擦れ違い

『終わる為の真実』



事態は巡る。時間は進む。
眠りネズミを連れ去ったトゥイードル兄弟は現在進行形で森の中を逃げていた。ひたすらに、必死に。

「…あぁ、もうっ、しつっっっけぇええ!」
「はぁ、…は…本当に、同意だ」

喚くダムに息を切らせるディー。ダムに抱えられたネムはすやすやと眠っていて起きる気配はない。

「ちっ…んな状況下で寝れるコイツが羨ましいぜ…」
「…そう言う割りに珍しく捨てていかないんだね。ぼくはてっきりお前が脱け出した後は用済みだとばかりにどこかに置いとくんだと思ってたよ」
「………」

ディーの言葉にダムは何か言いたそうにディーを見返す。何?と言わずに見返せば目を逸らされた。

「まぁ、何でも良いけど…どうする?アイツを切り潰すのは骨が折れそうだし、ぼく達のルールに反するよ」
「…わぁってるよ。ぼく達のルールは破らねぇ。だからって退屈じゃあつまらねぇ」

互いに告げて、沈黙した二人は尚も気配を感じる門番を警戒しながら逃げる足を止めない。

「けどよ、男の子は時に格好をつけたくなるんだぜ?」

続けられたダムの言葉にまたお前はとディーは溜め息を吐いた。
格好なんてつけなくて構わないから早く逃げ道をと言いかけたディーの言葉は振り返った瞬間に止まる。
前に踏み出す為の足を瞬時に後ろに切り替えたらしいダムが驚くディーの視線を受け止めてニッと笑んだ。

「ぼくに任せて逃げろや、兄弟」
「…っば…何やって…!」

慌ててディーが戻ろうとするが、既にダムの背後に門番が居て、息を飲む。

「やっほぅ、センパイ。やっぱ鬼ごっこは疲れるわ」
「誰がセンパイやボケ…いい加減にしとけやこの性悪のガキ共が」

ふざけた口調で振り返ったダムに、僅かに息を乱した門番が返した。

「…いやいやぁ、アンタの事は素直にソンケーしてんだぜこれでも。つーか頭おかしいのかよ」
「あ?おどれらのか?」
「ちっげぇよ!」

思わずオーバーリアクションで返すダムと門番の間に戻ってきたディーが入り込む。

「アナタの頭が可笑しいんじゃないのって話だよ…だって、今だってぼく達に襲い掛からないじゃない」
「…ワイにそないな趣味はないわ。勘違いと自意識過剰も大概にしとけや?」

面倒そうに告げた門番に、今度はダムとディーのアンタ馬鹿か!という突っ込みが鋭く重なった。
因みに、ダムに抱えられたままの眠りネズミはまだ起きる気配はない。

「アンタのその包帯が物語ってんだろぉが!それが何でかってのは他ならぬアンタが知ってんだろ?」
「言いたくないならぼく達が思い出させてあげるよ先輩…アナタのその、目と服に隠された包帯のキズは…ぼく達が…
ぼくとダムがつけたんだから…」

悲鳴を上げるような声が、静かな森に反響した。

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一方、別室に移動したメアーリンとジャックはアリス達から伝えられた伝言を兵士から聞いて、何とも言えない表情を浮かべていた。

「うん、まぁ待ってろたぁ言わないけどさ…」
「蚊帳の外って感じですね…」

黙って行かない分だけまだマシかと判断し、ジャックはどうする?とメアーリンを向く。
話はあらかたし終えた事だし、もうこれ以上は何も知らない。メアーリンも大体は事情を把握出来たので、聞くことはなかったけど。

「そういえば、ビルさんが最後に目撃されていたのは裁判が行われた場所でしたよね…行ってみませんか、ジャックさん」
「ん、あぁ。おっけ〜」

軽いノリで答えたジャックにメアーリンがクスクスと笑う。何だか、ひさしぶりに会話をした気がします。と微笑まれて、何となくバツが悪い気分になった。
メアーリンは嬉しそうに目を細めて、しんみりと最近はずっと、ジャックさんが違う人みたいで不安でした。と続ける。

「…オレは別に昔から変わんないつもりだけど」
「うん、分かってます。私もお兄ちゃんも、あなたが大好きですから。でも、やっぱり心配なのは一緒なんですよ」

ずっと一緒になんて無理なのは分かってる。変わらないなんて、嘘だと知っている。
立場が違えばいずれはどんなに大切な人でもー

「だから、ジャックさん」
「ん、」
「私は出来る事なら、庭師の仕事以外でこの鋏を使いたくありません」
「…メアリー、優しいもんなぁ」
「優しくないですよ、だって、私は自分の身勝手な感情で誰が相手でも傷つけようと言ってるんですから」

大切な人を守る為なら私は鬼にでも人でなしにでも何でもなります。そんな彼女の決意にジャックは考えすぎだよ、と言った。
まぁ、時計屋は気にしなさすぎだけどさと続けていつものようにヘラヘラとした笑顔を浮かべる。

「大切な人を守りたいってのはフツーだろ」

それが例えば常識や道徳的に見て間違っていようと、関係なく。だからこそ、価値観の違いでこんなにも人生は面倒なんだろうな。
そんな内心の呟きを思いながらふとジャックはメアーリンを呼び止めた。裁判所までやや加速していた足を緩めたメアーリンは不思議そうにジャックを振り返る。

「どうかしたんですか?」
「あぁ、いや…ちょっと気配を感じたからさ…」

言いながら曲がり角まで歩みを進めたジャックが左右を確認し、丁度左を向いた時、有り得ない人物に絶句した。
何を隠そう、そこには行方不明と言われていた芋虫が居たのだから。

思わず顔を見合わせた二人に芋虫は珍しい組み合わせねと驚いた表情で見返し、
「そうそう、ちょっと聞きたいんだけど…ネムを見なかったかしら?部屋に居ないのよねぇ、門番も何故か出払ってるみたいだし何かあったの?」
まさかの展開にジャックは渇いた笑いしか出ず、メアーリンは女王達に知らせるのが先か芋虫に事情と経緯を説明するのが先かと考え込んでいたー

数分後。メアーリンから話を聞いた芋虫は困惑気味にそう、と事情を把握して脱力したようにそのまま額を押さえてしゃがみこんだという。

「まぁ、そうよね何も言わずにちょっと散歩でもと抜け出したアタシも悪いけれどまさかあんな風にアイツと会うとは思わないじゃない?
逃がす訳にもいかないし見なかった事にも出来ないし多少の無茶は承知でバトルと洒落(しゃれ)こんだわよ。
戦うタイプじゃないけれど、しかたないと腹はくくったわよ。でもまさか一瞬の不意を突かれて気絶しただなんて恥ずかしいと思いながら戻ってみたらこんな騒ぎになってるとは思いも寄らなかったわ…
気持ちはさておくとして心配をかけてしまった事はごめんなさい。ありがとう、ね。でもそれとこれとは話が別という訳で」

芋虫の言い訳を聞きながら、眠りネズミが双子によって連行された話を聞いた途端に申し訳なさそうな態度から一変した様にメアーリンとジャックは冷や汗を流す。
とはいえ、二人も兵士から又聞きしただけなので詳しくは知らない。知らないが、普段から落ち着き払っている彼の目が据わっている事が怖かった。

「アタシの大事なあの子に何かあったらタダじゃ済まさないわよブラッディツインズ…」

走りながら静かに呟かれた言葉を聞かなかった事にして、予定通り裁判所へと向かう。
因みにブラッディツインズは双子の通り名でもなく、通称でもないのでただの芋虫なりの皮肉なのだろう。

「何だろうなー…芋虫とか三月見てたら帽子屋のしろたん激ラブ!が普通に思えてくるよなぁ」
「とにかく、ネムちゃんの無事を祈ると共にいざとなったら双子さん達の安全確保を優先ですね…」

それぞれの心境を胸に、かくして始まりの場所。
二年前にトカゲのビルとナナシが消えた裁判所へと三人は到着した。


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