ゴウルカ&ユダキラ9

保管庫(SB)


『母の日の夜、貴方を望む』 ゴウルカ前提キラ→ルカ〜特別な夜シリーズ5


爽やかな風が駆け抜けていき、それはそのままルカの長い髪を揺らした。
全身で感じる清々しさに、しかしルカは空を見上げて小さく溜息をつく。青い空にルカの息が溶け込み、見上げた先で雀が数羽飛んで行った。
「ルカさん、貴方には溜息なんて似合わないと思うけど?」
耳聡く漏れた空気の音を感じ取ったのか、聞き覚えのある声が下から聞こえてくる。…そう、下から。
誰のせいだ、誰の、と苦い表情でルカは下に視線を落とした。
そこでは、にやにやと満足そうに笑うキラが、ルカの膝を枕にして寝転がっていた。


話の発端は朝、寮で仲間と雑談していた所に遡る。今日は母の日ですね、と誰かが言い出したのをきっかけにして、皆で母親に何をしてやるか、という話が始まったのだ。
定番にカーネーションを贈る、という人や、メッセージカードを贈る、お手伝い券を贈る、電話でいつもありがとうと感謝の言葉を伝える、等々色々な意見が出たのだが、その時キラはなんて事もないようにこう言ったのだ。
「俺には母親がいないからな。何かしたくても出来ない」
…空気が凍ったような気が、した。キラがそんな家庭事情を言い出したのは初めてで、皆予想外の言葉に驚き固まってしまったのだ。
なんて返したものか、と周りが戸惑っている中で、しかしそんな沈黙の中最初に言葉を出したのも、キラだった。
「ああ、そうだ。それじゃあせっかくだし、ルカさんが今日一日、俺の母親になってくれませんか?」
「…は」
先程の衝撃を超える衝撃が、皆に駆け巡った。


そんなわけで、今朝からルカはキラの母親として、キラと行動を共にしていた。
「そんなに嫌だったのなら、朝のうちに断ればよかったのに」
くすくすとキラはルカの膝の上で笑う。あまりにもルカが分かりやすく渋い顔をしてばかりいたからだからだろう。
「…そんなの、無理だと分かっていてあんなことを言い出したのはお前だろう」
ルカの言葉にキラは無言で笑みを深める。ああ、この確信犯め。ルカは肩を落とした。
断れるものなら、断りたかった。だがあの衝撃告白で自分含めた皆が動揺していたし、「まあ、確かにキラはルカには特に懐いていますからね…」という言葉まであの場で出てしまった。ルカの恋人であるゴウも無言でいた上、誰もキラの下心を知らないから否定的な発言が出るはずもない。
あそこで下手にルカが嫌がれば、あらぬ誤解が生まれる可能性もあった。…いや、誤解だけでなく嫌な事実まで浮き彫りにされたかもしれない。
「…何故、お前はそんなに私に執着する」
「おや、珍しい。貴方からその話題を振ってくるなんて」
キラがわざとらしく驚く。確かに、ルカはこの話題を避けていたのでそう言われても仕方ないだろう。
先程も述べたように、ルカにはゴウという恋人がいた。ルカはゴウが好きで、ゴウもルカを好きだと言ってくれたから。しかしキラは、そのことを知っていたのに、いや、知ったからこそ、ルカに「貴方が好きだ」と今まで秘めていた想いを告げてきたのだ。ルカは拒んだが、キラは諦めるつもりもないらしく、実際ことあるごとにルカにちょっかいをかけてくる。
キラは決してもてないわけではない。その気になればよりどりみどりであることもルカは知っている。なのに、ルカがどれだけ拒絶しても、キラはめげずに近寄ってくる。自分の何がキラにそうさせるのか、ルカは不思議で仕方なかった。
「……」
キラが少し考えるような素振りをして、起き上った。ルカは自然とキラの横顔を目で追う。
「何故、そんなことを今更聞くの?」
問いに問いで返されて、ルカは戸惑った。キラは視線を動かして、目でルカの赤い瞳を捉える。
「人に執着するのに、理由なんて存在するはずがないと思わないか?俺は自分の欲望に素直に従って、貴方を求めるだけだ」
「……」
思わず言葉に詰まった。まるで獣のように飢えた、それでいて純粋な瞳に魅入ってしまう。ルカはあまりの恐ろしさに息を詰める。
しかしキラは次の瞬間、いつもの無邪気な振りをした笑顔を見せた。
「まあ、今はこの状況を楽しむのが一番賢いだろうな。滅多にないチャンスだろう?」
そう言って、キラがルカに手を伸ばす。引き寄せられて抱きしめられて、ルカは身を硬くした。
「おい」
強く抵抗することはできない。ルカは、表向きはキラと親しい仲であり、これくらいのことを友達同士で拒否するのは不自然だ。だからルカは弱くキラの胸を押し返し「いい加減にしてくれ」と小さく怒りの言葉を口にするしかできなかった。
「ルカさんって体温、低いな。もしかして、ゴウさんの腕の中では体温も上がるのか?」
「きら…っ」
耳元で囁かれ、わざとらしく髪の匂いを嗅がれる。頬をくっつけ合って、キラはルカの腰を撫でまわした。
「ね、母さん…」
弾んだ声がルカを母と呼ぶ。これのどこが母親に接する態度なのか。ルカは怒りと羞恥で真っ赤になった。
その時だった。
「キラ、いい加減ルカを離せ」
鋭い声が二人の間を割って入り、ルカは強い力で腕を引かれた。
そのまま強引に立たされて、驚いて振り返ってみれば、厳しい表情のゴウが目に入る。
「ご、う」
いつの間に。
ルカが思わず名を呼ぶが、ゴウは表情を変えないままキラの目の前でルカを抱きしめ、キラを睨みつけた。
キラはゴウの視線を受けて、わざとらしく肩をすくめる。
「おや、ゴウさん突然どうしたんだ?らしくないことして」
「…割って入って悪かったな」
「そう思うなら、ルカさん返して欲しいのだけど。せっかく母の日を満喫していたのに」
ゴウは一瞬沈黙した。二人のやり取りに、ルカはゴウの腕の中ではらはらするしかない。
ゆっくりと、ゴウは深呼吸をした。
「…ルカは、俺のものだ。例えお前にとって母親代わりだとしても、俺以外の奴がルカに触れるのは許せない…それだけだ」
その言葉を最後に、ゴウはルカを連れてその場を去った。背後からキラがくすくす笑いながら「それは残念」と言うのが聞こえたが、それは無視した。
その時、キラは自身の拳を強く握り締めていた。


しばらく歩いてから、ゴウが立ち止まる。ルカはゴウに腕を取られたまま、恐る恐る口を開いた。
「…ゴウ?」
ゴウは頭上を仰ぎ、大きく息をつく。それからゆっくりとルカに振り返り、その拗ねたような表情を見せた。
「…悪かったな、ルカ。突然あんなことして…」
先程の怒りは全て消え去ったかのように情けない顔で、ゴウはルカにそう謝罪する。「キラに他意がないのは分かっているんだが、どうしても…」と小声でぶつぶつ言い訳をしていた。
ゴウは、キラとルカの会話を聞いていたわけではないようだ。ルカはこっそり安堵の息を零す。
そんなルカの心境に気付いていないらしいゴウは、頭を乱暴に掻きながら振り返り、苦く笑って見せた。
「やっぱり、お前が他の奴に触れられるのが嫌で、耐えられなかった。すまん」
「ゴウ…」
胸がいっぱいになる。ルカは嬉しくて嬉しくて思わずゴウに抱きついた。ゴウは少し慌てたようだが、それでも遠慮がちにルカを抱きしめ返す。
そうしてルカはゴウを見上げて、満面の笑みを見せたのだった。
「お前の気持ち、嬉しいよ」


その頃、キラは一人で寮の屋上にいた。いつの間にか太陽は傾き始め、向こう側の空にオレンジ色がかかっている。
そんな空を眺めているキラに、落ち着いた声がかけられる。
「キラ、何をしているんだ?」
「…別に」
声の主は誰か分かっていたから、キラは振り返らなかった。声の主、ユダは一度苦笑を漏らし、しかし不意に真剣な表情をする。
「それじゃあ、お前は何を考えているんだ?」
キラは視線だけで振り返った。ユダはキラを見つめて、話を続ける。
「子供の日といい、今日といい…妙にルカを意識しているようだな。いや、むしろちょっかいをかけているように見える。…何を、考えている」
「……別に」
ユダに向けていた視線を、また空へと移す。キラの声は妙に覇気がなく、ユダは肩を落とした。
「…あまり、心配をかけさせないでくれ…」
ユダはそれだけを告げて、その場を去る。ユダの言葉は遠まわしすぎると、キラは思った。仲間内でトラブルを起こすようなことはやめてほしい、ルカを傷つけないでくれ、とそのまま言えばいいのに。
「……」
キラは自分の掌を見る。それは先程拳を握り締めすぎたせいで、血が滲んでいた。それでもキラは何をすることなく、また空を見上げた。
 
望むことは、悪いことなのだろうか。

答えが出ない問いを、頭の中で繰り返しながら彼は夜を待つ。


 終


 ゴウさんやっと出たー!!

 実は嫉妬深いゴウさん。激鈍だけど(笑)ルカはそんなゴウが大好きなのです。




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