ご機嫌ナナメ

保管庫



事の発端は、シシマイハウスの連中に連れ去られた事から始まった。
どういうわけか、近藤さんとソージがパプワハウスのみんなと一泊温泉に行っている。
同じ心戦組のはずなのに、俺だけを置いて。
もしかして俺はパプワハウスのみんなに嫌われているのか?
何か嫌われるような事はしてないはずなのに…。

いや、リキッドはそういう事を秘密にするような奴じゃない。
では誰の陰謀か。
少し大袈裟に家で思い悩んでいると、ちゃぶ台の上に本に隠れて一枚の紙を見つけた。
ペラ、とめくってみると…

「…………な…なんじゃこりゃー!」

そこにはソージの字で、「ごゆっくり」と一行書かれていた。
叫びを上げた瞬間、

ガララッ

「やほー!黒髪のお兄さん元気?暇?暇だよね!ウチ来て一緒に飲もうよ!」

ソージかと思って驚いたのだが、入ってきたのはお隣の垂れ目イタリア人だった。
「え?」とか「何?」とか「暇じゃない」とか言ってる最中にもグイグイ引っ張られ、呆気にとられて大した抵抗もしないまま気付いたらシシマイハウスに押し込まれていた。


「じゃじゃーん!和食の達人、侍シェフを連れてきましたー!」
垂れ目に押されて入ったそこは、まだ日も高いというのに酒の臭いと煙草の煙が充満した、まるで外の陽気と真逆の澱んで空気の悪い部屋だった。

「ちょうどいい。味の濃いものには飽きていた。さっぱりとした和食のつまみを作ってくれ」
「…甘めのきんぴらごぼうが食べたい」
「オレは何でもいいよ〜!あ、キッチンはあそこね」

未だ状況が飲み込めずに突っ立っていると、つり目の中国人と無口なドイツ人たちが口々に好き放題つまみを作れと言ってる。
そんな中、昼間っからあまり会いたくない奴と目が合った。

「よぉ。今日はだーれも止める奴がいないからな、無礼講だぜ」

相変わらずボサボサの髪を広げてワイシャツを羽織っただけの獅子舞が、ニィ、と口端を上げて笑っている。
それを見て全てが合致した。

「そ…ソージ!!」

俺の怒声は野郎共の「早く」という催促の声にすぐ掻き消されてしまった。



「ぎゃっはっは!チョーバカじゃん!」
「何を言う。あれはGが放ったらかしだったからいけないんだぞ!」
「…俺じゃない…。元はと言えば…っぐす、ロッドが」
「やはり貴様か!」
「ぎゃーっ熱ーい!!」
カーペットの上につまみやら酒瓶やらを広げての宴会(?)は、予想を越える盛り上がりを見せていた。
ひたすら笑いまくる奴。何故か泣いている奴。
怒って同僚を燃やしている奴。

(いつもこんななのか…?)
俺が見ていたのは、ちみっ子たちがいたから遠慮していた宴会だったのだろうか。
あまりにも酷すぎる。
垂れ目が倒れた拍子に酒の入ったコップも倒れ、みるみる内にカーペットへ染みを作った。
つまみの焼き魚も骨が皿から転げて、きっと踏んだら痛い目に合うだろう。


三人の動きに注意しながら、巻き込まれないように空いた皿と瓶を回収して、台所に溜まった洗い物を片付け始めた。

「…て、何で俺がこんなことしてんだよ」

ガシャガシャと半ばやけくそになって洗い物を済ませていく。
すると後ろに気配を感じて振り返った、瞬間、

「ぅおーい、俺の酒がねーぞー」
「重っ!」
肩に全体重を乗っけてきたのは、やけにご機嫌なハーレムだった。
すぐ側に感じる吐息に、不覚にも胸が高鳴る。

「なぁなぁー」
「離れろよ!重いし臭い!」

心臓の音を聞かれたくなくて、肩を揺らして振り払おうとしても、まるで小泣きじじいみたいにびくともしない。
手が濡れてるから無理に引き剥がすことができなく、頭を振って軽く頭突きを食らわしたら思ったよりも効果があったのか、腕が離れて後ろに倒れそうになった。

「っおい!」

慌てて腕を引っ張ったが、強く引きすぎたせいで勢いよく俺の方へ倒れてきてしまった。

「わ、わ」

重たい体を、手が濡れてるのも忘れて支えるが、なんせ重い。
背後のシンクにお尻が当たってようやく支えることができた。
ふぅ、と落ち着くのも束の間、気づけばハーレムと正面から抱き合う形になっていた。
(げっ…こ、この体勢はまずい…)

「っおい、しっかりしろよ。もう潰れたのか?」

背中を叩いて呼び掛けると腕が持ち上がり肩に置かれ、(助かった、離れてくれるのか)なんて思ったのだが、両手で頬を挟まれグイッと持ち上げられ、自然と伸びた首が痛い。

「っ!?痛、てめっ…!」

抗議の声を上げようとして開いた口は、突然ドアップになったハーレムの口に吸い込まれてしまった。

「んーっ!…っ、んぅ、や…めろよっんん!」
ヌルリと熱い舌が滑り込み、咥内を縦横に舐め動く。
広がるのは色んな酒の臭いとハーレムの味。
ずく、と下部に甘い痺れが走った。


「やーだー!Gのエッチ!」
「乳繰り合うなら他所でやれ!」


「っ!」
居間から聞こえてきた声にサァッと血の気が引いて我に返った。
幸い台所から居間は見えない位置にある。
知らず背中にしがみ付いていた手で引き剥がしにかかる。

「んっ、……っは、おい、やめねぇか!」

何とか離して小声で怒鳴ってみたが、何故だかこいつは至極ご機嫌な様子で俺に抱き着いている。
あまつさえ、

「とぉしぃー」

と猫なで声で肩口に顔を埋めて擦り寄ってくる。
(なっななな何なんだよ!)
普段に無い甘えた態度に心臓は高鳴りっぱなしだ。
こんなに酔うことなんかあっただろうか。
しかもまだ日は高い。
飲むペースが早かったとも思えない。
いつも酔った時は暴れるか、すぐに落ちるかだ。
何がこいつをこんなに酔わせているのだろう。

「…酔ってるならもう横になってろよ。夕飯には起こしてやるから。な」

ポンポンと背中を叩いて促してみるが、むずかるように唸って益々強く抱き締められてしまった。

「ハーレム?」
「…やぁだ」

なんて、駄々っ子の台詞じゃないか。
(……こいつにも可愛いところがあるんだ…)
肩口で嫌々をする仕種に、少し血迷って背中をそっと撫でた…瞬間、急に腕が下に降りて尻をギュッと掴まれた。

「ぎゃっ!ちょっ、何して!」

前言撤回!
可愛いなんて思った俺が間違いだった。
しおらしい振りして俺を油断させやがったな!
突然の事に驚いて体を離そうとしてもやはりびくともせず、尻を這う手に爪を立てた。

「どこ触ってやがる、っ…やめ、ろよ!」
「やぁらかぁい…」

耳元に吐息を吹き込みながら、大きな手で両の尻たぶを揉みしだく。
時折間をなぞるように人差し指が往復して、本当に酔っているのか疑いたくなるほど的確に俺のイイところを刺激している。

「嫌、だっ…あっ!」
とうとう声を上げてしまったのは、足の間にハーレムの膝が入って無理に両足を広げさせられ、膝頭で股間部を押されたからだ。

「やっ、…っ…やめろ…っん」

絶えず尻を揉まれ、敏感な股間をグリグリと押されては敵わない。
袴の下ではすっかり反応してしまった雄が、止めて欲しいという心とは裏腹に膨れて更なる欲を求めている。
「っあ!」
俺の左足を跨いでハーレムが腰を押し付けてきた。
もちろんそこは硬い感触がしていて。
(…駄目だ…っ、このままじゃ…)

ハーレムの熱を布越しに感じとって、目の前の体にしがみつく指先が震える。
段々と呼吸が乱れて頭がぼうっとする。
不意に見上げたところには、同じく上気した頬をしたハーレムが真っ直ぐに俺を覗き込んでいた。

「っぁ…」
それは、夜、ハーレムに抱かれている時にだけ見る表情だった。

「トシ…」



「あれ、つまみがないや。おーいっお兄さん追加ー!」


ドッガッシャーン!

「まっ、待たせたな!」

「……今の何の音?」

肩で息を切らしながら、鍋ごと多めに炊いた五目ご飯と茶碗を置いた俺に、真っ赤な顔をしながら小首を傾げる垂れ目のイタリア人。
のそのそと無口なドイツ人が後ろで台所を覗いて小さく「…隊長が引っくり返ってる」と呟く。
「………顔が赤いな。酒も飲んでいないのに…どうかしたか?」と、まるで全てを見透かしたように意地悪な目を向ける中国人の言葉に、カァーッと頭に血が昇った。

「〜っなんでもねぇ!これ締めのご飯!きんぴらと茄子の煮浸しはまだ向こうに残ってるから!俺は用事思い出したから帰る!」

早口に言って俺は逃げるようにシシマイハウスを出た。


「ふぅ…相変わらず乙女のような恥じらい振りだな」
「なになぁに?マーカーちゃん、何のこと?」
「何でもない。G、隊長をベッドに寝かせてやれ」
「………隊長笑ってる」

「えっ?あはは!ほんとだ〜!」
「…よほど楽しい夢を見ているようだな。その夢が覚めなければいいが」
「ねぇねぇ.ご飯食べていい〜?」


――――――


「ったくあの野郎!」
心戦組ハウスに帰って風呂場に直行した。
案の定、下着は自身の先走りで汚れてしまい、着ていた服はあの空間にいたせいで色んな臭いが染み付いている。
乱暴に脱いで洗濯かごに投げ入れ、沸かしていなかったが風呂に入ることにした。

「くそ…」
高められた熱はまだ保ったままだったが、日が高い内に自慰に耽るのはやはり出来なく、水…といっても常温で温い水を頭から被り心身共に冷やす。
あの時、垂れ目の声がしなかったら確実にあの場でイかされていた。
それ自体が逃げ出すほど嫌なのではなく、同じハウス内に別の人間がいる上でのそういった接触が我慢できないのだ。

見付かる可能性は十二分にある。
ハーレムは常日頃、シシマイハウスの人間に俺たちの関係を隠すことはしないし、あいつ等も知っている事だと気付いているが、やはり耳で知られるのと目撃されるのでは違う。
俺には耐えられない羞恥なのだ。

「…今日はもう行ってやんねぇ」

夕飯になったら起こしてやると言ったけど、どうせ酔ってたんだから覚えてるはずがない。
徐々に萎んできた雄を更になだめるように、続けて勢いよく水を被った。


夜になって、もしかしたら飯をせびりに来るかもと危惧していたが、どうやら飯が残っていたのか、俺が帰ってから誰も訪れることはなかった。
夕飯を適当にあるもので済ませようと蕎麦を茹でてザルに上げた時、やたら大盛りになったことに驚いた。

「そうか、一人分でよかったんだ」

ついいつもの癖で多く茹でてしまい、一人分だけをよそって残りはラップしておくことにした。
一人でご飯を食べるのはどれくらいぶりだろう。
どこで食べても賑やかな食卓のはずが、今日はやけに静かだ。

「…いや、こんな機会滅多にないんだし、悠々と過ごそう!」
寂しさなんて感じてない、と誰も聞いていないのに一人ごちて、たまには静かに読書をすることにした。

ご飯を食べて、今度はちゃんと沸かした湯にのんびり浸かり、早々に布団を敷いて枕元の灯りだけにして寝ながら本を読んでいる。
やはり誰も邪魔をしないお陰であっという間に読破して、目がトロンと落ちてくるままに灯りを消して目を閉じた。


暗闇の中、不意に浮かんでくるのは、投げ飛ばしたハーレムの事。
自然と思ってしまうのだから、俺も大概重症だろう。
あんなに機嫌のいいハーレムは見たことがない。
そりゃ、出来るならご機嫌のままの方が平和だし、こちらとて喜ばしいことだ。
(…どうせ明日にはすっかりさっぱり忘れてる。……投げ飛ばしたことも)
そこさえ覚えてなければ、またいつも通りの態度に戻るはず。
機嫌がいいとまでは言わなくとも、普段通りであれば構わない。

(…朝御飯は作ってやるか…)
あいつらの朝食はご飯とパンのどちらだろう、と悩みながら気付いたら眠りに落ちていた。


静かな静かな夜。
誰の気配もないはずの部屋に大きな物音が響いた。
ドカドカと乱暴な足音が段々と近づいてくる。
夜更けに相応しくない物音に、流石に意識を起こされてしまったが体まで起きるに至らなく。
どこか遠くの方での事だと勝手に意識の外へ追い出し、再び眠ろうとした、が。
バサッ

「っ?!」
急に上に掛かっていた重みが消えて涼しい風を感じたのに驚き、慌てて目を開けたが何かが覆い被さって何が起きたのか分からない。

「なっ、なんだ?!」

暗闇を払うように手を振り、当たった感触とふわっと香った匂いにこれが何なのか分かった。

「てめ…ハーレム!?」

僅かに体を浮かせた隙に体を反転させて、枕元にある灯りに火を点した。
上半身だけ捻って見上げると、俺に覆い被さってきたのはやはりハーレムである。
まだ酔ってるのか。
いぶかしんでジッと見上げるが、ハーレムは無表情だった。

「おい…こんな時間に何の…っ!」

どかそうと伸ばした手を掴まれてクルリと体を反転させられ、再び仰向けになっていた。
「…おい」
昼間とは打って変わった雰囲気に気圧される。
掴まれた手は顔の横に縫い止められた。
いつも喜怒哀楽を垂れ流しにしているはずのコイツの気持ちが読めない。
少しの恐怖と不安。

「…何…するんだ…?」

沈黙に耐えられなくて口を開けば、ゆっくりと降りてくる顔。
戸惑い、明らかに口付けを求める唇を避けて顔を背けた。
「っ!」
息を詰めた気配の後、背けて露になった肩口にハーレムが顔を埋めてきた。
そして両腕で目一杯抱き締め、息苦しさに身を捩らせた。

「は…ハーレム、苦し…」
金の柔らかい髪の毛が俺の頬をくすぐる。
その合間から小さな、聞き溢してしまうほど小さな呟きを耳にした。

「………す、…て…言った」
「…ん?何だって?」

もう一度、と自ら耳をハーレムの方へ寄せる。

「……ゆうはん……おこす、て…言った…」

今までにない殊勝な声。
こんな時にまで心臓がドキッと反応してしまう。
「ゆ、夕飯て………あ!」
「うそつき…」
ぎゅう、と俺を抱き締める腕に力が込められた。
そう言えば、昼間酔っ払ったハーレムを引き剥がすためにそんな事を言った。
まさかその事を根に持っていたのか?

こういった場合、「テメェ嘘つきやがったな!」的に怒鳴り込みに来るのだが、そうだとしたら様子が大分違う。
「うーそーつーきぃ」と拗ねた口調で肩口に額を押し付けている。
まるでその様子は、昼寝をしている間に親が買い物にい行って一人だけ置いていかれた子供みたいな。

きっと、夕飯だと起こされたら俺ではなかったから拗ねているのだろう。
俺が起こしに行かなかったから、ご機嫌ナナメになっているんだ。
(…ガキめ)
自分より大人のはずのこいつが自棄に可愛く感じてしまうのだから仕方がない。

「ハーレム」
すぐ横にある頭を両手で掴んで持ち上げる。
やはり眉間に皺を寄せて口を尖らせていた。

「俺が悪かった…。だから機嫌直せよ…な?」

少し頭を浮かせて、その尖った唇に接吻をした。
間近で覗き込んでいた瞳が、ふっと柔らいでいく。
この接吻だけで機嫌がとれてしまうのは単純というか、単純な奴ほど可愛いというか。
ちゅ、ちゅ、と触れるだけを繰り返している内に、開いてきた唇の隙間から舌を差し入れ、ハーレムのそれに絡める。

自分から接吻するのは恥ずかしい。
いつもなら絶対にやらない事だったけど、見たことのないハーレムの態度に心をほだされ、次へ次へと進めてしまう。
(…ギャップの効果…てやつか…?)
やはり口内に広がるのは酒の味。
また飲んでいたのだろうか。
もしかして、夕飯時にも飲んだのかもしれない。
芳醇なウィスキーの味とハーレムの味が混ざり合って、あっという間に俺を酔わせていく。
寝起きのせいか、ハーレムと密着している自身もムクムクと起き始めた。

「…っ…ふ、…ん」
すっかり目覚めてしまった下部がむず痒くて腰を押し付け、思わず唇をずらして逞しい首筋に吸い付き赤い痕を残した。

「はっ、…ぁ…っ」
大概は嫌がって抵抗して逃げまくる行為を、こいつの機嫌がよくなるならと息を荒くして手を進める。
今夜の俺も、機嫌がいいらしい。

「ハーレム…」
口を離してズボンに手を差し入れ、脱がしにかかろうとした。

しかし。

「…おい?」
自ら行為に及ぼうとした矢先、ハーレムの動きがパタリと止んで頭が俺の胸元へと沈んだ。
「おい…まさか」
腕で上半身を起こし、胸元のハーレムを見下ろす。

「……ぐー」
そこから聞こえてきたのは安らかな寝息。
首を捻って顔を覗き込んだら、これまた安らかな寝顔…。



「……な……なんじゃそりゃー!!」


―――――――


「ふぁ〜あ。なんかいい夢見たな〜。あれ、なんで心戦組ハウスにいるんだ?」

大きく伸びをしてハーレムが起き上がる気配がして、のそりと台所に現れた。

「あっ、思い出した!テメェよくも俺を起こしてくれなかったな!」

文法の間違った言葉で声を上げているのを無視してネギを刻む。
トントントン…

「しかも目ぇ覚めたら頭やら足やら痛いしよぉ。あれだろ、絶対お前が何かしただろ」
トントントン…

「たくよーひでぇ奴だよなー。せっかく一人で家にいちゃあ寂しかろうと思って誘ってやったのによー、乱暴されるわ起こしてくれねぇわ」
トントントン…

「あーでもなぁんかいい夢見た気がするんだよなぁ。聞いてくれよ、お前がさ」
トンッ

「聞いてんのかよー」
「い…」
「あ?」

「っ今すぐ出てけー!!」
「うわぁ!」
思わずフルスイングで投げ付けた包丁は、避けられたせいで見事柱に突き刺さった。
ビィーン…と震えるその包丁と俺を交互に見やり、冷や汗を垂らしている。

「何しやがる!」
「いいから出てけ!」

もう一本包丁を取り出してまた投げる素振りを見せると、「なんなんだよーっ!」と叫びながら家を飛び出していった。
「はぁ…はぁ…、人の気も…知らねぇで…あの野郎っ!」
やっぱり起きた瞬間から昨夜の事はすっぱり忘れていやがった。
拗ねた面して夜更けにやってきたのは、酔っていたからってだけだったのか。
甘えた声を出したのも酔っていたから。

俺がどんな気持ちであんな事をしたと思っているんだ!
せっかく、俺から…


「あ゛ー腹立たしー!!」




「なぁなぁ、トシの奴がご機嫌斜めなんだけどよ、何でだか知ってるか?」
「ほぇ?さぁ〜」
「…隊長…首元に虫食いの痕が」
「お、いつの間に虫に刺されたのか?」
「…そう言えば昨夜…隊長どこか行かれました?」
「あ?」
「なるほど……」
「何がなるほどなの〜?」
「ふふ…隊長も罪なお方だ」
「…どういうことか聞きてぇけど何か恐ぇよ…」
「丁重に窺い立てて機嫌を取ればよいのでは?」
「お、おぅ」

俺の機嫌が直るのは、その30分後。
いつもの口調で、謝ってんだか怒ってるんだか分からない態度を取るハーレムに、呆れながらも仕方なしに許してやるのだった。


END☆
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