#04.

番外SS



しろたん。

ぼくは、いっしょう きみをひとりぼっちにしないと【やくそく】します。

だから、どうか。
なかないで。


xxx


一人ぼっちのお茶会で僕は深く深くため息をついた。甘いお菓子も紅茶も 食べきれない程あるけれど、一人ぼっちじゃ美味しくない。
使用人たちを誘うけど、とんでもない。と断られるし、父親や母親は忙しい人だから居ても居ないようなもの。

いつもなら時計屋くんやメアリーちゃん、ジャックくんを誘うんだけど、三人共 大事な用事があるとかで来られないらしい。

つまりは暇だ。つくづく交遊関係が狭いなぁと実感する。
家に居ても無駄に時間を過ごすだけだと思い 僕は退屈しのぎに散歩に行く事にした。


深い深い森を抜けて、今まで来たことのない場所に出た。とは言っても、ほとんど家とお城の往復位しかしないので当然といえば当然だけど。

少し歩いていると、不意に視界に森の緑にそぐわない赤い色が映って、目を奪われた。
ぼんやりと笑みを浮かべて道の真ん中に立ち尽くす真っ赤な髪と服装に身を包んだ黒い猫耳と尻尾の生えた少年が僕に気付いて感情がない声で告げた。

「……どうしたんだい。迷子?16にもなって迷子なんて、クローバーの名が泣くよ。帽子屋」

名前を名乗ったこともなければ、初対面の筈の少年に名前を呼ばれて驚く。

「…えっ…と、きみは?」

一度会えば忘れない筈の容姿に覚えがない為、聞き返したら少年はきょとんと小首をかしげ、あぁと手を叩く。

「そういえば会うのは初めてだったね。はじめまして。俺はチェシャ猫」

口元は常に笑んだままチェシャ猫と名乗った少年はふぁと欠伸を噛み殺して、こちらを向いた。

「ここから先は芋虫の家とそこからずーーっと行った所に時計塔があるだけで、君にとって面白いモノはないと思うよ」

時計塔?…もしかして時計屋くんとメアリーちゃんの家だろうか。で……いもむし?
全く聞いた事のない名前に僕は思いっきり怪訝な表情をしたんだろう。チェシャ猫くんが君と同じ役持ちの一人だよ。と補足する。

「…そういえば、まだ役持ちは全員顔合わせをしてないんだっけ?忘れてたよ。」

確かに、顔合わせも含めてのパーティーは行われていない。本来ならもう済んでいても可笑しくはなかった。

(まぁ、今の女王さまじゃ当分は先送りになるだろうな)

チェシャ猫くんの言葉に苦笑いしながら僕はふと、聞いてみた。

「きみも《役持ち》?それとも、騎士かい?」

詳しい事情を知っているから、そのどちらかだと思った。けれど、ゆるりと首を左右に振って否定されたものだから驚いた。

「え じゃあ、きみは 何?」
「俺はただのなぞなぞ好きの野良猫だよ。役持ちでもなければそれを護る騎士でもない」

きっぱりと言い切って、チェシャ猫くんは尻尾を揺らす。

「…そう なんだ?」

信じがたいが役持ちではないとわざわざ嘘をつく理由もないので渋々ながらも納得する。

「うん…一緒に来る?俺はこれからお城に戻るけど、暇なら」

暇潰しに。と呟かれ、僕は戸惑いながらも頷いた。丁度 暇だったし1人で過ごすよりはずっと良いと思ったから。


お城につくと、そこは何やら騒がしかった。どうしたんだろうと見ればそこに居たのはしろたんで。
駆け寄ろうと思ったのに出来なかった。無言でチェシャ猫くんが僕を止めたからだ。

「なに?離してよっ…しろたんが」
「白兎はきみと関わりたくないんだよ帽子屋。ここできみが行ったら ますます白兎が不利になるだけだよ」

?一体何の話をしているんだろうか。僕はただ、しろたんに話し掛けようとしただけなのに。

「……心配しなくて良い。白兎は女王の騎士だから、民の不満を代わりに聞いているだけだ」

不意に、チェシャ猫くんとは別の無機質な声が聞こえて。その声のした方を見れば、いつの間に居たのか。
森に紛れてしまいそうな深緑の髪でノンフレームの眼鏡をした背の高い人物が立っていた。

目が合うと、ザワリとした。何ていうか、観察されている様な冷たい目だと思う。

「君が新しい役持ちになった帽子屋か。初めまして。私はトカゲのビル、それから役はJOKERだ」

それだけ告げて、トカゲのビルという人はしろたんの方へと静かに足を運ぶ。
…何を するつもりなんだろう。

そう 思った時 しろたんに何かを言っていた人達はその人を見てその人に今度は何かを訴えている様だった。
しろたんは驚いた表情を浮かべ、次いでトカゲのビルを睨み付ける。

だが 何を言うでもなく僕と目が合うと しろたんは思い切り嫌そうな顔をした。……ひどいよ しろたん。
そう思いながら放せと意味を込めてチェシャ猫くんを見れば何の事はないとばかりにあっさり離れた。

「良いよ。もう大丈夫だろうから 気のすむまでお話しなよ。ただし――」

さっきの事は聞いちゃダメだよ。なんて 釘を差された。
ぼくは複雑な心境で 意を決して しろたんを呼び止めたんだ。


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