とんだ茶番劇だぜ

『終わる為の真実』




「確かに俺はその地下に繋がる入り口を知ってはいる。だが、貴様等は知らぬ訳ではないだろう?
俺の意志がどうであれ、これ以上は役持ちの役割の範囲外だ」

王の言葉に、空気が重くなる。双子は意味が分からないとばかりにはぁ?と声を揃えたけれど、隣に座っていた女王の表情が曇り、帽子屋から笑顔が消える。
そしてそれまで黙っていた門番がどういう意味やと口を開いた。

「役持ちの役割は単にワンダーランドの秩序を守る為に決められた仕事をこなすだけなんやろ?
別に話したところで問題ないんとちゃうんかい」

認識としてはそれで概ね正解だ。好きに言うがいいと王は立ち上がり、俺からの干渉はここまでだとドアまで向かう。

「…待って、下さい」

それを引き止めたのは、アリス。どうして私はあの人を呼び止めたのだろうかと緊張しながら座っていた椅子から足を下ろした。
王は意外そうにアリスを見返し、不快そうに睨み付ける。

「…何だ」

威圧感に怯みそうになった。けれど、今、他に手掛かりもない状況で王以外には知り得ないというなら、

「おねがいします、その場所を教えて下さい!」

頭を下げてアリスは頼み込んだ。役持ちの理由なんて知らない。それがどうダメなのかも分からない。
だけど、自分が原因で芋虫が行方不明になってしまったというなら恥や外観なんて二の次だ。

「役持ちとして話せないというなら、あなた個人として…教えて、貰えませんか…?」

元の世界に戻る為にという下心がないと言えば嘘になるけれど。
責任を取れるとは言い切れない程に身勝手なお願いなんだろうけど!

「アリス、さん…」

どうしてそこまで、と困惑めいたメアーリンの声。何あれチョーみっともねぇんだけどというダムのせせら笑い。
確かにねとディーが頷いて、チェシャ猫がアリスの隣に移動する。

「無駄だよアリス」

面白くなさそうに、つまらなさそうにチェシャ猫は続けた。

「王はそういう役持ちなんだから」

その言葉に不愉快だとチェシャ猫を睨み付けた王は、結局何も言わずにそのまま退室した。

無情にも扉が閉まるのを見つめて、アリスは釈然としない気持ちを堪えながら再び他に手掛かりがないかと話始めた輪の中に座り直す。

「なんやよぅ分からん理屈やけどまぁえぇわ。ほんで?おどれは何を知っとんねや」
「ん、あぁ。オレが話すの?」

同じく気にしたように扉が閉まる方に顔を向けていた門番が切り替えるかの如くジャックに話題を振った。
ジャックは半ば気の抜けた声を出して、面倒そうにうーんと唸る。

「とは言ってもさ、確かに無関係じゃないかもってだけで手掛かりかは知んないよ?前にも言ったけど、オレが詳細を知ったのは数日後だったし
その時にしたってたまたま城の裏側で退屈しのぎしてただけで話しかけてきたのは向こう側。つか二年も前の話を詳しく思い出せって言われたって意識すらしてねーのに無茶ぶりだと思うんだけど」
「そうは言ってもね、今は少しでも手掛かりが欲しいの。そこから重要ななにかが出るかもしれないでしょう?」

やれやれとばかりに瞼を閉じるジャックに女王が申し訳なさそうに続きを促した。
何度となく似たような事を聞かれれば流石にうんざりする気持ちは分かる。

「…あの、」

不意にメアーリンがおずおずと手を上げて、気まずそうにごめんなさいと俯いてしまった。
どうした?と時計屋が問えば、ジャックさんからの話は私が尋ねてはいけないでしょうかという申し出。

「メアリー…?」
「ジャックさんとは幼馴染み、だし…こんな風に話すよりは二人で…差し出がましいとは思いますが…事情を聞いてみたいと、」

驚いたようにジャックはメアーリンを見つめ、メアーリンは困ったようにだめ、ですか?と意見を窺った。

「…なら、お前に任せる」

そうだなと呟いて優しげな笑顔で了承したのは時計屋だった。メアーリンは嬉しそうに頬を染め、はいっ!とジャックの手を引いた。
ジャックはえ?とばかりに時計屋を振り返り、気にした様子のない反応にマジかよと半笑いを浮かべる。

そのまま二人が室内から退室したのを見計らって口を開いた帽子屋は良かったの?と時計屋に聞いた。
時計屋は信頼してるからなと短く返して、悪かったなと告げる。

「俺の個人的な独断で勝手な真似をした」
「…時計屋はすごく男前だよねぇ。うんうん♪あたしは気にしてないしメアリーが言うならあたしがOK出してたよ!」
「まぁ、僕もトッキーが良いなら良いんだけどさ」

和む三人とは反対に、ダムが眉をしかめてどうすんだ?とそれを非難するように口を出した。
見るからにイライラと落ち着きなくテーブルを指先で叩き、ジャラとどこから出したのか最初に持っていた斧を構えている。

「茶番劇もイー加減飽き飽きだっつーの!何だよてめぇら仲良しごっこしてんじゃねーんだろぉが」
「っ!?」

ぐい、といつの間にか移動していたディーが変わらない表情で眠りネズミの首根っこを掴んで人質を取るかのように腕を首に回す。
動こうとした時計屋と三月ウサギに牽制する為か、「動くなよ」と彼もまた武器を構え、眠りネズミの方へと刃を向けた。

「油断大敵ってかあんな程度でぼく達が諦めるとか思うなんてどうかしてるよね。トカゲに義理はないけれど面白くもない茶番劇に付き合うのは勘弁だ」
「そーゆう事で、」

「「さようならってね」」

それぞれのニュアンスを込めた別れを告げたトゥイードル兄弟はテーブルクロスを目隠しに消えてしまった。
残された女王や帽子屋は何が起きたのかと茫然と、時計屋は油断大敵かと眉をしかめながら辺りを見回し、三月ウサギはうんざりしたようにとりあえず、と女王と帽子屋を正気に戻す為に声を発する。
ナナシは言うまでもなく平然と、チェシャ猫は何事もなかったかのようにいつも通り。アリスはといえば突然の事に頭がついていかない。
どうして冷静でいられるのか、ぼんやりと思考を巡らせて眠りネズミがさらわれてしまった事実に焦燥する。

「双子とネムに関しちゃ門番が既に動いてるから落ち着け…アンタも、いちいち気に病むな」
「三月、さん…」

言われてからようやく門番が居ない事実に気づいたけれど、すぐには落ち着けない。
目が合った時計屋は安心しろと短くアリスに言った。安心なんてどうやって出来るというのか。

「そのつもりなら容赦なく切っているだろうからな、多分…アイツ等は話してばっかりで進展しない状況に苛立ったんだろう」
「…いや、僕にはネムを人質に逃げたようにしか思えないよトッキー…」

無言で帽子屋の意見にアリスと女王も同意した。
好意的に見たとしてもそうとしか思えないのだから楽観する時計屋が分からない。

「それにしてもこんな時にしろたんが居たらあの凶悪兄弟をムチで一纏めに……」

まぁトッキーだしと判断した帽子屋がやれやれとばかりにぼやき、ふと途中であれ?と目をぱちくりさせた。

「ねぇねぇ、そういえばしろたんは?」

いつから居ないのかとキョロキョロする帽子屋に三月ウサギがジャックを図書室で見つけてから別れたっきりだなと淡々と答えた。
自他共に白兎ラブな帽子屋は今の今まで気付かなかったらしい。とはいえ、気付いていながら何も言わなかった三月ウサギもどうなのか。
因みにアリスと女王も言われるまで居ないとは気付いておらず、人の事は言えない。

「…白兎なら心配はないだろう」

周囲を調べ終えたらしい時計屋が静かに告げたのを境に、あらかたの情報は出揃ったと判断した三月ウサギは
「じゃあ地下に繋がる入り口探しと行くか」と気にした様子もなく言った。


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