ゴウルカ&ユダキラ11

保管庫(SB)


『七夕の夜、貴方に微笑む』 ゴウルカ前提キラ→ルカ〜特別な夜シリーズ7

今日は七夕。イベント好きなセイント学園生徒はこの日、皆で大いに盛り上がろうと笹に飾り付けをしていた。
赤や黄色や青、中には金色の折り紙で作られた提灯まで飾られている。皆の顔は明るく、寮内には笑顔が満ち溢れていた。
そんな中、キラは配布された短冊を片手に暗い顔をしていた。


「ゴウ」
ベランダにいたゴウに声をかければ、彼は振り返って優しい顔をみせた。
ルカはそんな彼にやはり優しい微笑を浮かべて、その隣に並ぶ。先程のゴウを真似て空を見上げれば、満天の星空が見えた。
「晴れてよかったな。最近、雨続きだったから心配していたんだが」
ルカの言葉にゴウも頷く。瞬く星に二人は表情を和ませて、そして不意にゴウがルカに視線を下ろした。
「そういえば、短冊に何を書くのかルカは決めたのか?」
「…いや、実はどうしようか困っているんだ」
苦笑して、ルカは自分の手元を見る。そこには白紙のままの短冊が握られていた。
願い事がないわけでは、ない。ただ書きこむのに適切なものは何一つ思いつかなくて、ルカは肩を落とした。
今一番、真っ先に思いつく願いはキラのことだ。
ルカはゴウと付き合っている。ルカはゴウが好きで、ゴウもルカを好きだと言ってくれたから。それなのにキラはルカが好きなのだと言い、諦めないと言い切った。
キラのことは好きだ。ただそれは友情の範囲を超えるようなものでなく、ルカはキラの思いに答えることはきっと出来ない。
キラが諦めない、と言うのがつらい。ゴウにばれたら、ゴウに悲しい思いをさせたら、と考えるのも怖いし、それにキラを傷つけるしかできないことも分かっているから、つらい。
「……」
悲しそうな表情で黙りこむルカを、ゴウはじっと見つめる。しかし彼は言葉を発することなく、何でもないような表情をした。
ルカは精一杯の明るい顔で、ゴウに笑いかける。
「そう言うゴウは、一体どんな願い事を書くんだ?」
「ん?俺か?」
ここで、ゴウはふと穏やかな笑顔を見せた。ルカがそれに気付くと同時に、彼はまた星空を見上げてゆっくり口を開く。
「『ルカが、幸せそうにずっと笑っていますように』」
ルカは目を見開いた。ゴウは照れくさそうにルカへ視線を戻し、でもやっぱり恥ずかしさに耐えられなかったのか視線を逸らし、ルカの腕を引く。
そうしてルカを強く抱きしめた。
「俺は、ルカの笑顔が一番好きだからな。それを見られるだけで幸せなんだ」
「…ゴウ」
自分を包む温かさに、ルカはほっと安堵の息を漏らす。体から力が抜けて、彼もそっとゴウを抱きしめ返した。
そしてルカは小さく呟く。「それなら、ずっと私の傍にいてくれ」と。
「私は、ゴウが傍にいてくれるだけでこれ以上ないくらい幸せなんだ」
「…それなら、俺の願い事を『ルカとずっと一緒にいられますように』に変えないとな」
ゴウがくすくす笑う。つられてルカも笑う。二人は何とはなしに顔を近付け合って軽く唇を触れさせて、間近で見つめ合った。
ゴウの瞳が悪戯っぽく輝く。
「実は、最初からそう短冊に書きたかったんだ」
ルカはその言葉に、ただただ幸せそうに笑った。


幸せそうに抱き合う二人は、とても輝いて見えて、たまたまそれを見つけてしまったキラはつらそうに顔を逸らした。
なんで、あんな所を見てしまったのだろう。二人は普通なら見えないような死角にいたのに。この前もそう。父の日の夜、別に意識していたわけではなかったのに、ゴウに抱きついているルカを見つけてしまった。
本当に自分はルカが好きなんだと、再確認してしまった。無意識でルカの姿を探してしまうほど、本当にルカが好きなのだ。
だけど、それと同時に気付いた。ルカが好きなのはゴウだけなのだ。つらい時に頼れて、甘えられて、そして幸せそうな笑顔を見せられるのは彼にとってゴウだけなのだ。
なんで、あんな所を見てしまったのだろう。なんでそんなこと気付いてしまったのだろう。
七夕に浮かれている人々の中で、キラはふらふらと近くの椅子に腰を下ろす。悲しそうに細められている瞳は幼さを感じさせ、普段は大人びた表情をしている彼を年相応に見せる。
そんなキラに近付く影が一つあった。
「キラ」
優しい声に、キラはゆっくり顔を上げる。苦笑を浮かべるユダが視界に入った。
「…ユダさん」
「騒ぎすぎて、疲れたか?皆浮かれているからな」
ユダは飲み物が入ったカップをキラに手渡し、気遣うように笑いかける。隣の椅子に遠慮がちに腰掛け、彼は自分のカップに口をつけた。
呆然と、覇気のない様子でキラはそれを見つめ、そして渡されたカップの中に視線を落とす。ミルクティーだろうか。ベージュの液体に浮かぶ自分の顔は、情けない。
キラはゆっくり口を開いた。
「…願い事が、決まらないんだ」
つい最近なら、すぐにルカのことを書いた。ルカがこちらを見てくれるようになりますように、と。だけど今ではその願いを書くのが躊躇われる。自分が本当は何を望んでいるのか、分からない。
ぽつりと、本当に小さく呟かれた言葉だったが、ユダはしっかり聞き取ってくれたらしい。そうか、と静かな相槌が返される。
「…ユダさんは、なんて願い事を書いたんだ?」
「ん、俺か?俺は…」
そうして彼は、懐から自分の短冊を取り出した。几帳面そうな文字で何か書きこまれているのが分かるが、キラには少し遠くて内容までは分からない。
ユダは短冊を見て、ふと笑った。え、とキラが目を見開くと同時に、ユダの唇がゆっくり動く。
「『好きな人が、幸せでありますように』」
キラは今度こそ、これ以上ないくらい目を丸くした。唇が微かに震える。
「…好きな人が、いるのか?」
「ああ、いるよ。とても好きな人が」
あっさりとユダは頷く。静かなその表情は、寂しそうなのに満ち足りて見えた。
「…その人も、ユダさんが好きなのか?」
思わず問いかけた質問には、ユダは首を横に振る。「その人には他に好きな人がいるから」と彼は言う。
キラはそのユダの静かな優しい表情が、信じられなかった。
何故そんな顔が出来るのだろう。好きな人が自分を見ていないのが分かるのに。
何故そんな願い事が書けるのだろう。自分ではなく好きな人の幸せを何故願えるのだろう。
キラの表情から、察したのだろう。ユダは困ったように眉を落とした。
「俺は、別に好きな人と結ばれたいとは思わない。確かにその人が自分だけを見てくれたら、とても幸せだろうけど。…でも、それ以上にその人には幸せになってほしいんだ」
キラは信じられなかった。ユダがそんな満ち足りた表情をしているのが。
「その人が幸せであるなら、他の人を見つめていてもいいと、そう思えるんだ」
遠くからユダを呼ぶ声がする。ユダはキラに悪い、と告げてから、声がした方向に足を向けた。
人の波に紛れるユダの背中を見送りながら、キラは自分の短冊を握り締める。
今の自分の、願い事は。


ルカはベランダに一人でいた。ゴウは自分とルカの飲み物を取りに行ってくる、とその場を離れていた。
一人で美しい夜空を見上げていたルカは、ふいに後ろに人の気配を感じて振り返る。そして目に入ったその姿に、無意識に瞳を揺らした。
「キラ…」
ルカが目の前のキラの名を呼ぶ。不安で胸をいっぱいにし、彼は自分の腕を反対の手で掴んだ。
しかしキラは、いつもと違って静かな表情をしていた。伏せがちなその瞳は穏やかで、ルカは困惑で眉を顰める。
「…キラ?」
キラはゆっくり視線を上げて、ルカを見つめた。そして彼は自分の短冊を、彼に差し出す。
「…ルカさんに、俺の願い事を聞いてほしくて」
唐突な言葉に、ルカの困惑が大きくなった。しかし微動だにせずキラはルカを見つめていて、ルカは仕方なくそろそろと足を進める。
そうして受け取ったキラの短冊に、彼は目を走らせる。ルカの目が大きく見開かれた。
咄嗟にルカが顔を上げれば、キラの静かな瞳にルカの顔が映る。
「『好きな人が、幸せでありますように』」
「き、ら」
「…ルカさん、ゴウさんとお幸せに」
温かな眼差しが、注がれる。ルカは思わず涙を零しそうになって、必死にそれを抑えながらキラを見つめた。
「…ありがとう、キラ」
やっとのことで、微笑んでルカは礼を述べる。キラは微かに笑って、そのままそこを立ち去った。
残されたルカは、キラの短冊を手にひっそり涙を流した。


星が、瞬いている。
人々の幸せを願って、瞬いている。





…特別な夜シリーズはまだまだ続くよ!(言い逃げ)





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