ゴウルカ&ユダキラ15

保管庫(SB)


『大晦日の夜、貴方に幸せを』 ゴウルカ前提キラ→ルカ+ユダ〜特別な夜シリーズ11

「ルカはいいな」
唐突に聞こえたその言葉に、ルカはふと顔を上げる。机に向かっていたその姿勢を崩して後ろを振り向けば、中央に置かれたテーブルで頬杖をついているユダの後ろ姿が目に入った。
セイント学園ももう冬休みだ。年末年始に向けて実家に帰る生徒も多いこの時期、ユダとルカは寮の、ルカの部屋で冬休みの宿題を始めている。実家が近い二人は毎年ぎりぎりまで寮に残り、二人でその間に宿題を済ませてしまうのだ。
ルカはしばらくユダを見つめていたが、次の言葉が聞こえてこなかったので、こちらから問い返すことにする。
「突然どうした?ユダ」
「…いや、ルカはゴウに愛されているからいいなあ、と」
その返答は予想外だった。ルカは思わず椅子から滑り落ちそうになって、なんとか体勢を立て直す。微妙な顔で視線を彷徨わせ、なんとか口にしたのは「そうか?」という確認の言葉だった。
ユダはくるりと体をルカに向け、深く頷いて見せる。
「そうだろう。二人とも一緒にいる時が一番幸せそうだし、なんだかんだでゴウはお前を大切にしている。傍から見てもゴウのお前への愛は伝わってくるぞ」
「……ユダ、もしかしてキラと自分を比べているのか?」
「……」
なんとなく拗ねているような口調でユダが喋るので、ルカはもしや、と思ったことを尋ねた。するとユダは分かりやすく苦い顔で、そっぽを向く。
ルカはつい笑いを零した。
「何か、あったのか?」
キラとユダの交際を知ったのはクリスマス直前だった。ルカにとって思いがけないことではあったが、その時の二人の様子があまりにも和やかだったので、心から嬉しく思った。自分が大切に思っている人達が、愛する人を見つけて幸せであると分かって、ルカは本当喜んだのだ。
それ以来、ユダは特にその話題には触れなかったが、ルカが話を振れば大抵恥ずかしそうにしながらも笑顔を見せる。そんな気軽な仲だから、ユダもつい、本音を零したくなったのだろう。
そう思って聞けば、しかしユダは小さく首を横に振った。おや、とルカが思えば、視線を逸らしながらぽそぽそ唇を動かす。
「何かあったわけではないんだ。ただ…キラはあの通りの性格だから、大抵俺をからかって遊ぶし。愛されている、という実感より、楽しんでるなこいつ、と思うことが多いから。いいなあと思っただけだ」
ユダの顔に気弱な表情が浮かんだ。美しい横顔に浮かんだ影はいっそ儚げで、ルカは思わず「ああ、キラに見せたら喜びそうな顔だな」と思ってしまう。
ルカは知っている。ユダのこういう表情を目の当たりにした時の、キラの活き活きした笑顔を。
確かにユダの言う通り、キラはユダをよく苛めている。それは周囲の事情を知っているような友人達なら誰もが気付いている変化であって、誰もが知っていることである。キラはユダを特別に構う、と。
でも友人達の共通認識は「ああ、ユダって本当愛されているなあ」であるのルカは知っているし、ルカの認識もそれだ。つまり、キラの苛めはどう考えても愛情表現なのに、屈折しすぎてユダは不安に思うらしい。
だが確かに、ルカはそういう点で不安になったことはない。これもユダの言う通り、ゴウは確かに自分を大切にしてくれているから。
「…ルカみたいに素直に愛されてみたい」
「いや、ユダなんだかキャラ変わっていないか?」
突っ込んで、お互い顔を見合わせる。一瞬後には一緒に噴き出して、二人は大きな声で笑い合った。


「ゴウさんはいいなあ」
「…突然何だ、キラ」
うどんを挟んだ箸を持ち上げたまま、ゴウは不可解そうに眉を寄せた。キラはそのまま無言でラーメンの汁を一口、啜る。
冬休みに入った学校。その食堂は流石にがらがらで、聞けば今年の営業も今日が最後だという。そんな食堂に、午前いっぱい部活をしていたゴウは昼食を食べに来ていて、そしてどこからともなく現れたキラと何故か席を共にしている。不思議だ。
そんなキラが突然そんなことを言い出したので、ゴウはあからさまに警戒した。
キラはじっと自分に視線を注いでいるゴウに視線を戻し、スープを啜ったれんげを盆に戻すと、再び同じような言葉を口にする。ただし、先程は省略した部分を付け加えて。
「可愛い恋人のルカさんが素直に甘えてきてくれて、ゴウさんはいいなあ」
これは予想外だ。警戒していたはずなのに、ゴウは思いっきり不意打ちを食らって噴き出す。唾液が変な所に入ったのか大きく噎せながら、なんとか「は、はあ?」と涙目で顔を上げた。
「と、突然何なんだ」
「何って、そのまんまだろう?二人でいる時、どう見ても幸せそうだし。ああ、これは多分二人でいる時に抱きしめてもキスしても、それ以上しちゃったりしてもルカさんはきっと恥ずかしがらず抵抗もしないでゴウさんを受け入れるんだろうなあって感じの甘さがあるじゃん?いいじゃないか」
「お、お前なぁ!口を慎め!それに俺はそこまで節操なしではない!」
「そこまで、と言う当たり、それなりに欲に負けちゃったりするんだ?」
痛いところを突かれる。心当たりがそれなりにあったりするので、ゴウは思わず言葉に詰まった。キラはほら見たか、という得意げな顔で、ラーメンの最後のお楽しみ、チャーシューを口に放り込んだ。
「だから、それがいいなあってこと」
「はあ?」
ごちそうさまでした、と手を合わせて、キラは盆を脇に寄せる。と、思えばふいに机に頬杖をついて、はあ、と大きく溜息をついた。
「ユダさんってあの通りの人だろ?身持ち固いし、すごいストイック。だから俺が迫っても大抵恥ずかしがって逃げちゃうんだよねー。まあ三回に二回は無理やり雰囲気で流すけど、男としてはたまには恋人に可愛くおねだりされたくないか?こんなに好きなの、もしかして自分だけ?とか思うし」
成程、キラはキラなりに思う所があるらしい。言われて、確かにそういう不安を抱いたことはないな、とゴウも自分を振り返る。
だがゴウに言わせれば、お前達だって明らかに相思相愛だろう、というところだ。ユダは確かにキラの悪戯に困った顔をしているし、時に怒りもするが、キラが他に注意を払っている時は絶対、彼はキラだけを見つめている。熱が籠った視線は情熱的で、ゴウまで思わず切なくなる。
だから周りの共通認識は「ああ、キラって本当、愛されているなあ」だし、ゴウだってそう思う。
「ゴウさんみたいに素直に甘えられてみたいな」
「…いや、お前はその分苛めているだろうが」
まあね、とにやり笑うキラに、ゴウはずるずる脱力する。しかし浮かんでいるのは苦笑で、二人は顔を見合わせ、口元を緩めた。


「最近、思ったことがあるんだ」
白い息に混らせて、ルカはぽつりとそう零した。
うっかり人混みに掻き消されそうな小さな呟きだったが、ゴウはそれを上手く聞きとめて振り返る。
「何だ?」
「私は、幸せ者だなって」
ルカは真っ直ぐ前だけを見据えて、言う。その瞳は静かで、どこか遠くを見つめているようだった。
「大切な人達がいて、大好きな人達がいて。大切にしてくれてくれる人達がいて、大好きだと言ってくれる人達がいる。皆心から笑っていて、私も心から笑う。それって、とても幸せなことだと思うんだ」
大切な友人がいる。キラは自分を好きだと言ってくれたけど、自分はそれに応えられなかった。それでも彼はルカの気持ちを汲んでくれて、今、愛する人を見つけて、彼は笑っている。
大切な親友がいる。ユダはいつでも自分の傍にいて、いつでも自分の助けになってくれた。何も返せなくて申し訳ないと思うけれど、それでも彼は自分に笑いかけてくれて、彼も愛する人と笑い合っている。
大好きな人がいる。ゴウのことが本当に大好きで、ゴウも自分を好きだと言ってくれる。抱きしめてくれて、体温と共に愛情を伝えてくれる。彼が笑ってくれるから、今自分は笑っていられる。
大切な人達がいて、大好きな人達がいて。大切にしてくれてくれる人達がいて、大好きだと言ってくれる人達がいる。皆心から笑っていて、自分も心から笑う。皆が幸せで、自分は、なんて、幸せなんだろう。
大晦日の夜。新年を待ちわびる人波の中、ルカはゴウの手をそっと握った。その瞬間、厳かな鐘の音が聞こえ始めて、顔を上げる。除夜の鐘だ。
「年が、明ける」
漏れた独り言に、応えるようにゴウがルカの手を握り返す。それに気付いてゴウの表情を窺えば、思いがけず優しい眼差しとぶつかった。
「…ゴウ」
「俺も、最近思っていたんだ。自分は恵まれているなって」
「……」
「奇遇、だな」
鐘が鳴り続けている。もう少しで新年が始まる。ゴウとルカは見つめ合って、この一年を振り返った。
ルカにとって色々あった一年だった。だけど、それでも確かに最後の瞬間はこの上なく幸福で、本当。
「…本当、奇遇だな」
私は、幸せ者だ。





特別な夜シリーズ、堂々完結です!えーまだ一月も二月も三月もあるじゃん!バレンタインにホワイトデーに節分、雛祭りと色々あるじゃん!と自分でも突っ込んでますが予想外に切りがよかったので完結です!(んな適当な)

いえ、適当じゃないですよ?でもこのシリーズ、もともとはゴウルカ前提キラ→ルカで始まっているから、この三角関係が終わったら事実上終わりじゃん!?て気付いてしまったのですよ…しかも新年といういい区切りでこれだけすっきり四人が幸せになったので(ゴウルカは安定。キラユダもくっつき、ゴウルカ二人に交際がばれて、でも安定したよ!な段階=幸せ)、これは完結するのが一番いいだろうな、と。

よくよく考えればこれだけ長編でこれだけ短期間で完結したシリーズ、初じゃないだろうか…(笑)

ちなみにタイトルの「貴方」はこれを読んでくださっている皆様含めた「不特定多数の皆」を指します。どうぞよい一年をお過ごしください!

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