心に自分のカップを見つめながら、言葉を繋げる。
「どう考えてもさ。絶対ゴウよりユダの方がいいじゃないか。優しいし、かっこいいし、強くて何でもできて誰からも好かれて。断然ユダの方が素敵な天使なのに、なんでルカはそんな悩んだの。しかもどっちも振っちゃってさ」
「……」
「僕には理解できない」
ルカの視線が地面に向く。視界の端でそれを捕らえながら、シヴァは思い出していた。
ユダはルカが好きだと言う。ゴウも、それは同じ。確かにゴウも優れた天使だが、ユダには敵わない。なのに、二人の求愛に深く沈みこみ、悩むルカの姿。
木陰からそれを見ていて、シヴァは何度思っただろう。どうして、なんで、何故、彼は悩むのか。そんな切なそうな顔で。
…自分が、変わったのは、ルカを見つめるように、なってからだ。
「…どっちも、大切だから、かな」
「え?」
耳を掠める優しい声に、シヴァは瞬きをする。
見れば、顔を上げたルカは、非常に穏やかな顔をしていた。シヴァに酷い言葉を投げられたはずなのに、その柔和な表情は一片の曇りもない。
シヴァの心臓が高鳴る。
「かっこいいとか優しいとか強いとか人気があるとか、そんなこと関係なしで、私は二人の何もかもが好きで、大切だ。でもそれは恋といえるようなものじゃない。そんな中途半端な気持ちで選んでしまえば、私はどちらも失うだろう。だから、選べなかった」
一つ一つ言葉を選ぶように、その唇の動きが何度も止まる。ルカは肩の荷を下ろしたかのようなすっきりした表情で、溜息をつき、そして眉を落としたまま笑う。
「まあそれでどちらも傷つけたくなくて、断る勇気も持てず悩んでしまったが。…でも、今となっては、やっぱりそれでよかったと思うよ」
迷いない瞳。赤の両目に、シヴァは吸いこまれるかと思った。
反応できないまま、ユダとゴウが戻ってくる。正気に戻ったシヴァが見た時、ルカはいつもの顔で戻ってきた二人に声をかけている。
そのまま四人は揃って月見を楽しんだ。
だけどシヴァは、ルカが気になって全然月どころじゃなかった。どきどきが止まらなくて、胸が苦しくなる。

シヴァはこの日、空に浮かぶ黄金の月ではなく、銀色の月のような存在だけを心に刻みつけた。





「恋敵シリーズ」三角関係続行バージョンエンド、の続きです。

まさかのシヴァ参戦!?Σ

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