ゴウルカ&ユダキラ12

保管庫(SB)


『二度目の十五夜、貴方に告げられる』 ゴウルカ前提キラ→ルカ+ユダ〜特別な夜シリーズ8

夜、あの日と同じ満月が空に浮かんでいた。キラはそれをあの日と同じように窓越しに見つめて、そっと瞼を落とす。
ノートは開いたまま放置されていて、彼は手の中のペンを無造作に放り投げた。
七夕から数ヶ月。キラは確かにルカを諦めたが、気持ちはやはりそう簡単に切り替えられなかった。皆の前では何でもない顔をしてみせるが、ふと気を抜いた時に表情に陰が差す。それは自分でもどうしようもできなかったのだ。
「……」
ふう、と息を吐き出して、キラは結局ノートを閉じる。宿題があるにはあるが、どうしても気分が乗らなかった。特にこんな夜は。
「…月なんて、嫌いだ」
つい呟きが漏れる。
その時、部屋のドアがノックされる音が響く。キラが投げやりに返事をすれば、ゆっくり扉が開かれ、向こうから見慣れた姿が現れた。
ユダだ。
「…ユダさん」
無気力な顔をしたキラに、ユダは何とも言えない微笑を浮かべた。
「お邪魔、してもいいかな?」
「…どうぞ」
頷けば、ユダは遠慮がちに部屋へと足を踏み入れる。そして床に投げっぱなしにされていたノートに気付いた。
「…宿題進んでないみたいだな」
ユダが苦笑しながらノートを拾い上げれば、キラはそれをぼんやり眺めながら「気分が乗らないんですよ」と言い切った。
途端、ユダの表情が曇る。
「キラ。…最近、何かあったのか?」
「…と、言うと?」
「……」
問い返せば、ユダは黙り込む。言うか言わまいか悩んでいる様子だった。しかしキラが無言で視線を注いでいれば、諦めたようにユダは溜息をつく。
「…最近のお前は危なかっしくて見てられない…」
切なげに漏らされた言葉に、キラは無意識で首を傾げた。そんな分かりやすかったかな、と考えて、くっと皮肉的な笑いが零れる。
「危なかっしい、ねえ。そう見えます?」
「…多分、俺以外は気付いていないだろうがな」
「へえ」
よく俺のこと見てるんですね、とからかえば、ユダはまた黙る。キラはユダから視線を逸らして、なんだかどうでもいいな、と思った。
ずっとずっと秘めていた想い。第三者には誰も言わなかった想いが溢れ出すのが感じられる。
「…大好きな人がいたんですよ。愛しくて愛しくて仕方ない人が」
好きで好きで。…愛しくて。ずっと見つめていた。ずっと見つめていたかった。
「でも、その人は他の人のもので。それでも俺はその人が欲しくて。諦めないで奪ってやろうとした…だけど駄目だった。完全な失恋です」
自嘲が口元に浮かぶ。ユダはそうか、と静かに頷いた。
ここでキラは妙な確信を得た。
「ユダさん、誰か分かってるでしょう?俺の好きな人」
「……」
ユダは何も言わない。だがそれは、つまり肯定だ。ユダはルカに一番近い親友だから、気付いてしまったのだろう。
キラが天井を仰ぐ。月光と違って人工的な光が目に入って、思わず目を細めた。
「ユダさん、前言いましたよね。好きな人が幸せならそれでいいって。俺もそう思ったし今もそう思えるけれど、でもやっぱり駄目だ。…辛い」
好きな人の幸せそうな顔は嬉しい。でも、その喜びを感じると同時に意識せざるを得ない苦しみ。…辛くて仕方ない。
またユダからはそうかとかの相槌が返ってくるだろう、と予想すれば、耳にしたのはそっと息が漏れる音。
溜息をつかれるくらい呆れられたのかと思ってキラが視線をユダに戻せば、思いがけず思い詰めた顔をしている彼がそこにいて、キラは心底驚いた。
「キラ。…俺はお前に言っていないことがある」
「…なんですか」
「俺は、確かにお前に好きな相手が幸せそうであればそれでいいと言った。だがそれは、好きな相手が辛そうにしている時の悲しみを知っていたからなんだ」
唐突な話についていけず、キラは固まる。ユダは構わず話を続けた。
「自分の想いを自覚した時、お前は悩んだはずだ。お前は本当はとても…優しいから。その時のお前は今と同じくらい辛そうな顔をしていた」
「ゆ、ださん?」
「…その時も子供の日も母の日も父の日も七夕も、そして今も。俺はお前のそんな顔が悲しいんだ…俺はキラが、好きだから」
キラに衝撃が走る。そして彼は、あの七夕の日を思い出した。
ユダは好きな人がいるのだと言っていた。だけどその人には他に好きな人がいるのだとも。平気なのかと問い掛けたキラに、彼は「好きな人が幸せならそれでいい」と言っていた。…だから、今ユダは悲しいのだと言う。キラが辛そうだから、悲しいのだと。
「ユダさん…」
呆然とするキラに、ユダは微笑んで見せた。とても切なそうなその微笑に、キラの心臓が跳ねる。
「すまない、突然。本当は今のお前の状態を考えたら言うべきじゃないのは分かっていたんだ。…ただ、俺がそろそろ限界だった」
もう一度謝って、ユダは扉に足を向けた。このまま彼が立ち去る気なのだと気付いて、キラは反射的にその腕を伸ばす。
肩を捕まれて、ユダは驚きの表情で振り返った。
キラは真っ直ぐ、視線で彼の青い瞳を捉える。
「言い逃げ、する気ですか」
「…そうなるな」
ユダは睫毛を伏せて、また微笑んだ。その微笑みに、キラは胸がざわざわする。
ユダがキラを好きなのだと言う。それは、キラがルカを好きに想う気持ちと一緒なのだろう。
ユダはキラが幸せなら嬉しいと言う。そしてユダはキラが辛いなら悲しいと言う。
胸にすとんと落ちてきたユダの言葉に不思議な感覚を覚えて、キラは何故か少しずつ口元を緩めた。無意識に零れた笑いに、ユダが不審そうな顔をしたが、キラは自分を止められなかった。
幸せだなあ、と不思議と思えたのだ。それがどんなことを意味しているのか考えるまでもない。
「…ねえ、ユダさん。俺は確かにまだ前の恋を忘れ切れてないし、ユダさんをそんな風に見たこともなかった。…でも、ユダさんの気持ちが素直に嬉しいんだ」
ユダが大きく目を見張る。キラは予想通りのそれに自然と笑みを深めた。
「待ってもらえませんか。返事はまだはっきりできないから…勝手だし現金かもしれないけど。でも、貴方の気持ちは本当に嬉しいです」
真摯なキラの言葉に、ここでユダは初めて微笑を消した。彼は端正なその顔を歪めて、まるで泣き顔のようなそれで頷いた。キラはそれだけで何だか幸せだった。

キラにとって嫌悪の対象になっていた満月の夜を、彼は何となく好きになれそうだと思った。




やっとユダキラのターン!!

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