恋人verG(恋敵10)

保管庫(SB)


『恋人‐version.G』 (ユダ+ゴウ)→ルカ〜恋敵シリーズ8

聖霊祭が終わって数日。ゴウは部屋に閉じ篭っていた。
理由は簡単である。ルカに会った時、どんな顔をすればいいのか分からなかったからだ。
ゴウはルカに恋をしていた。思いがけない恋敵の登場や、まさかの事故によるキス、等色々なことがあった長い片思いだったが、先日の聖霊祭で彼はとうとうルカに想いを告げた。
が、告げたはいいものの、その翌日からゴウの緊張はピークに達してしまい、ルカの前に立つことすら恐ろしくなったのである。
会いたくないような、会いたいような。返事が聞きたいような、聞きたくないような。そんな矛盾した思いを抱えて、ゴウはルカを避け続けた。
しかしそれもそろそろ限界だ。元来、活発な男なのである。そろそろ鍛錬と称した木の薙ぎ倒しもしたいし、いい加減皆が不審がる頃だろう。それに、やはりルカを見ることすらできないのは辛いものがあった。
いきなりルカに会うこともないだろうから、それまでにルカにどう接するか考えておこう、と彼は思っていた。そう思って、決心を固めたゴウは久方ぶりに部屋の外へと出た。
…ら、なんとそこにルカがいた。
「…え、ええええ!?る、ルカ!?」
「ご、う」
まさかの展開にゴウは心底驚いたが、それは向こうも同じだったらしい。目を丸くして見つめてくるルカに、ゴウの顔が真っ赤になる。
「ひ、久しぶりだな!どうしたんだ、こんな所で!」
咄嗟に飛び出した言葉はこれだった。慌てていたにしては上出来だろう、とゴウは心の中でほっと安堵する。声が裏返っているのは気にしないでほしいところだ。
しかしテンションの高いゴウに対し、ルカは静かだった。顔を落として何も言わない。ゴウは瞬きを繰り返した。
「ルカ…?」
「ルカ!」
どうかしたのか、と問いを続けようと思ったゴウの声に、新たな声が重なる。振り返れば、廊下の向こうからユダが姿を現していた。
ユダはゴウに気付いているだろうに、あえてゴウを見ることはしないで、ルカに微笑みかける。
「こんな所にいたのか、ルカ。さあ、早く鍛錬に行こうか」
ユダの声に、ルカが初めて動く。彼はゴウの前を擦り抜けて、ユダへと足を向けた。
「…ああ、ユダ。今行くよ」
ルカは、一度もゴウを振り返らなかった。辛うじてユダがゴウへと視線を寄越したが、ゴウはそれに気付かない。
そのまま立ち去る二人を見送って、ゴウは絶望に瞳を凍らせ、そして理解する。
この数日、ゴウがルカを避けていたのではない。
ルカが、ゴウを避けていたのだ。


舞い上がる砂塵の中で、二つの影がぶつかり合う。激しい衝撃音が響き、二つの影は別々の方向に飛び退った。
難なく地面に着地した影の一つであるルカは、しかしすぐ態勢を低くする。それと同時に頭上をユダの足が掠めていった。
ふ、と同時に二人は口元に不敵の笑みを浮かべ、その一瞬後、ルカがユダに足払いを食らわせる。
「…っ!」
流石に姿勢が崩され、ユダは咄嗟に片手をついてそのままルカから距離をとった。しかしその隙を、ルカが繰り出す衝撃波が襲う。
轟音が生まれ、同時に砂埃が二人の視界を覆った。
ルカはじっと、相手の出方を窺った。目を凝らし、前方に集中していた彼は、背後からの攻撃への対処が一瞬遅れる。
「!!」
反射的に防御したものの、勢いを殺しきれず吹っ飛ばされる。そのまま壁のような岩に突っ込んだ。
スピードの割に突っ込んだ際の音は小さいものだった。空気の抵抗をうまく利用して、身を守ったらしい。
だがルカは体を起こそうとすると同時に、悟った。これは自分の負けだ。
岩にもたれかかったまま、ルカは自分を見下ろすユダを見た。ユダの手の平は真っ直ぐルカの首に向けられている。
「…私の負けだな。降参だ」
体から力を抜けば、ユダもルカに向けていた手を下ろした。ユダは自然な動作で目元にかかった髪を、首を振って払う。
「今日のお前は、なんだか技が荒っぽかったな」
「そうか?…そんなつもりもないが」
岩から体を離しながら、ルカは立ち上がった。表情にいつもと違って陰りがあったが、本人は気付いていないらしい。
ユダはルカの暗い顔に目を細めて、そしてその手首を掴んだ。
「ユダ?」
「…それじゃあ、言い方を変えればいいかな。今日のお前は、ゴウのことを考えて気がそぞろになっているようだが」
思いがけない名前に、ルカの表情が凍る。
「そ…れこそ、そんなつもりもない」
「だが、ゴウを気にしているのだろう?さっきのお前の態度はおかしかった」
指摘されて、ルカは言葉に詰まった。先程のゴウに対する態度は、失敗だったとルカも思う。あからさますぎた。
ユダの瞳は真っ直ぐだ。ルカの視線を捉えて離さないそれは、ぎらぎらと光って相手の逃亡を許さない。
無意識に、ルカの喉が鳴る。ユダの言葉は続く。
「ずっと気になっていた。告白をした後も、俺へのルカの態度は変わらない。だが、ゴウに対する変化はなんだ?」
ユダの顔が、近い。無意識的に後ろへ下がろうとしたが、岩に阻まれてそれもできなかった。
ユダの言葉は本当だ。ルカは聖霊祭の後、ゴウは避けたが、ユダには変わらず接していた。ルカにもその自覚はあったが、理由までは分からない。
ユダが迫る。
「その変化の有無が、お前の返事なのか?」
「そ、れは…」
「避けられているゴウではなく、俺を選んだのだと思ってもいいのか?それとも?」
「……」
ルカは何も言えなかった。ユダから視線を逸らし、唇を噛み締める。
ユダはしばらく無言で返事を待ったが、しかしルカから答えがなさそうだと判断すると、その顎を掴んで自分の方へと向かせた。
「ルカ。…返事がないなら、都合のいいように受け取るぞ」
そしてユダの唇がルカのそれに近付く。
「あ…」
ルカの声が、漏れた。


その光景を見ている一人の天使がいた。
天使は、二人の顔が近付いているのを見て、思わず逃げた。
ああ、そういうことか。
自分はふられたのだ。
「……」
ゴウは、惨めな思いで必死に木々の間を駆け抜けた。


「…っ!!」
それはゴウが去った後の、一瞬の出来事だった。
ユダは目の前のルカを、静かな表情で眺めていた。ユダの胸にはルカの手が添えられていて、ルカは一生懸命な様子で、その腕を突っ張っていた。
ルカがユダのキスを、拒んだのである。
「あ…」
思わず、といった感じで、ルカが声を漏らした。手をユダから離し、彼は自分のしたことに驚いているように赤の瞳を揺らす。
ユダは瞼を落とした。ああ、これではっきりした。
「…ゴウが、好きなのか」
声に感情は篭っていない。ルカははっと顔を上げて、しかし首を横に振った。
「…それは、分からない。でも…」
でも、いつでも思い出されるのはあのオッドアイの瞳だった。幸せを感じている時、辛い時、最初に浮かぶのはあの凛々しい男の笑顔だった。
「自分の気持ちなのに、分からないのか?だが、体は正直だ」
ユダの声がルカの耳に届く。
ルカがユダのキスを拒んだ。その時、ルカの瞳に誰が映っていたのかを、ユダは知っていた。
ルカはあの瞬間、ゴウを思ったのである。だからユダを拒んだのだ。
そのことはルカも気付いている。ユダのキスを受け入れられなかったのは、脳裏にゴウを思い描いたから。
それでは、ルカが好きなのは。
「…ユダ、すまない」
項垂れたまま、ルカは謝った。ユダはルカの頭部に手を添えて、彼の頭を撫で回す。
「謝ることじゃないさ。こればかりは、仕方ない」
「でも」
「ルカ」
まだ何か言い募ろうとするルカを、ユダは諌める。開きかけたルカの唇を人差し指で止めて、ユダは少し悪戯な顔をしてみせる。
「まだこれ以上何か言うつもりなら、今度こそその唇、塞いでしまうぞ?」
冗談っぽいその口調に、ルカも思わず表情を緩めた。ありがとう、と言葉にせず伝えれば、ユダもそれを受け取ってくれたらしい。慈愛に満ちた、温かな視線が注がれる。
「さて。それではルカに一つ、いいことを教えてやろう」
唐突に、ユダが切り出した。何だろう、と興味津々なルカに、彼はある方角を指し示す。
「さっきまであそこにある天使がいたわけだが、いつの間にかどこかへ行ってしまったようだ」
遠回しな言い方に、ルカの目が見開かれる。
「…まさか」
「ルカ。…追いかけるべき、じゃないか?」
ユダの声に促されるまま、ルカの大翼が姿を現した。宙に浮かんだ彼は、ユダの指した方向へと飛んでいこうとして、そしてふいに動きを止めた。
「ユダ!」
ルカが振り返ってユダを呼ぶ。見送ろうとしていたユダは、少し驚いたようだった。
ルカの顔が、綻ぶ。太陽のように眩しい、笑顔。
「私は、今までもこれからも、一番の親友であるお前が大好きだ!それを忘れるな!」
眩しい笑顔が、目に焼き付けられる。ユダは呆けたようにその笑顔を凝視した。
ルカが空を駆けていく。しばらく固まったままそれを見つめていたユダは、ふ、と肩から力を抜いて、目を細めた。
「…俺も、一番の親友であるお前が大好きだよ、ルカ」


ゴウはある湖の側で足を止めた。全力疾走した後だったためその息は荒く、汗が額を滑り落ちる。
「…完全な、失恋、か…」
自嘲を零し、彼は適当なところに腰を落ち着けた。深く息を吐き出して、空に視線を向ける。
ああ、綺麗な空だな、と思った。それと同時に、こんな綺麗な空を自由に飛び回るルカはもっと綺麗だと、思っていた。
そんなルカが好きだったのだ。何にも捕らわれず、自由に美しい彼の姿が、愛しかったのだ。
だが、その想いももう終わりだ。ルカはもうユダのものなのだから。
「…ユダのもの、か…」
早速野外でキスするなんて、流石ユダといおうか…いや、俺も人のこと言えないが。だがきっとユダの方が手が早いだろう…もしかして今頃、恥じるルカに対してユダは…。
「…破廉恥極まりないぞユダあああああ!」
「ユダがどうかしたか?」
自分の妄想に突っ込みを入れたゴウは、聞こえてきた声にはたと動きを止めた。
いやいやまさかそんなはずは、と冷や汗をかきながら振り返れば、不思議そうにこちらを見つめているルカと目が合う。
まさかの展開だ。
「…ルカ?なんでここに?」
「空を駆けてきたんだ。お前の声が聞こえて、ちょうどよかったよ」
「…ちょうどよかった?」
「ああ。…お前に、話があって、な」
ルカにしては珍しく歯切れの悪い口調だ。多分この前の告白を断られるのだろう、と思って、ゴウも真面目な顔をする。
「…話を聞こう」
ああ、逃げ出したい!でもそんなことをしても無駄なのは分かっている!
心の中で激しく号泣しながら、ゴウは姿勢を正す。正座でルカに向かい合えば、それを見たルカもゴウの前に正座した。
そしてゴウにとっては何時間にも思えるような長い沈黙が続き、やがてルカがそっとその口を開く。
「…その。私は、ゴウが…好きだ」
ああ、とうとう言われた!これで失恋確定…って。
「え…?」
「だから、あの…お前さえ嫌じゃなければ、私と付き合ってほしい…のだ、が」
正座のまま、ルカは地面に顔を伏せて必死に言葉を並べていた。ゴウはまさかの言葉にただただ口を開けて、唖然とする。
「…ルカ、それは本気か?」
思わず問い返してしまったゴウに、ルカは少し顔を上げた。彼の瞳が上目遣いでゴウを窺い、そしてゴウはルカの頬が赤色に染まっているのを見る。
「嫌、か?」
小さな声で、ルカが問う。
ゴウはそのまま鼻血を出して倒れるのではないかと思った。殺人的に、可愛い。
くらくらする頭に手を添えて、ゴウは必死に色々なものを堪える。出来るだけいつも通りの声を出そうと頑張る。
「だ、だが先程、ユダとキスしていたではないか?」
「見ていたのか?」
「あ、ああ。別に俺に気を遣うことはないのだぞ?はっきりユダがいいならユダがいいと…」
まさかゴウが見ていたとは思わず、驚いた様子のルカだったが、ゴウのこの言葉には目を据わらせた。ルカは一度正座を崩し、膝を進めてゴウに近寄る。
余裕のないゴウはそんなことにも気付かない。だから彼は、いつの間にかすぐ目前まできていたルカに、再び心臓を跳ねさせる。
ルカの鋭い瞳がゴウを射抜いた。
「私が、ユダの方が好きなのに、お前に好きだ、とでも言うとでも?」
「る、ルカ?」
「ゴウは私をそんな奴だと思っていたのか?」
ゴウの返答を、期待していたわけではないのだろう。尋ねておきながら、ルカは彼に答える間も与えず、そのままその唇を塞いでしまったのだ。
ゴウの頭はその瞬間、真っ白になった。すぐに唇は離れたが、それでもゴウは動けなかった。
ルカが怒ったように唇を尖らせて、真正面からゴウを見る。
「ユダは、私がゴウを好きなことを知っている。キスなんてしていない」
すぐ目の前にいるルカは、美しかった。誰よりも、美しかった。
「私が好きなのは、ゴウ。お前だ」
真っ直ぐなその瞳が、声が、愛しかった。
「……っ」
ゴウの本能が突き動かされる。
ルカの腰を乱暴に掴み、ゴウは彼を引き寄せた。そのまま重なる唇に、ルカが驚いて思わず離れようとするが、ゴウの腕がそれを邪魔する。
まるでルカの全てを奪い、味わおうとするような激しい口付けだった。甘さと、柔らかさを堪能しているかのような、深い口付けだ。
長い密着の後開放されたルカは、肩で息をしながらゴウを責めた。
「いきなりこれは、反則、じゃないか…?」
「…悪い、制御できなかった」
罰が悪そうに、ゴウが苦々しい顔をする。ルカはまだ頬が上気していたが、それでもそんなゴウの態度に溜飲が下がったらしい。ふ、と表情を崩して、ゴウの頬に手を添えた。
「ゴウは実は獣だからな」
「…言うな」
「おや。違うのか?」
「……」
さっきの今では否定できない。ゴウは口をへの字にして拗ねる。
ルカは抱かれたままの自分の腰に手を伸ばし、ゴウの腕を軽く叩いた。
「ほら。私を抱きしめる前に、言うことがあるだろう?」
何を言っているのか、すぐには分からなかった。
一瞬後、答えに行き着いたゴウは、恥ずかしさのあまり視線を宙にさ迷わせる。しかしルカの期待の視線に逆らいきれず、彼は渋々、ゆっくり唇を動かした。
「…ルカが、好きだ」
「私も、ゴウが好きだよ」
そして二人は、どちらともなく唇を重ねた。





恋敵最終章!「恋人〜version.G.改めゴウルカバージョン」でした。一番ネタ出しは早かったのに、文章にするとなかなか難産だったというゴウルカ。大変だった…。

こっそり書きながら「ゴウ…へたれで獣にも程があるぜ…」と思いました(笑)すごい男ですねゴウさん!

あと書いている本人としては、他の二つに比べると色が少し違うような気もします。ゴウの心情表現が多く、シリアスなのにシリアスになりきれていないところが(笑)一応この話が一番シリアスになる予定だったんだ…version.J.が「ほのぼのギャグ甘」を目指していたんなら、version.G.では「シリアス」一つだったはずなんだ…。

まあ詳しいことはまた日記でつらつら語ります。恋敵完結第二弾お疲れ様でした!

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