新たな手掛かり

『終わる為の真実』




「私の生い立ちは省くとして。気が付いたらここに居た事すらどうだって良い出来事だもの。
とりあえず、アイツに会ったのはその時。私を驚いたように見つめたかと思えばいきなりアリスと呼んだ。意味が分からないわ。
違うと否定するのも面倒だったけど、いきなり城内に連れていかれて女王と話をした…のは良かったのかしら、まぁ結果としては悪かったのかも知れないけど」

ナナシは目の前に並ぶ女王と王に視線を向けて、恨みたいなら恨んで構わないわよ。と微笑む。

「あのヒステリックな女王と私の気が合わないなんて、あの変態になら分かりきった事でしょうに。
…これは今更ながらに私の主観でしかないけどね。それで裁判にまで発展した、と言うよりはそうね。やっぱり今から考えても分からないわ。女王は何をそんなに激昂したのかしら。
私はただ、聞いただけなのよ。首を切れ、と私に言うのだから貴女はそれで満足感を得るのかしら?
お前が気に食わないと面と向かって言われたのは初めてではないから別に構わないんだけどね。
それが貴女の支配下でのルールならそれに従うのはそうでしかないのだろうけれど、気に食わないという理由で私の首を切り落として、貴女はそれで、楽しいの?」

その表情は、変わらない無関心そうな表情でありながら嘲笑にも思える。
さぞや女王の気に障っただろうが、アリスは女王にもナナシにも共感出来ないと感じた。当事者ではないのだから当然とも言えるが、やはり何かが違うとさえ思う。

「あの…話が逸れるかも知れないんだけど…ナナシさんは、どんな話を女王様に?」
「…どんな…さぁ、どうだったかしら。
名前を名乗れと言われた訳でもなく、既にビルが私についての話をしていたのは多分。アリスというのはお前かと確認された。私はどうかしら。と返した。
ビルがアリスと言っていたからアリスなのだろう?に対してはそう思いたいなら思えば良いんじゃない?とは思ってそれきりね。どうだって良かったんだもの」

ナナシの言葉に、女王は何とも言い難い顔で頭を左右に振り、王は鋭くナナシを睨んでいる。
メアーリンは女王に大丈夫ですかと声をかけ、ジャックは退屈そうに欠伸をして時計屋に注意されていた。

きっと誰もが思うのは十中八九の原因がトカゲのビルではないかという突っ込みだろうか。
ナナシと女王の相性の悪さもあっただろうが、それを差し引いてもどうなんだろう。

「裁判で判定しましょうと提案したのもビルだったかしらね。女王を無機質な声でたしなめて、女王が正しいかどうかを裁判で決めてはどうかと言ってた気がするわ。
とりあえず、私も訳の分からないままで巻き込まれた、という点では変わらないと思うけど。…あぁ、それで続きね。
裁判は結局、知っての通りビルが裏切ったとやらで私を連れて行方をくらませた。陽動はあの双子に任せてるから安心しろと言われてもね、そもそもがどうなのよ。
頼んでも困ってもいないのにあの変態に連れ回されて巻き込まれてこの有り様よ。いくらどうだって良かったにしてもうざったいったらありはしない」
「……きみのトカゲに対する気持ちはとにかく、裁判を脱け出すにしても城の兵士が総動員する中で容易には脱け出せないだろう。一体どこを通って脱出したんだ」

今まで黙って聞いていた時計屋の問いに、ナナシは少しだけ眉をひそめる。
中断されたからではなく、思い出す為だ。

「地下…かしら。牢屋のような場所を通って、いつの間にか森に出ていた気がする…そこで、そう。
貴方、中途半端なヘタレ兵士と変態が会話を交わしてたんだった」

ジャックを指したナナシからジャックに視線が移る。そう、それがトカゲのビルの屋敷に行く切っ掛けになったのだった。
それを聞いた王は不快そうに俺の騎士は関係ないだろうと言う。

「いや、関係あるんじゃね。面倒だけど」
「お前は黙っていろ」
「…悪いけど、もう白兎とアリスちゃんに言っちゃったんだよね。ビルさんに会ったよって。
王が何でオレに口止めしたのか知らないけどさ、今更隠したって仕方ないじゃん」

王の制止を遮り、ジャックは薄く笑うとチェシャ猫にイヤになるよな。と呟いた。
帽子屋は不安そうにそれを見つめ、メアーリンもまたジャックさんと小さく呼ぶ。

「…どうするの?話を中断してそこの兵士の話を聞く?それとも私の話を続けた方が良いのかしら」
「ん、そうだな…ジャックの話は後にして続けてくれ。その後の二年間の間にどこに居た?」

ナナシの声に時計屋は冷静に告げて、そう。とナナシは話を続けた。

「主に閉鎖された部屋かしら。何度か移動はしてた気もするけど、気が付けば違う部屋になってたという印象かな。私の話はこれで終わり。
手掛かりになったかは知らないけど、思えば不毛な時間を過ごしていたものね」

締めたナナシに時計屋はこれ以上は何も知らないだろうと判断して、すまなかったな。と礼を言う。
別に構わないわとナナシは視線をジャックに向けて、次は貴方が話すのが妥当かしら。と呟いた。

そこで口を挟んだのは三月ウサギ。
視線はナナシに向けたまま「閉鎖された部屋ってのは?」と詳しく尋ねる三月ウサギにナナシは無関心そうに言葉の通りよ。と返す。

「窓のない無機質な部屋よ。」

快適とは言えなかったけど、別段不自由でもない。そういえば、とナナシは呟いて
窓がないなんて思えば妙な部屋だったわね。と無関心そうに告げた。

「窓のない、部屋…」

隣で聞いていたアリスはふとひっかかるものを感じた。仮にも逃亡していたのだから警戒してカーテンを締めるというのはあるだろうけれど、
それでも窓そのものがない部屋など、あるのだろうか。
それではまるでー

「…地下室…」

アリスが答えを出すより早く、時計屋がそう呟いて、女王に視線を向けた。

「…この城内、あるいはどこかに地下に繋がる階段は?」
「あたしが知る限りでは、囚人用の牢屋しか…分からないわ…」
「王様には心当たりある?」
「…なくもないな」

時計屋の問いに女王が首を振り、次に帽子屋が駄目元で王に尋ねてみれば意外にも手掛かりらしき意見。
本当に!?と食いつくような反応にやや眉をしかめながらも王はあぁ。と言葉を続ける。

「緊急用の逃げ道として地下から外に繋がる道があるという話を聞かされていた。まぁ、その場所を知るのは極限られた者のみで蜥蜴が知っているとは思えんが…」
「あたしは知りませんわよお兄様…」

王の言葉にむぅと頬をふくらませながら女王が拗ねたように呟いた。
仮にも一国を統べる女王でありながら知らなかったという衝撃と女王の気持ちを考えるならそれも無理からぬ話だとは思うが、王の反応は冷めていた。

「当たり前だろう。俺と違ってお前は正式にハートを継いだ訳ではないのだからな。
あの女もあえて必要はないと考えて必要最低限の旨しか伝えなかったとしても不思議だとは思わん」

随分と複雑なよく分からない話だとアリスは感じた。
会話を交わす様をひとつ取っても仲の良い兄妹とはほど遠い。しかしながら、この世界のルールでは女王が最上位に位置する地位なのではなかったのか。
だからこそ女王である彼女が幼いにも関わらず女王を継がなければならなかったと聞いていた。
けれど、こうして見るなら性格に難はあれど年齢的にも状況的にも王が代わりに役の代理を出来なかったんだろうか。

「…ふん。何か言いたそうだな異人物が…言っておくが貴様には関係も関わりもない事情だ。検索染みた真似は止めておくんだな」
「…分かってる、それに今はそんな場合じゃないって理解してるもの…」

挑発するような言い方にアリスはつい言い返しそうになった言葉を飲み込んで、落ち着いた言葉を返した。
そうだ。今は一刻も早く芋虫の居場所を。ひいてはトカゲのビルの居場所を突き止める事が先決だ。
気を引き締めるアリスを横目にそれで、場所は知ってるのかよとダムが結論を急かす。

「知ってねーならこの話は無意味だし、勿体ぶるなら時間の無駄だぜ?」
「…むしろ、今更ながらに言っちゃえば半分に別れて捜索した方がより効率的だと思うけどね」

見も蓋もなくディーがぽつりと続けて、それもそうだなと王は不遜に笑った。


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -