さて、語りましょうか

『終わる為の真実』



図書館に居たジャックを見つけたアリス達は手短に経緯を話した。
事の経緯を聞いたジャックは意外そうに、そして面倒そうに「あぁ、うん」と首をひねる。

「会ったよ。ビルさんに」

あっさりと告げたジャックに白兎が素早く鞭で縛り上げようとしたが、それを予想していたジャックは落ち着けよと鞭を掴み、白兎をたしなめる。

「会ったけど…何の意味もない会話だったし別に言う必要性も感じなかったんだよ。
チェシャも聞いてたんなら知ってるだろ?何でオレが知ってると思うかな」

軽い口調のジャックにチェシャ猫は本当にそうかい?と聞き返す。

「俺はお前が重要だと思うよジャック。だってあの時、お前は誰よりもビルの意図を把握してたじゃないか」
「……そうくるか」
「説明してくれるよね、ジャックくん…」

苦々しく笑うジャックに帽子屋は真剣な目で続きを促した。
その表情に困ったような目を向けて、何だかなぁとジャックはため息をついた。

「オレだってあの人の思惑を把握した訳じゃねーよ。ただ、アリスちゃんがここに来た原因が白兎じゃなくて、ビルさんが噛んでたって事がまず一つ。
それから、何やらあの人がアリスちゃんとナナシを利用して何かを企んでるかも知れない。
ついでにここに至るまでが多分あの人の筋書き通りなんだろうってのが予想。芋虫なんかはアリスちゃんの話を聞いただけで分かっちゃったんだろうな」

だから一人でビルに会って、何かがあったからこうして戻ってきてないんだろう。とジャックは語った。

「因みに三月も大体の予想はついてただろうし、この辺りに関しちゃオレが言うまでもないだろ」

ほら、別に重要でもないじゃんとばかりにへらへらと笑うジャックを殴ったのは意外にも帽子屋だった。

「…どうしてジャックくんはいつもいつもそうやって何でも他人が分かると思うかなぁ!
んなもん、きみが話してくれなきゃ分かんないよ!」

胸ぐらを掴んでもう一発殴り付けた帽子屋は茫然とするジャックの胸元辺りに顔を俯かせ、僕は…僕たちはそんなに頼りないのかよ…っと泣いた。

「…何で帽子屋が泣くわけ…」

殴られた痛みと、帽子屋が泣いている理由が分からず、ジャックは困惑ぎみに呟く。

「昔から帽子屋は感情的過ぎるんだよ…もうちょい考えて喋ってくんない」
「きみに言われたくないよ…」

瞼を閉じて呆れたような言葉に帽子屋はムスッとした様子でぼやいた。
そんな帽子屋をジャックから引き剥がした白兎は「どっちもどっちでやがりますよ」と続けた。

「友達が自分を頼ってくれねぇと拗ねるガキは放っとけ。んでもってテメェがどれだけ人様に必要とされてる野郎かも分からねぇ馬鹿はいっぺん死んで生まれ変わりやがれ」

吐き捨てるような白兎の言葉を帽子屋がしろたんカッコいいー☆と抱きついて台無しにする。
白兎は眉をしかめながらも面倒そうに息を吐いて、ジャックは不可解そうに殴られた頬を手の甲で拭った。

「しろたんカッコいいー。で、オレが知ってるのはこんだけだけど、これがどう繋がる訳?」

帽子屋と同じセリフを吐いて、白兎に睨まれたジャックは軽く笑みを浮かべてチェシャ猫を向く。

「さぁ。繋がるかも知れないし、繋がらないかも知れない。
トカゲをよく知る芋虫が居ないこの状況で次に重要なのは誰だい?」

チェシャ猫はいつもと変わらない笑みで告げて、問い掛けた。
テメェが考えるんじゃねーんですか。と白兎がぼやいたけど気にしていないようだ。

「…芋虫さん以外にトカゲの人に詳しい…なんて、」

思い浮かぶのはたった一人。

「ナナシ、か。けどそれだけじゃ判断しかねるな…」

アリスの言葉に続けた三月ウサギは静かに考え込んで、こうなったら女王や王も必要だな。と結論を出す。

「…時計屋とメアリーも呼んどく?」

こうなれば最早全て流れに任せろとばかりに投げやりなジャックが溜め息と共に言った。
白兎はそれに対して、ならそれぞれ分かれて食堂で合流する流れで構わねぇですねとまとめた。
そして、終わる為の真実を知る事になる。

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中央に、このワンダーランドを統べる幼いハートの女王。隣に、不機嫌そうな視線で睨み付ける引きこもりのスペードの王。
それぞれの左右にはハートとスペードの騎士であり幼馴染みのメアーリンとジャック。メアーリンの隣には時計屋が座り、それに寄りかかる眠りネズミの向かいには帽子屋と三月ウサギ。
帽子屋の隣には緊急事態だからと強制的に連れてこられた門番が肘をついており、門番の前には面倒そうなトゥイードル兄弟。
そして、女王の目前にアリス。その隣に王と向かいになるナナシ。チェシャ猫はアリスの隣で椅子に寄りかかっている。

「…なるほど。経緯は分かったけど…あたしだけでなくお兄様や門番まで集める理由は何かしら」

成り行きを聞いた後の女王の第一声は恐らくその場に集められたほぼ全員が思う疑問だろう。
特に、一番来ないだろう王まで居る事は意外と同時に別の意味で有り得ない。

「…芋虫が見つかるんやったら別に協力は惜しまへんけどな、…早よしてくれへんか。門番が門の番せぇへんとかどないやねん」

早く終わらせろ。と門番の急かす声に続くのは双子だ。どちらもぼく達関係ないじゃんとタカを括っているがその意見に三月ウサギのトカゲに協力してただろ。と突っ込みが入る。
黙りこんだトゥイードル兄弟は不満そうに舌打ちをするとそれで、とアリスとチェシャ猫を向いた。

「何を話し合おうってんだよ黒いのと笑い猫。ぼくもディーも何も知らねぇし、あのトカゲ野郎の考えてる事なんざわっかんねーだろ」
「そうだよ。こんな不毛な時間を過ごすくらいならまだ退屈な門の番をしてた方がマシというものだよ」

そんな双子の文句を聞いているのかいないのか、チェシャ猫はふぁ、と欠伸を一つ。
変わらない様子でトゥイードル兄弟を見返していつも通りに笑う。

「…出ていきたいなら出ていけよ。別に俺は強制はしていない」

無感情な声で告げられた言葉にその場の空気が変わる。
これでいつでも退室できるというのに、誰も動けない。

「相変わらずの勝手さだな…ここまで巻き込んでおいて今更だろう。異世界の女はどうだって構わんが、元凶が蜥蜴だと言うなら俺が動かない理由もない」

不遜に言い返す偉そうな王に、女王はどういう風の吹きまわしかしらと怪訝な視線で王を見つめた。

「引きこもってたお兄様の言葉に説得力はないです。素直にジャックの為だと仰ってくださればときめきますのに」
「……気色の悪い妄想に俺と俺の騎士を巻き込むな。蜥蜴の件は単に母の償いをさせる為だけに過ぎん」

そんな実妹に軽蔑の視線を返した王は、不快そうに吐き捨てる。
険悪な女王と王に咳払いをした時計屋は、とりあえずと前置きをして一つの見取り図をテーブルの上に広げた。

「昨日から俺も改めて調べていたんだが…いくつかきみに聞きたい事がある」

立ち上がった時計屋は丁寧にナナシに向けて、例の裁判から二年間の間にきみはどこに居たのか。覚えている範囲で答えてくれないか。と尋ねた。

「…それなら既に私は知らないと答えた筈だけれど…そういえば具体的には話していなかったかしら。面倒……」
「おおまかでも構わない。森だったか、どこかの室内だったか、外の様子は騒がしかったか。どうやってきみと彼があの裁判から脱け出せたのか」

続けられる問いに、ナナシは無関心そうな表情を向けて、私もはっきりは覚えていないけど。と口を開く。

「そうね。別に隠す理由もあの変態に対して義理もないのだから、いいわ。この面倒な状況が終わるなら語りましょうか」

あっさりとナナシは言い、それぞれが思い思いの沈黙と視線を向ける中で二年前から現状に至るまでの話を語り始めた。


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