審判員(恋敵5)

保管庫(SB)


『審判員』 (ユダ+ゴウ)→ルカ〜恋敵シリーズ5

ぴぴぴ、と小鳥のさえずりが聞こえる。
つられて顔を上げた通りがかりの天使は、目の前の光景に何事かと思わず目を剥いた。日頃では見られないような鳥の集団が、一本の木の枝に集まって止まっているのである。
鳥達は、皆同じ方向に目を向けていた。何を見ているのかと視線を追えば、ある建物の窓に行き着く。
天空城の窓の一つであった。それに気付いて、天使はああ、なるほど、と納得の表情を浮かべる。
天空城に住む六聖獣には、鳥に好かれる天使が二人もいるのだ。きっと彼らに惹かれて鳥が集まってきているのだろう、と彼なりの結論を胸にその場を去る。
彼は気付いていなかった。集まった鳥のさえずりが、まるで気遣うかのように弱々しいものであったということに。
鳥達が見ているのは、ルカの自室であった。


ルカの自室は、いつも綺麗に整理整頓されている。物があまりないのは彼らしいような気がして、レイは物がたくさん置かれている自室を思わず思い出した。
窓の外では次々と小鳥が集まり、ルカの自室を木の上から覗いている。いつもなら集まってきている鳥達に手を差し伸べるレイも、その時ばかりは大人しい。それは隣に座っているルカも同様で、彼は先程から机の上に肘を支えのため置き、頭を抱えていた。
その眉間には、今まで見たことがないほどくっきりとした縦皺が何本も刻まれている。
「・・・ルカ、大丈夫ですか?」
気遣わしげにレイがルカを覗き込めば、彼は緩慢な動きで顔を上げた。その表情は随分と弱々しい。
レイを瞳に映し、彼は何か言おうと口を開く。しかし声を発する前に、顔を歪めて先程と全く同じ格好に戻ってしまった。
「頭ががんがん言う・・・」
ぽつりと呟かれた声に、レイは困ったように溜息をつく。
「まあ、二日酔いならそうなりますよね・・・」
そう、実は今、ルカは二日酔いに悩まされているのだ。


話は先日に遡る。ルカはその時、ゴウに誘われてシンからもらった酒を飲んでいた。
日頃のルカなら、そう簡単に酒に酔うことはない。しかし、その酒というのがまずかった。シンが持ってきた酒とは、天界にて、聖霊祭の時にだけ姿を現すある意味幻の酒だったのだ。その酒は神殿特製のものであり、作り方から材料まですべてが謎に包まれている。そして日頃酒に強いルカは、昔からこの酒については全く飲むことが出来なかった。相性がよくないらしく、下手をすれば匂いだけでも酔ってしまう。
しかしそうとは知らないゴウはルカを酒に誘い、まさかそんな幻の酒がこう簡単に手に入るとは思っておらず油断していたルカは、その誘いに応じて酒を一口飲んでしまったのである。その一口で簡単に酔ってしまったルカはその後の記憶を失い、そして気が付いた時から今現在まで彼はひどい頭痛、つまり二日酔いに襲われているのであった。
覚醒した時傍にいたのはレイだけで、話を聞くとルカが酔い潰れていた間、色々と大変なことが起こっていたらしい。レイが話してくれないためルカは知らないのだが、実は酔い潰れ、眠ってしまったルカを運んできたゴウと、ルカを夜の酒に誘おうとルカの部屋に訪れたユダが、天空城内にて途中遭遇してしまったのだ。大喧嘩、までには発展しなかったのだが、それに似たようなすごいことがその後に起きて、他の六聖獣のメンバーは何事かと文字通りその場に飛び上がった。それから何とかその場を収集し、レイがルカの面倒を見ているのである。ちなみにユダとゴウはしばらくの間、ルカに会うことを禁止されてしまった。
その時のことを思い出して、レイの瞳が若干遠くなる。それから彼は気分を一新させるかのように頭を左右に軽く振って、持参してきたポットをルカの隣に置いた。
「・・・でも、びっくりしましたよ。今までルカが酔い潰れているところなんて、見たことありませんでしたし」
思い出すようにレイは口を開き、お茶の準備を始める。ルカは目の前で慣れたように準備を進めるレイの手を見つめ、それからそっと視線を上げた。レイが持ってきてくれたお茶は、二日酔いなどにも効くお茶らしい。
「・・・色々と迷惑をかけてすまないな、レイ」
「やだ、気にしないでくださいよ」
はい、というレイの掛け声と共に、熱いお茶で満たされたカップがルカの手に渡る。ルカはそれを受け取りながら、困ったように苦笑した。
今回の事件で、レイ達は初めてルカが神殿特性の酒に弱いことを知った。ユダは昔から知っていたため驚きも小さかったようだが、それ以外の面々は大きな衝撃を受けたのだ。
隠していたわけではなかったのだが、なんとなく気まずいとルカが思っているのも事実である。黙って受け取ったカップに口をつけたルカは、ふと思い出した馴染みの顔に、目を瞬かせた。
「それにしても、今回は本当皆に迷惑をかけてしまったな。・・・特に、ユダとゴウには悪いことをした」
少し落ち込むように、ルカの声が沈む。先程レイがうっかり漏らした「ユダとゴウがとても心配してましたよ」という言葉を引きずっているらしい。
確かにレイ達も苦労させられたが、今回一番大変だったのはユダとゴウかもしれない。ゴウは、自分が酔わせてしまった責任を感じてルカを城まで運び、ユダに睨まれてしまった。ユダはユダで、自分のいない所でルカが酔い潰れてしまったことにひどく落胆し、自分を責めていた。ゴウが抱えてきた後のルカの世話は、昔からのことで慣れていることもあり、ユダが中心でしていたのである。勿論、ゴウもルカの傍を離れず彼を看病していたのだ。
しかししばらくしてルカが大分落ち着くと、二人は互いを牽制し合い、喧嘩になりかけたりもしたので、最終的にレイは二人を部屋から追い出し、一人でルカの看病を続けたのだが。
そんな事実もあるからこそ、レイは素直にユダとゴウを褒めることができない。自分用のカップを片手に複雑な顔でルカを見つめれば、しかし彼が本気で落ち込んでいるように見えて、少しかわいそうに思われた。
「・・・ルカは、ユダとゴウが本当に好きなんですね」
ぽつり、と聞いてみれば、ルカは少し意外そうに瞬きをした。それからまた一口お茶を飲む。お茶の効果はあったようで、大分顔色がよくなっているのが見えた。
「友達だから、好きだと思うのは当然じゃないのか?」
「友達、ですか」
ルカの返答にレイは思わず苦笑をする。きっと今の言葉を聞いたらユダとゴウは密かに落ち込むことだろう。
レイは、ユダとゴウのルカへの想いに気付いていた。所謂ルカを挟んだ三角関係であることも知っている。ユダとゴウの二人はルカを恋愛感情で想っているが、ルカはまだそんな自覚がないらしい。少なくとも、レイはそう思っていた。
この勝負、どうやら勝率は五分五分らしい、とレイは自分のカップに口をつける。
「ルカってユダとゴウのこと、どう思っていますか?」
「・・・突然だな」
口に広がるお茶の味を満喫した後レイがルカに問いかける。ルカは唐突な質問に少し驚いたような顔をしたが、レイは気にしなかった。
「まあまあ、いいじゃないですか。話をした方が気分も紛れるでしょう?はい、ではまずユダから」
笑顔で無邪気にそう促せば、ルカは首を傾げつつも考えるように視線を宙に向ける。
「そう、だな。・・・やはりユダは親友だな。昔からの付き合いもあるし」
「では、ゴウは?」
「ゴウは・・・友だな。あと時々弟とはこんなものではないかと思うこともある」
「親友と、弟みたいな友ってことですか・・・」
成る程。この戦いは親友の“親”部分と、弟みたいな友の“弟みたい”部分の戦いらしい。我ながら微妙な表現だと、レイは小さく笑いを零した。
しかしそれではやはり、この勝負は五分五分だ。一見ユダのほうが有利のように見えるが、昔から強く固定されてしまっている“親友”のポジションから動くことは、かなり難しいだろう。逆にゴウは、ユダに比べてルカからの信頼や親しみの度合いが低い。
ルカはユダを心の底から頼りにし、ゴウにはお節介を焼いてしまうようだ。これは、どちらがルカのハートを手にするのかこれからの展開が楽しみでもある。
・・・まあ、僕としてはルカが幸せになってくれるならどっちでもいいんですれど。
「ねえ、ルカ」
すすす、とレイはルカの隣に移動する。ん?とルカが顔を上げるのと、レイがルカの肩に頭を乗せるのは同時だった。
「どうした、レイ」
「・・・絶対に、幸せになってくださいね」
シンやガイが聞いたら怒りそうだが、レイにとってみればユダよりも、ゴウよりも、ルカが一番大切な人である。ルカが幸せでいてくれるなら、誰がルカと心を通わせようとレイにこだわりはなかった。
ルカはレイの言葉に、不思議そうな表情をする。しかし黙って額を押し付けるレイの頭を優しく撫でて、ルカは微笑を浮かべた。
「それでは、レイも幸せになってくれ」
優しい言葉が、レイの耳を擽る。レイは嬉しそうに微笑んで、ルカを見上げた。二人は互いの赤い瞳を見つめあい、しばらく時を過ごす。
優しいルカ。いつか、その優しさが一人に傾けられてしまうこともあるのだろうか。
そうなってしまったら、自分は少し寂しくなるだろうな、とレイは思う。でも今一番彼に甘えられるのは自分だという自覚もあるので、その時がくるまではめいっぱい甘えてしまおうとも、彼は思っていた。それぐらいならきっと罰も当たらない。
ふと、その時レイは思い出した。
「・・・そういえば、そろそろ聖霊祭ですね」
「?そうだな」
ルカはレイの言葉に頷いた。今回の事件で次の聖霊祭はいつも以上に気を付けるよう、皆に言われてしまったのである。
レイの瞳が輝いた。
「ねえ、ルカ。お願いがあるんですけど」
ぐ、とレイが身を乗り出す。楽しそうに輝くその目にびっくりして、ルカは思わずその身を引いた。
「な、なんだ?」
「聖霊祭で、ドレスショーやるじゃないですか。ルカ、それに出てくれませんか?」
ドレス衣装は僕がつくりますから!と笑顔で告げられた言葉は、ルカの予想を遙かに超えたものである。ルカの顔が引きつる。
「い、いや、それはちょっと・・・」
「僕に幸せになってくれと、言ってくれたじゃないですか〜!ルカが僕の衣装を着てステージに上がってくれたら、僕はこれ以上ないくらい幸せなんです!」
断言され、更に、ね?と可愛く首を傾げられても、ルカは出来れば遠慮したいようだ。ルカは、自分がレイの好みであるきらびやかな衣装を着てステージに立っているところを想像して、ますます表情を固くした。
「れ、レイ。悪いがそれだけは・・・」
勘弁してくれ、と震える声で告げれば、レイはむう、と唇を尖らしながらもしぶしぶその身を引く。
「・・・仕方ないですね。まあ、半分冗談でしたし」
ということは半分は本気か?と体まで硬直させたルカを尻目に、レイは新しく笑みを浮かべてルカに振り返った。幾分か柔らかくなった笑顔は、先程の爛々と輝く笑顔と全く異なったものである。
「それに、きっともう聖霊祭で一緒にまわる人は決まっているのでしょう?」
聖霊祭は出し物が多くある。舞台もあれば、仮想大会もあり、ダンスをするスペースだってあるのだ。他にも演奏会やゲームの出し物もある。
レイは、きっとルカはもうユダ、もしくはゴウに誘われていると思っていた。もしかしたら三人で回るのかもしれない。
「ユダとまわるのですか?それともゴウと?」
レイの好奇心に満ちた表情に、黙って話を聞いていたルカの瞳が揺れる。彼の瞳に切なさが見えたような気がして、レイはえ、と目を丸くした。ルカは静かな微笑を浮かべて首を傾げる。
「・・・三人で、まわれるとよいのだろうがな」
肩をすくめるルカは、小さな溜息と共に再びカップに手を伸ばす。レイはルカの一連の動作を黙って見つめて、そして悟った。
もしかして、ルカは気付いているのだろうか。
ユダとゴウの、自分に向けられている感情に。
「ルカ・・・」
レイが思わず口を開きかけた時、ドアがノックされる音が届く。レイがはっと顔を上げるのと、ルカがどうぞ、とドアの向こうに声をかけるのはほぼ同時であった。
開かれたドアの向こうから姿を現したのは、ユダとゴウだった。
「ルカ、調子はどうだ?」
「少しはよくなったみたいだな」
笑顔でそう声をかけてきた二人に、ルカは笑顔を見せるだけだ。それを返事と受け取ったらしいユダとゴウは、ほっと肩を落とす。
どうやら、シンからルカ訪問の許可が下りたらしい。ユダとゴウは空いた椅子に腰掛け、ルカを囲んだ。
ルカはいつも通りのように見えた。しかし、レイは今初めて気付いてしまった事実に、胸をいっぱいにする。
いつ、ルカはユダとゴウの想いを悟ったのだろう。もしレイの見立て通りなら、何故ルカは気付かない振りをしているのか。
あの、寂しげな瞳は一体?
目の前の三人を、呆然と傍観しながら、レイはもやもやした感情を持て余した。


そんなレイにも気付かず、ユダ、ゴウ、ルカは楽しげに話を弾ませていた。ずっとルカを心配していたユダとゴウは、明るい笑顔を見せる彼に内心ほっと胸を撫で下ろす。
話題は自然と近くに始まる聖霊祭のことになる。
「そういえばルカ。ユリがお前を探していたぞ。今年こそ聖歌隊のメンバーに入ってもらうと意気込んでいたが」
ふと思い出したように告げられたゴウの報告に、ルカが苦笑を零した。去年何度もお誘いを受け、最後の最後で諦めてもらった記憶があるので、今年は逃げ切れるかどうか不安がある。
目立つことは苦手だと自覚しているルカとしては、何とか今年も逃げ切りたいところらしい。
「困ったな・・・出来れば遠慮したいんだが」
「ルカの美声は聖歌隊責任者のユリにとっても確かに諦め難いだろうからな」
率直なユダの言葉に、ルカは珍しくうろたえた様子を見せた。
「そんなたいそうなものじゃない」
慌てて首を横に振れば、ユダは軽く肩をすくめて見せる。全く、と言わんばかりのその態度に、ルカはむ、と不服そうに眉根を寄せた。
遠慮のないやり取りである。気の置けない友人同士、とはまさにこのことなのだろう。
しかし、隣でそわそわしていたゴウが、そこで声を上げ、二人の間に割って入った。
「る、ルカ!」
「・・・ゴウ?どうした?」
「その、俺は今年も力比べゲームに参加するつもりなんだが」
去年はユダも参加したゲームだ。しかしさすがのユダも力だけならゴウに敵わないらしく、例年ゴウが優勝を掻っ攫っている。
ゴウはここで勇気を振り絞るかのように、喉を鳴らした。
「それで、その、ルカに応援に来てほしいんだが・・・」
ゴウはかなり緊張した様子でルカを伺う。ルカは小さく首を傾げて、そして柔らかな微笑を浮かべた。
「ああ。きっと行くよ」
優しい声に、ゴウはぱっと表情を明るくして素直に礼を述べた。嬉しそうなその顔に、ユダが軽く眉を上げる。
「ではルカ。二人でゴウの応援に行かないか?そしてその後広場の演奏会を見に行こう」
今度はユダからルカへお誘いがかかる。な、と絶句するゴウの前で、ルカはそれもいいな、と肯定的な姿勢を見せた。
ゴウとユダの視線が合う。
「ユダ、お前・・・」
「ん?なんだ、ゴウ」
ルカにべたべたくっつくな、とゴウが視線で訴えれば、ユダは同じく視線で、ルカを先に誘ったのはお前だろう。抜け駆けは許さんぞ、と言い張る。
ゴウとユダは無言の攻防戦の後、更にルカを誘おうとお互い口を開きかけたその時。
「駄目ですー!ルカには、僕のつくった衣装でドレスショーに出てもらうんですからね!」
ずっと一人で考え事をしていたレイが、覚醒して話題に待ったをかけた。
残りの三人が、文字通り固まる。
やはり、レイの残り半分は本気だったらしい。


 終


  色々と個人的趣味を入れてすいません(苦笑)更に話の進行が淡々としていて申し訳ないです・・・(汗)(つ、つまらなかったどうしよう/滝汗)
 
 実は最後のやり取りぎりぎりで書き直しましたー(苦笑)なので、どうもしっくりこない!という部分があるかもしれません(重ね重ね申し訳ない;;)もし変なところがありましたらこっそりお知らせいただけると助かります・・・!!

  今回初登場レイ様。レイはユダ&ゴウの思いに気付いてます(ばれてるよ二人とも!/笑)で、レイはユダやゴウよりルカが大好きなので「ルカが幸せになれないような交際は認めません!」と密かに思っています(笑)その代わりシンはゴウよりユダを、同じくガイはユダよりゴウを応援すると思います(この複雑(?)な関係図に気付けばの話ですが!!/笑)

  マイナーCPのお話なので、この三組(レイとルカetc・・・)はここでは師弟、が一番近いと思います。あしからず。








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