ある日の情事(目隠し/拘束プレイ)

保管庫



何度やったって慣れやしない。
慣れて堪るか。
男の顔がゆっくりと近付く。
ベッドに腰かける俺ににじり寄る青い瞳から目を反らすことができず、唇に息が触れてようやく体を離そうと動くが既に遅く、中途半端に上げていた手を捕られて引っ張られた。

「っん!」

わずかに開いていた唇からぬるりと遠慮なく滑り込んできた舌が、俺の舌を絡め取って強く吸われる。
ぴったりと唇を塞がれ息苦しさに体を引くが、次には空気を吸える間隔で柔らかく上唇と下唇を食む。
絶妙な強弱をつけて繰り返される接吻がどれほど続いただろう。
体から力が抜けて巧みな舌に翻弄されていると、膝の上で捕られていた腕に違和感を覚えて目を開いた。

「……何の真似だ」

唇を離して下に目を向けると手首に白い布が巻き付いていた。

「そんなきつく締めてないから痛くはねぇだろ」
「そうじゃなく、なんでこんなもん…」

外そうと手首を捻ってみるも、確かに痛くはないが変わりにビクともしない。
手首に気を取られているうちに着物の合わせ目を襦袢と共に引かれて一気に肩を出された。

「ぅわ、ちょ、嫌だ!」

身を振って仰け反った拍子に正座が崩れてそのまま後ろに押し倒された。
咄嗟に横へ逃れようと身を返したのが間違いだった。

「わぁあ!」

あっという間に帯を外され裾から捲り上げられ太ももに鳥肌が立った。
幸いにも縛られたのが前だったので、匍匐前進でこいつの下から逃げようとしたが当然腰を捕まれて戻される。

「いつもいつも、何で逃げるんだよ」

肩越しに振り返ると思った以上に近くに顔があったので慌てて前に戻す。

「なぁ」
「っ…い…嫌なもんは嫌なんだよっ」
「ふーん…」

それだけ不服そうに呟くと、露になっていた胸へと手が這って躊躇うことなく乳首を摘んだ。

「うぁ!」

こりこりと感触を楽しむように両方を指先で弄びながら、耳の後ろに唇を押し付けて温かい息を吹き掛ける。
それだけで、

「…しっかり感じてんじゃん」
「…っ…ぅ」

息は上がり、指の間では赤く腫れて主張している。
布団と股の間でも徐々に熱を持ち始めているのを気付いたのか、声の端に笑みを乗せて囁いた。

「素直になればもぉっと気持ちよくなんのになぁ…どーしてそう意固地になんだよ」
「…う…うるせぇ…」

意固地、とかじゃなくて。
やっぱり慣れないんだよ、こんな行為。
そりゃ気持ちいいことは嫌いじゃない。
俺も男だ。
いいところを責められれば興奮するしあちこち勃つし、気持ちいいのをいつまでも感じていたいと思う。

ただ、やはり心に引っ掛かるのは相手も同じ男であるのと、その相手自身。
最初からこいつのペースで振り回されるように肌を合わせてきた。
壬生にいた時、自分の意思ではないが男に抱かれたことがある。
そのせいか、真っ先に湧くであろう嫌悪感は特になく、疑問に思う間もなく振り回されていつしか抱かれたのだ。

そうして知った。
武骨な手は想像できないほど優しく触れ、乱暴な言葉を吐く口からは低く腰の痺れる甘言を囁く。
そして、いつも見ていた体が、酷く熱いことを知った。
熱く、熱く全身で俺を溶かしていく。

それが耐えられない。
この男に思う様どろどろに溶かされてしまうのが。
俺が俺でなくなる気がして。

「……嫌だ…」

視線を感じたくなくてちょうど前にあった枕に顔を押し付ける。
しかしその言葉を聞いていなかったのか、背中に熱い唇を点々と押し付けて裾を腰の上まで手繰った。
途端に尻が外気に晒されて反射的に顔を後ろに向けようとしたが突然視界が塞がれた。

「なっ」
「要は恥ずかしいんだろ?」
「っ」
「なら簡単だ」

しゅる、と音がして頭の後ろで布が結ばれる。
手を縛られ、目を塞がれた。

どくん。

期待なのか不安なのか。
自身でも分からない震えが体を巡った。

「感覚だけを追ってろ。気持ちよくしてやる」

伸ばした足のふくらはぎから温かい両手が這い上がり、尻の脇を沿って腰に手繰った着物の上から、また素肌の背中へ。
肩から腕を辿って胸の下で上半身を支えていた手を握る。
右に向けていた頬に柔らかな感触と熱いぬめりに、接吻をされたのだと気付いたのは耳にちゅっ、という濡れた音がした時だった。
ちゅっ、ちゅっ、と何度も音を立てて耳から髪を掻きあげて首筋に。
ゆっくりとうなじを辿ってまた背中に唇が押し付けられる。

ぞくぞくするのが止められない。
いつにない優しい仕草で触れてくるのがわかる。
見えないせいか酷く敏感になっているのだろう。
肝心なところを避けて動く手と舌に神経が持っていかれる。

「っ…ぁ…、…ん」

圧し殺そうとする吐息は、乱れる息のままに口から漏れていた。
時にきつく吸って、甘く噛んで、歯形が残るだろうほど食い込ませたら今度はそこを柔らかくなぞる。
布団に潰されている自身が段々と窮屈になってわずかに腰を浮かせた。
露になっている尻に手が触れる。
思わず体がビクリと震えて強張るが、尻たぶを揉まれればすぐに力は抜けて枕に突っ伏した。

慣れはしない。
元より男としての自尊心が高かったせいか、受け入れてからの羞恥心は酷くなる一方で。
その原因はやはり益々過激なことをしでかすこいつのせいであろう。
過激になればなるほど、些細なことが次第に慣れていく。
それすら慣れないというのに。

「…腰、もう少し上げろ」

太股をゆるゆると撫でられ息を吹き掛けられる。
こいつに促されているわけでもないのに自ら腰が上がっていく。

「…っ……」

肘で体を支えて少しずつ震える膝を立て、次なる刺激に目隠しの下で強く目を瞑った。
ごくり、という唾を飲む音とふれた熱い吐息が尻にふれ、すぐそこに顔があるのだと知れる。
唐突にその光景が頭に浮かんだ。
枕に頭を伏せ、獣のように四つん這いになって後ろの奴の眼前に尻を突き出している。
途端に顔が熱くなる。
霧散しかかっていた羞恥心が集まって弾かれるように体を捩った。

「やめろ…っ」

伏せていた顔を目隠しされたまま振り返り逃げを打つが、腰をしっかりと掴んでいる手がそれを許さない。
片手で尻を割り開かれそこが露になったのが熱い吐息のせいでわかる。

「っ…ぁ」
触れてもいないのに短い喘ぎが漏れたのは、これからもたらされることへの期待か。
自ら収縮しているのは気のせいだと言い聞かせても、心音と共にそこが動くのをどうしても感じてしまう。
そして、熱い舌がぬるりとそこに押し付けられた。

「あぁっ!」

体が大きく跳ねる。
浮いている腰の下、まだ一度も触れられていない雄がまた大きく膨らんだ。
反射的に高く上げた腰が相手の舌を受け入れ易くしているようで。

「あっ、やめ、…っはぁ!」

止めて欲しいのに最後まで言葉が続かない。
分厚い舌がぴちゃぴちゃといやらしい音を立ててその穴をなぶっている。
普通ならば、排泄器官に触れられるだけで嫌悪感を抱くはずだろう。
しかし、その後にくるもっと激しい快楽を俺の体は既に待っているんだ。
期待に喉が鳴る。
いつしか逃げようとしていた体からは力が抜け、腰だけを高く上げて舌の動きを追っていた。
入り口ばかりを舐めていた舌先が徐々に中へと侵入する。
片手で尻たぶを割り開き、唾液で濡れているそこに触れた。

「っ」
一本の指が入り口をなぞってから、悲鳴を上げる間もなく躊躇いなしにずぶりと入ってきた。
衝撃で伏せていた顔を上げて天を仰ぐ。

「もう柔らけぇな…十分楽しんでるだろ…この状況」
「はっ…ぁ…い、言うな…っ」

中に埋めた指がぐるりと円を描くように回され、話しかけられれば瞬時に顔が熱くなる。
筋張った太くて長い指がぐにぐにと内壁を擦り奥へと進む。
それに合わせて体がひくひくと震え、なぶられているそこも収縮して指を締め付けた。
次第に指が増やされ水音と無意識に漏れている喘ぎ声が部屋に響いている。

「…っ、ぁ…あ…、や…んんっ」

視界を塞がれているせいで最早自分がどうなっているのか分からなくなっている。
内壁の臍の方。
前立腺をわざと避けて決定的な刺激を与えられずに、もどかしい気持ちが募っていく。
そこの側をなぞって、すぐに離れるの繰り返し。
指だけで焦らされて翻弄され、あられもなく悶える。
ただ、ひたすらに気持ちがいい。

だから。
普段ならば行為の最中でも滅多に呼ぶことのない名前を、こんなに早い段階で口にしてしまうんだ。
滅多に呼ばないのは、やはり恥ずかしいから。
未だ慣れないのだ。

「…っぁ…は……ハー…レム…っも」

途切れ途切れに呟いた言葉は相手に届いたらしく後ろの気配がベッドを軋ませて動いた。
ずっと触れなかった股間のものは、先端からの先走りが幹へと滴りその微かな刺激にも震えていた。
恐らく数回扱いただけで達してしまうだろう。
後ろだけの愛撫でここまで感じてしまうことが恥ずかしくて堪らないのに、今は早く出してすっきりしたい。
絶頂の快感に浸りたい。
早く、扱いて欲しい。

「ハーレム…っぁ…はや、く…っ…ん」

胸の下で体を支えていた手で股間部に触れやすいようにますます腰を上げる。
指は入ったままのため、僅かな角度の変化にも声が漏れる。
目隠しをされて己の姿が見えないのが唯一の救いだった。
どれだけの恥態を晒しているか、見えていたらとても出来ないだろう。
けど、不自由な態勢で散々後ろの穴をまさぐられたせいで、もう達する寸前なのだ。
息を荒げながらそこに触れられるのを待つ。

しかし、あの大きな手で包まれると思った感触は来ないで、中を埋める三本の指が奥のある一点を集中して擦り始めた。
そこは、今まで触れなかった俺の最も弱いところ。

「ひっ、あぁあ!」

敏感になっていたところでの刺激だ。
シーツを強く掴んで抑える間もなく高い嬌声を上げた。

「やっ、やめ、ぁっやぁ!」

今までの分を補うかのようにそこばかりを執拗に擦られ、突然目の前が真っ白になった。

「っ、っー!」

背を反らせ、体がびくびくと痙攣する。
酷い高揚感がしばらく続き、それが収まると今度は射精後の脱力感が襲った。
指がずるりと抜ける感触に一度身を震わせる。
体から力が抜けて顔を横にして枕に伏せ、しばらくその波に漂っていた。

このまま眠ってしまうかと思った時、まだ閉じ切らずひくついていたそこに熱い塊が押し当てられた。

「っ!」

それはよく慣れた感触で。
制止を発しようと開けた口は、よく響く高い嬌声になった。

「やっ、あっあぁー!」

俺にもついているものが、遠慮なくそこに突き刺さったのだ。
唐突に胎内を埋める肉棒の圧迫感に宙を仰ぐ。
だいぶ解されていたせいか難なく奥まで入り、傷ついた様子はない。
今は痛みよりも急に訪れた衝撃に息を詰めてしまう。
何度やっても最初の苦しさは慣れない。

「…息を吐け…力を抜くんだ」

腰を支えながらハーレムも息を乱していた。
狭い胎内に埋めている自身も同じように苦しいらしい。
腰の手がするりと前に回り、挿入の衝撃に頭を下げていたものに指が絡まる。

「ぅっ、あ…」

快楽を呼び戻そうと扱かれ、力が抜けたのを見計らって腰を引く。
ずるりと太く長いものが抜けて、閉じようとしたそこをまた押し広げた。
ゆっくり中を確かめるように動く塊に早くも翻弄される。

「あっ、あ、やめ…っあぅ!」

ずん、と奥まで突き入り、また抜ける。
次第に中が馴染んできたのか、抜かれる度に内壁が絡んでいるように感じる。
不意に動きが止まり、後ろから息を詰める気配がした。

「っ……いいか?」

何の事だかは分からなかったが、腰が止まったせいで余計に中を埋める熱を意識してしまい、恥ずかしくも体が震える。
とにかく動いて欲しくて頷いた。

「あぁっ!」

再び俺が望む刺激が得られ、仰け反って高い声を上げた。
何度も、何度も胎内を行き来し身体中が痺れていく。
汗がびっしょりと浮かぶ額を枕に擦り付け、胸の下で握っていた拳は何かにすがり付こうとシーツを手繰った。
打ち付けられる度甘さを増した自身の嬌声が響く。
今はもう羞恥心よりも体に溜まる熱を解放したくてどうしようもなかった。
揺らされながら肩越しに振り返り、途切れ途切れに呟いた。

「あ…はっ、あ…っ!ハーレムっ…」

急に挿入角度が変わり小さく呻くと、背中にずしりと覆い被さってきた。
その確かな重みと熱い体に目眩がする。
耳に直接息を吹き込むようにして唇が触れた。

「っ…トシ…」
「ぅ、あっ!」

ガクガクと体が震える。
下半身が酷く痺れて言うことを効かない。
短い息遣いが耳元をくすぐり、奥の奥、この態勢でしか届かないところまで熱が押し入り、夢中で腰を振った。

「あぁっ、ハーレム…っハーレム…!」

必死に後ろを振り返って舌を伸ばす。目隠しで見えないのは幸いだったかもしれない。
こんなに乱れた俺を見られている視線も、そんな俺を見て欲情しているだろうハーレムも見ないで済んだから。
もし間近に見えていたら、間違いなくその視線だけで達していただろう。

伸ばした舌はすぐに分厚い唇に食まれ、そのまま吸われて喉を鳴らした。
体ごとを後ろに捩って「もっと」と唇をねだる。
深く口を塞ぎながら隙間なく体を繋ぎ合わせ、本能が求めるままに腰を振った。

「あっあっ、ハーレムっ、あ、も…っ!」
「トシ…っ俺もだ…!」

背中にのし掛かった状態で上半身に腕を巻き付け、強く打ち付けてきた。

「ぅあ!あっ!やめ、も…っもう、いっ…く、うぁあっ!」

奥がきゅう、とハーレムを締め付けているのが分かる。
段々と声も短く高いものに変わり限界が近くなる。
耳元に吹き掛けられる短い吐息が最後に、
「トシ…っ!」
と熱く吐かれたと同時に、触れられていなかったそれが痛いほどに弾けた。

「あーっ、っっ!」

目隠しの中、強く目をつぶった拍子に滲んだ涙を布が吸っていく。
熱い液体が中に広がるのを感じ、びくんびくん、と体が大きく震える。
その度にハーレムをきつく締め上げ、その締め上げにまたハーレムも身を震わせた。

「はぁっ…はぁっ…はぁっ…」
荒い呼吸がしばらく続き、不意に目隠しの布が外された。
部屋は最初から薄暗かったが、ベッドの側のスタンドライトの明かりに目をしばたかせる。
背中の重みが消え、ずるりと中を埋めていた肉棒が抜け出て、仰向けに転がされた。

「……大丈夫か…?」

涙の跡を大きな指で拭いながら腰を撫でた。
上半身を起こしたハーレムを、まだはっきりとしない頭で見上げる。
そこには、全身を汗で光らせた体がライトに浮かび上がっていた。
その汗は、つい先程まで俺との性交で流れたもので、その体はつい先程まで俺を抱いていたのだと認識した瞬間。

「っ…」

出して萎えたはずの自身がたったそれだけで反応してしまった。
目敏く気付いたハーレムがにやりと口許を歪めて言う。

「…どうした…まだ足りねぇか…?」
「ぁ…」

緩く立ち上がるそれに指をかけ、ゆっくりと身を屈める。

「…手…ほどいてくれ…」

顔が近付いてくるのを咄嗟に反らせ、まだ縛られていた手を差し出す。
見た目からは想像出来ないほど器用に小さな結び目をほどいた。
縛られていた手首はやはり擦れて赤くなっている。
微かに眉を潜めたハーレムは、手首を持ち上げて擦り傷に舌を這わせた。

「ぅっ…」

ぴり、と唾液が滲みて呻き声を漏らす。
しかし、痛みのはずのそれは今、下半身に直結してまた膨張させた。

「………なぁ」

ペロペロと舐め続けるハーレムの頬を掬い上げ、目を細目ながら一つ呟くとゆっくり顔を近付けてきた。
俺を縛って止まない、青い瞳。
腕なんか縛らずとも、最初からこの目に見つめられれば身動き出来なくなるんだ。

「ハーレム…」

自由になった腕で、青い瞳に縛られながら更なる快感をねだって口を開いた。


そうして俺たちの夜は、更けていく。



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