大人の恋愛事情〜思募〜1/2
保管庫
今日も今日とて、俺がいるのを覚悟でこいつはリキッドに会いに来ている。
実際マゾじゃねぇの?
そんだけリキッドに会いてぇのかね。
俺に会いたくて来てんの?
なんて言ったらどうなんのかな。
想像しただけでワクワクしてしまう。
そんなん、すげぇ久々な気がする。
さぁて、今日はどうやってからかってやろう。
「おい!リキッドから手を離せ!」
「へへ〜んだ。羨ましいか、羨ましいだろ〜」
リキッドを腕の中に捉えたままわざとらしく体を撫で回す。
悔しそうに見ている視線は、不思議と今日はあまり絡まない。
「隊長っ離してくださいよ!つかどこに手ぇやってんだ!」
「尻」
「尻、じゃねぇ!このセクハラ親父!」
腰に回していた手を尻まで下ろし、おもむろに撫でてから騒ぎまくるのを黙らせるついでに、ぎゅっと揉んでみた。
やっぱリキッドの尻は揉み心地がいい。
「うっせーなー。男が小さいことでキャンキャン吠えんなや」
「ぎゃ!も、揉むのは明らかなセクハラだ!」
「揉んだだとっ?貴様っ離れやがれ!」
リキッドが飛び上がって離れたところで庇うように前に立ち塞がる。
それでも瞳からは以前の強さを感じない。
脅え?遠慮?
威嚇以外の感情が混ざった眼差しに、密かに微笑む。楽しくなってきたな。
「あ〜?なに、あんたも揉んで欲しいのか?」
「は!?な、何を?!」
俺のからかうセリフに驚いて目を剥き、語尾を荒げている。
その態度に増長してペロリと唇を舐めて続けた。
「着物の上からでも分かんぜぇ?小さくて引き締まって、だけど垂れない程度に尻たぶがあって。リキッドよりは固そうだけどな」
「〜っっ!!?」
更に追い詰めたくて維持悪く掌で空を揉む手付きを見せれば、トマトみたいに赤くなって言葉がないとばかりに口をパクパク動かしている。
そうそう、この顔が見たかったんだよ。
やっぱ俺は生来のいじめっこのようだ。
この男を泣かせてやりたくて堪らない。
『いじめられるヤツにはいじめられる要素があるんだよ。つまり、そういうこと』
「真っ赤。いい顔すんのな、あんた」
「なっなっ!?」
これ以上ないってくらい顔を赤らめて固まってしまったコイツに、俺は我慢出来ず吹き出した。
「と、トシさん!しっかりしてください!」
リキッドに肩を揺さぶられ正気に戻った顔で、俺とリキッドを交互に見遣り、たっぷり一分。
「……か、帰る!」
「あっトシさん!」
弾かれたようにリキッドから体を離すと、制止の声も聞かずに身を翻して森の中へと駆け出して行ってしまった。
もう少し遊んでいたかったな、なんて。
「もう隊長!トシさんにセクハラはダメっすよ。シャイで初でそういうのに慣れてない人なんですから」
俺に向き直ると頬を膨らませて指を差してきた。
なんだかその言い方は、以前試したことがあってのセリフのように聞こえて。
「ふーん。お前も狙ってんの?」
「ん?さぁ、どうっすかね」
片眉を上げてからかうつもりで言ってみたのに逆にかわされ、どこか目だけを上に向けてから「ただ…」と口元に指を当てて視線を戻した。
「ただ?」
「思ったよりも可愛い人ですよ」
にっこり笑ったリキッドの背中には、黒い羽と尻尾が揺らめいて見えて、俺は思わずゴクリと喉を鳴らしていた。
「じゃ、トシさんの様子見てきますから」
ちょっと楽しそうな、そんな雰囲気を漂わせて足取りすら軽く見えるリキッドの背中を、遠くなるまでぼーっと見つめていた。
「……あいつの中のS心を呼び覚ますたぁ…」
リキッドはMっ子に間違いない。
俺がそう調教したのだから。
しかし、周囲にいたのがS属性の変態ばかりだったためか、思った以上の影響を与えていたらしく、ふとした瞬間にSな一面を覗かせていたりもしたのだ。
それが、あの男によって揺り起こされた。
素質は充分。
しかし、育て方を間違えたかな…。
一人になったハウスの前で、じわじわと体が熱くなるのを感じ、あの時の感触を思い返すように唇を舐めた。
「俺も、久々に楽しめそうだ」
『ターゲット、ロックオン』