幸運者(恋敵2)

保管庫(SB)


『幸運者』 (ユダ+ゴウ)→ルカ〜恋敵シリーズ2


図書室へと続く扉。ゴウはそこを開けた瞬間、目の前の光景に思わず固まってしまった。
「・・・ユダ、ルカ・・・」
呆然と名を呼ぶゴウに、目の前の二人が振り返る。
「ゴウ。いつの間にそこにいたんだ?」
「たった今だ。・・・そんなことより、二人とも」
目を丸くして驚きを示すルカに、ゴウは返事をして、そして。
「一体何をしているんだ?」
問いの対象は、勿論ユダとルカだった。少なくとも、ゴウはそのつもりだった。
二人は、なぜか図書室で、床に散在した本の山の中、抱き合っていたのである。


・・・前言を訂正しよう。二人は抱き合っていたのではなく、ルカの腰にユダが腕を回していた、というのが正しかった。
本がいまだに散らばり落ちている図書室で、ゴウはルカの説明を受けてそう考えを改める。
つまり。
ルカはこの日、いつもの習慣で図書室に足を運んだ。ルカの行動パターンを把握していたユダは、ルカに会いにこの図書室へと来た。
そうして図書室で本を読んでいたルカを発見したユダが声をかけようとしたその時、ルカの目の前にあった本棚が傾いたのだ。
『ルカっ!!』
ユダは反射的に腕を伸ばして、ルカを引き寄せる。突然のことに驚いたルカだったが、背後で本棚が倒れる音を聞き、瞬時に状況を理解した。
『ユダ・・・すまない、助かった』
『いや、無事でよかった。怪我とかはないか?』
・・・そうして、ユダは腕の中にルカがいるのをいいことに、ちゃっかりルカの腰へと腕を回していたのである。
「・・・・・」
混乱から立ち直ったゴウは、ルカの説明になんとも言えない表情を浮かべた。
目の前のルカが首を傾げる。
「・・・なんだか不満そうだな。どうかしたか?」
「いや・・・」
ゴウは緩く首を振りながら彼から視線を外し、そうして傍らで倒れた本棚を見ていたユダを瞳に映した。
ゴウの視線に気付いたのか、ユダは顔を上げ爽やかな笑みを浮かべる。
「ん?ゴウ、何か言いたいことがあるのか?」
「・・・別に、何もない」
清々しい彼の態度に、ゴウの眉間の皴が険しくなる。しかしユダはそんなことには気付かないふりでルカへと視線を移した。
「それはそうと、ルカ。どうやらこの本棚は寿命だったみたいだぞ。随分古いものだったようだし、そこら中傷だらけだ。さすがにもうこれ以上は使えないと思うが・・・」
「しかし、ここの片付けはどうする。他の本棚に本を移し替えるのにも限度があるだろう」
溜息交じりで肩を落とすルカの視線の先には、数え切れないほどの本が床に散らばっている。確かに、この量を全て他の本棚に片付けるのは無理があるだろう。
ユダも同じように思い至ったらしい。ふう、と溜息をついたかと思うと仕方ないな、と言うかのように彼は肩をすくめて見せた。
「それなら、作り直すしかないな」
「・・・って本棚をか?」
思わず問い返すゴウに、ユダは神妙な顔で「そうだ、本棚だ」と頷く。
「と、いうわけでゴウ。物置から工具一式を持ってきてくれないか?」
にこやかな、とても輝いたその台詞に、ゴウの思考が一瞬停止した。
「・・・・・は?俺!?」
「ああ、頼む」
まてまてまて。別に取りに行っても構わないが、なんでユダの笑顔があんなに輝いているんだ!?一体あいつは何を企んでいる!?俺がいなくなったら・・・邪魔者もいなくなってルカと二人っきり、とか考えている感じがするのはなぜだー!?それなら俺は行くべきではないのだろうか?いや、しかし工具がないと皆が困るのも事実・・・。ああ!!俺はどうすれば・・・!!
「おい、ユダ」
苦悩していたゴウは、ふいに聞こえてきたルカの声で、現実に引き戻された。
「なんだ、ルカ」
応じるユダにルカの足音が重なる。
「たまたま巻き込まれてしまったゴウにそんなことさせるわけにはいかないだろう。工具は私が取ってくる」
「え?」
遠のく足音につられてゴウも顔を上げれば、図書室の出入り口に向かっているルカが見えた。
ユダは少し残念そうに、その顔を苦笑の形にする。
「分かった。・・・だが、怪我をしないよう気を付けて運んでくるようにな」
「・・・そこまで間抜けじゃない」
「しかしお前は不器用だからな。心配だったから、俺はゴウに頼もうと・・・」
不器用、という単語にゴウの目が丸くなる。それに気付いたのか、足を止めたルカは少し拗ねたように頬を赤らめた。
「・・・ゴウ、そんな間の抜けた顔をしないでくれ」
「え、あ、いや・・・」
「ああ、もしかしてゴウは知らなかったのか?」
ゴウの隣で、ユダの声が明るくなった。
「ルカは昔からかなり手先が不器用なんだ。少年期の頃なんて髪も一人では結べなかったぐらいだったぞ」
「そうだったのか・・・」
知らなかった。
新たな事実にゴウが素直な驚きを示せば、ルカはますますその頬を赤らめてユダを睨みつける。
「ユダ・・・お前・・・」
「ん?ルカ、どうした?」
「どうした、じゃない!なんでわざわざ人の過去をばらすんだ!」
「本当のことだろうが。昔は毎日のように俺がその髪を結ってあげていたことを、お前は忘れたのか?」
「そんなことは知らん。もうすっかり忘れていた」
「・・・その言い方はないだろう。酷いな」
くすくす、とユダの口から楽しそうに笑みが零れる。ルカはそんなユダにはもう慣れたのか、まったく、と愚痴を零していた。
ふと、ゴウの胸が、痛む。
屈託のないやり取り。違和感のないそれが、ひどく悲しい。
ルカの不器用さについてもだ。ゴウがルカに出会ってから今までに、流れた時間というものはそんなに短いものではないのに。
なぜ、知らなかったのだろうか。
ユダは知っていたのに。
瞳を凍らせるゴウの前で、ルカの足があらためて進む。
「とにかく、工具は私が取ってくる。・・・すぐ戻る」
その一言を残すと、ルカはゴウ達の視界から姿を消した。


「・・・ああ、行ってしまったな」
至極残念そうに呟くユダに、しかしゴウは黙っていた。
無反応な彼に、ユダはふと違和感を覚える。
「ゴウ?どうかしたか?」
「・・・別に」
沈んだ声でそう返事をするゴウは、そのまま少し悲しそうに地面へと顔を向けた。
ユダは小さく首を傾げ、んー、とあらぬ方向を向きながら再度口を開く。
「なんだかよく分からないが・・・お前、怒らないのか?」
「・・・は?」
唐突なその問いかけに、ゴウは訳が分からず、沈んでいた顔を浮上させた。隣にいるユダを見上げれば、ユダもゴウへと瞳を向ける。
あ。
「・・・そうだ!お前、なにちゃっかり俺を追い出してルカと二人きりになろうとしているんだ!!」
「いやー、上手くいかず本当残念だった。まさかルカが行ってしまうとは」
「何をぬけぬけと・・・!!しかもさっきのあれはなんだ!?本棚が倒れたことをいいことに、ルカの腰に腕を回して・・・!!」
「ああ、あれは本当に幸運だった。まさか図書室に来るだけであんなに美味しい状況になるとはな。ははははは」
「お前という奴は・・・!!」
顔を真っ赤にして怒りを表していたゴウは、しかしふいに溜息をついて「もういい」とユダから顔を背けた。
「ゴウ?」
「・・・お前のことだから、どうせ何を言っても懲りないだろう。だから、もういい」
思いの他あっさり退いたゴウに、ユダは驚きを隠せない。いつもなら少なくともあと二、三回雷を落として、そしてやっと諦めるというのに。
「ゴウ・・・お前も少し学んだようだな」
「どういう意味だ」
間髪入れずに突っ込めば、ユダは困ったように苦笑を浮かべる。
「いや、まあ細かいことは気にするな」
「・・・・・」
はあ、とまた溜息を吐き出し、ゴウは床を見つめる。
ゴウとユダは、いわゆる恋敵だ。二人ともルカに恋心を抱いている。
しかし、ユダのルカへの気持ちを知った時から、ゴウの中で言いようのない不安が燻り続けていた。
ユダとルカは幼馴染だ。それは、誰もが知っている事実。二人はいつものように一緒にいるし、本当に仲がいい。
しかし、ゴウがルカを知ったのは、ユダに比べればまだまだ最近のことだ。ルカに関して知らないことも多ければ、ユダと同じくらいの信頼を、彼から受けているとも思えない。
そう、どう考えてもゴウに勝ち目はないのである。
分かっているつもりだった。だが、やはりその事実を今のように目の前に突きつけられると、心が痛む。
このまま、俺はルカを愛し続けてもいいのだろうか・・・?
悶々と悩んでいたゴウは、近付いてきたひとつの影に気が付かなかった。
「・・・ゴウ、どうかしたか?」
「いや、別に大したことでは・・・って、ルカ!?」
ふと聞こえてきた問いに、ゴウは放心状態のまま返事をする。が、その声が誰のものか判別すると同時に、驚きで肩を震わせた。
「ななな、なんで!?と、いうかいつの間に!?」
工具を取りに行っていたのでは、と慌てふためくゴウに、ルカは小さく首を傾げながら口を開いた。
「今さっきだ。・・・ゴウ、元気がないようだったが、どうかしたのか?腹でもすいたか?」
「い、いや、そういうわけでは・・・」
それにしてもなぜ空腹?
ルカの自分に対するイメージの一端を見た気がして、ゴウは思わず口を引きつらせた。
しかしルカはそんなことには気付かない様子で、今度は逆方向に首を傾げる。
「それじゃあ、一体何があった?」
「何、と言われても・・・大したことではないから」
どう話すべきか分からず、そう言葉を濁らせるゴウに、ルカはふ、と切ない微笑を浮かべた。
「また、“大したことではない”か?」
「え?」
「以前も同じことを言っただろう?何を悩んでいるのか聞いた時。・・・あの時は、ユダも一緒に悩んでいたようだったが」
微笑を苦笑に変えながらそう告げるルカに、ゴウは思い出す。あれは確か、ユダもルカが好きなのだと知った時だ。
ルカへの恋心を自覚して、あの頃の自分はなんとも言えない感情に悩まされていた。それをルカに指摘された時も、ゴウは確かに「大したことではない」と誤魔化した気がする。
まさかそんなことを覚えているとは思わず、ゴウは完全に不意をつかれた。
「よく、覚えていたな」
「なんとなく引っかかっていたからな。・・・それで?相変わらず私には何も言ってくれないのか?」
真剣な瞳で、ルカはゴウを見つめる。ゴウは戸惑いながら「別にそういうわけでは・・・」とまた言葉を濁した。
「ゴウ、ちゃんと私を見ろ」
「・・・・・」
言われて、ゴウはルカに目線を合わせる。その赤い瞳の中に、自分の姿が見えた。
ルカの瞳が、真っ直ぐに自分を捉え、自分を映している。その赤い瞳の真剣さに、ゴウは息を呑む。
ああ、だから・・・。
だから。
「・・・ルカ、ありがとう」
ふと、ゴウはその口元に笑みを乗せた。
唐突な感謝の言葉にルカが目を丸くすれば、彼は晴れ晴れとした表情でルカに笑いかける。
「もう、大丈夫だ。なんだかルカを見ていたら、自分の悩みが馬鹿らしく思えてきたよ」
「ゴウ」
「もう、大丈夫」
そう繰り返すゴウの顔には、確かに先程あった憂いは消えてなくなっていた。すっきりした表情で笑みを浮かべる彼に、ルカはまた誤魔化されたような気がしつつも、仕方ないな、と同じく笑みを見せる。
「一体何が大丈夫なんだか」
そう肩をすくめて見せるルカに、ゴウは、ん?と振り返った。
「自分の気持ちを、あらためて自覚した、という感じかな」
そう、自分は間違いなくルカが好きだ。
真っ直ぐで、優しい彼のあの瞳が、愛しくて。
例え、ユダに勝てないとしても、それでもルカが好きなことに変わりはないのだから。
悩んでいても仕方がないのかもしれない。
それも、ルカがいなかったら浮かばなかった考え方だろうが。
「やはり、ルカはすごいな」
「・・・ゴウ?何か言ったか?」
ぽつり、と出てきたゴウの素直な感想に、聞き取れなかったらしいルカが問い返す。
しかしゴウが何か返事をする前に、少し離れた所にいたユダが二人へと声をかけた。
「二人とも、少し手伝ってくれ」
見れば、すでにユダは本棚製作に取り掛かっていた。
仕事が早いな、と変な所でゴウが感心していれば、隣のルカが不満そうな声を上げる。
「・・・お前は危ないから、とか言って作業から遠ざけたのは一体誰だ」
「・・・ああ、それで」
道理でルカが落ち込んでいたゴウの元へと来ていたわけだ。大方、不器用さを指摘され、しぶしぶ作業場から離れた時、落ち込んでいるゴウを見つけて声をかけてくれたのだろう。
納得したゴウがうんうん、と一人頷く。ルカは言われた通りユダを手伝いに行こうと、一足先に一歩踏み出していた。
しかし、その時ルカの足のつま先に、散在していた本の一冊が当たる。
「え?」
気が付いた時には、ルカの体が傾いていた。
「ルカっ!?」
驚きの声が前後から上がる。ユダは目を見開き、ゴウは慌ててルカへとその腕を伸ばした。
転びかけていたルカの腕をなんとか捕らえるが、しかし一足遅い。
「う、わっ!?」
踏ん張りきれなかったゴウも、ルカにつられて体を傾ける。視界の隅にユダの驚きの表情が映った、と思ったと同時に、ゴウとルカの二人は折り重なるようにして床に激突した。
大きな衝突音が部屋に響く。
あまりにも盛大な音にびっくりして固まっていたユダは、数拍後に訪れた静寂に、はっと正気を取り戻した。
「・・・ルカ!ゴウ!二人とも、大丈夫か!?」
砂埃が舞う部屋の中、ユダは慌てて二人の元へと駆け寄ろうとする。
しかし、彼が数歩踏み出した所でがばっ、とゴウが起き上がった。
「ご・・・」
元気そうな彼の様子に、ユダは一瞬ほっとして名を呟きかける。しかし、ユダは気付いた。ゴウが口元を押さえたまま、顔を赤くしていることに。
「・・・ゴウ、どうした?」
「っ!?な、なんでもない!!」
慌てたように左手を彼は振る。相も変わらず口元に添えられた右手に、ユダは嫌な予感が止まらない。
「ゴウ、お前・・・まさか」
「っ!!なんでもない!!なんでもない!!なんでもないんだ!!」
ますます顔を赤く染めながら、それでもなお否定するゴウ。ユダの表情は青色に染まり、そしてゴウは逃げるようにその場から離れた。
「・・・・・」
事態にいまだ頭がついていかず、思わず走り去るゴウを見送ってしまったユダは、緩慢な動きでゴウ達が倒れた場所を見やる。
そこで倒れたままのルカは、呆然としたまま天井を見つめていた。


ばたばたと図書室から走り続けたゴウは、深い森の中でやっとその足を止めた。
肩で息をしながらその場に座り込み、後ろの大木にその背中を預ける。
「・・・・・冗談だろう」
呟いたその顔は、やはり赤い。全力疾走してきたことだけが原因ではないことは、本人が一番よく分かっていた。
そっと、指先で自身の唇に触れる。それと同時に、先程唇に触れた柔らかな感触を思い出し、ゴウはまたその頬を紅潮させた。
思わずうおお、と唸り、ゴウはその頭を抱える。
唇に触れた、あの感触。あれはやはり・・・。






ベタな展開ですいません!!(平謝り)しかし書いていてものすごく顔がにやけました(爆)
さて。この中で一番の幸運者は一体誰なのでしょうか。

そして『恋敵』続編を希望してくださいました李蘭様。お待たせいたしました。ご希望に添えたものになっているとよろしいのですが・・・。
正式な捧げ物ではありませんが、気持ち的には李蘭様に捧げています。そしてルカ受好きの皆様に(笑)


  また、日記の方にこのお話の製作秘話もどきも書かせていただきました。気になる方は『春日記』へどうぞ。(分類はSaintBeastとなります)





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