イントロダクション
夢もどき【目高】
……………?
気がつけば、そこは古いフィルムのようにどこかノスタルジックな雰囲気を思わせた何もない場所だった。
どころか、意識はあれど身体がないような奇妙な感覚。幽霊になったらきっとこんな感じだろうか。そう思いながら周囲をぐるりと見回す。
ちょうど、前後変わらぬ距離に白と黒の扉があった。
そして、いつの間にか見知らぬ彼女が隣に居た。
太股より長く綺麗な茶髪にアクセントのように毛先と背中の二ヶ所でまとめられたリボン。
着用しているのはどこかの学校の制服だろうか。上履きには安心院なじみと名前が書かれてあった。その名前に覚えはないし、彼女が上履きの名前の人物だとは限らない。
「…………」
誰だろう。そう疑問に思った刹那――、そういえば自分自身すら忘却している事実を今更ながらに知る。自分は一体何者で、どうしてこんな場所に所在なく立ち尽くして居たのだろう。
そんな疑問に答えるように、見知らぬ彼女は可愛らしい顔立ちに似合った声で口を開く。
「どうして自分がここに居るのか。そんな表情だね? かくいう僕も、ここが何なのかは何となくでしか分からない訳だけれど、まぁ。何だ。
ここでこうして会ったのも何かの縁だろう。一先ずは自己紹介だ。僕は安心院(あじむ)なじみ。親しみを込めて『あんしんいんさん』と読んでくれ」
あんしんいんさん。あじむさんと呼ぶと何か不都合があるのか。少し突っ込んで聞いてみたい気もしたが、そんな事よりもまずは現状を把握すべきだろう。
さて、とりあえず自己紹介を返そうか。自分の名前は――――――【※思い出す】
「七代、縁起」
そう、それが自分の名前だ。
そうかい、思い出せたようで何よりだと彼女は微笑んで、次に失礼だけれどと質問を投げ掛ける。
「生憎、きみがそこに居るのは分かるんだけど、今のきみには身体がない。
だからきみがどんな外見で男女どちらなのかすら分からなくてね。差し支えがなければ答えてくれると有り難いかな」
性別? さして意味があるとは思えないけれど――えーっと。どっちだっただろうか。その辺りも曖昧だ。
→「男…だったような?」
→「女、だったと思う…」