#02.

番外SS



例えばきみが、
なにかに囚われているのだとすれば、ぼくはきっとどんなことをしてでも、
きみをたすけにいくと、この胸にちかうよ。

xxx

痛みはない。外傷を受けた様子もない。

恐る恐る振り返れば、誰かの背中があって、庇った女の子が小さくお兄ちゃんと呟いた。

「大丈夫か…?メアーリン。それから 礼を言う。帽子屋――ありがとう な」

多分、女の子に向けられた笑顔で そのままお礼を言ったんだろう。兄妹共にトキメイた僕は浮気者でしょうか しろたん。

「危ないな…飛び出してくるなよ時計屋。死んだらどうするんだ」
「妹を見殺しにする位なら死ぬ。それから 覚悟は出来ているんだろうな三月ウサギ」

時計屋と呼ばれた漆黒の髪の少年は腰に携えていた刀を鞘から抜いて三月ウサギと呼んだ少年に向けた。

「もちろん。アンタが来るのが見えたからな。こうするだろうと思って」

ニッと 三月ウサギが楽しそうに笑った。
………もしかして、僕 利用された?

「ッ……ふざけるなよ三月!!俺が狙いなら俺だけにしろッ…メアーリンを巻き込むな!!」

シスコンですかお兄ちゃん。でも激しく同意見だよ。

「んー…でも こんな茶番じみた事でもしないと、その面見られないだろ?」

……茶番って、本気で殺すつもりはなかったと?ふざけるなよ。いくら温厚な僕でも怒るよ。

「…まぁ、悪かったよ。正直 見捨てて逃げる口先だけの奴だろうと思ってた事は訂正するよクローバー」

時計屋の攻撃を避けながら酷く綺麗な笑顔で三月ウサギに言われて ちょっと揺らいだ。
容姿が整っているって卑怯だと思う。

それに、よくよく見れば三月ウサギが手にしていた銃はいつの間にかしまわれていて ただ避けるだけに徹している。

(…時計屋くんに構われたくて、した事だって言うのは本当みたいだ…)

だって 刀を振り回されて睨まれてるのに 愉しくて堪らないって表情をしている。なんとなく三月ウサギの気持ちが分かって、僕の怒りは静まった。

しろたんに冷たくされたって、構ってもらえるなら怒ってても殺されそうでも嬉しい。だって、その時だけは自分の事だけ考えて自分だけを見ているのだから。

そんな考えを巡らせていると、青い隊服を着た兵士がいつの間にか隣に立っていた事に気付いた。

「あ、さっき白兎を口説いてた人じゃん。巻き込まれたんだ?災難だね〜」

へらへらと笑って言う兵士に見覚えはない。むしろ しろたん以外眼中にない。

「その顔は覚えてなさげ?ははっオレって印象薄いんだなー!っても 話はしてないから当然か」

爽やかな見た目にノリの軽い口調。何だかキャラが被る。まぁ、僕の方が格好良いけどねっ!!

「ここで鉢合わせたのも何かの縁だし、自己紹介しとくな?オレはジャック。今年入ってきたばっかの新参者。で アンタの下にいるメアリーの幼馴染み」

言われて彼女の存在を思い出す。見れば顔を真っ赤にしてこちらを見上げていた。

「…ごめんねっ☆」
「ぃ いえっ気にしないで下さい!」

素早く離れて謝ったらメアーリンちゃんはふるふると首を左右に振る。
可愛いなぁもう。

「んで、あっちの刀振り回してんのが同じく幼馴染みの時計屋とストーカーの三月」

気にせずにジャックくんが説明して、どうしよっかなーと呟いた。
止める方法を考えているんだろうか。自然な動作で一般兵士に支給される剣に手をかける。

…僕が絶句したのは言うまでもなく。

一気にのんびりとした爽やかな印象が成りを潜め、狂気のソレに変化したジャックくんは 飛び込んでいったから。

「!!ッ…の馬鹿が!あれ程剣を抜くなと―」

焦る時計屋くんの声。

「あ゛ー…面倒臭いな…」

だるそうな三月ウサギの声。

「……あーァ、避けられちゃったぁ〜。綺麗な血が見れると思ったのに。つっまんねー」

柄が違いすぎるジャックくんの声。……うん。
つーかキャラが違いすぎませんか。

「……三月。一時休戦だ。この馬鹿を止めるぞ」
「了解」

二人とも溜め息を吐いてまるで打ち合わせでもしていたかの様に動いた。

そして 数分間の攻防の後、ジャックくんの剣を銃で三月ウサギが弾き飛ばして、時計屋くんのキッツイ蹴りがジャックくんに入った。

ぅわぁ。いったそー。

土埃にまみれたジャックくんが気の抜けた声を上げて起き上がる。

「ッ〜〜痛ぅ!!時計屋 ちょっとは手加減してよ〜」

「知るか。自業自得だ」

情けない表情のジャックくんを時計屋くんが冷たく突き放す。
三月ウサギは興味が失せた様で欠伸を噛み殺していた。

もしかして日常茶飯事なんだろうか。明らかに個性的過ぎる面々に僕が引いたのは分かって欲しい。

「…ごめんなさい。びっくり しましたか?」

眉を八の字にしてメアーリンちゃんが申し訳なさそうに僕を見ている。

「びっくりしたけど大丈夫☆君に罪はないよっ!」

悪いのはアイツ等だから。確実に。

「良かった…お兄ちゃん達 ああやって喧嘩ばっかりするけど、優しくて良い人だから…その…仲良くしてあげると嬉しい…です」

なにこの可愛い生き物。ごめんしろたん。僕 浮気しちゃいそうです☆

抱き締めようとした時、時計屋くんが素早くメアーリンちゃんを引き寄せて、僕を見た。

「巻き込んだ事に関しては謝るが、メアーリンには触るな」

………睨まれてるんだけど 何となく可愛いゾ♪その独占欲。

「りょーうかい〜☆代わりに君に抱きついちゃう♪」

ふざけて時計屋くんの頬にキスをして抱きついてみた。
メアーリンちゃんが悲鳴にならない声を上げてジャックくんが口笛を吹いた。
次いで三月ウサギの痛い視線を感じて、時計屋くんの視線が呆れに変わる。

「…お前は白兎にしか興味がないと聞いていたが。男なら誰でも良いのか?」

いや、まさか。気に入った人限定だよっ☆

「一番はしろたんです。でも、トッキーも気に入っちゃったからつい♪」

微笑みながら言ったら時計屋くんの表情が不服そうになる。

「……何だそのトッキーっていうのは」

突っ込み所はそっちですか。そして新鮮で楽しいんですが襲っちゃって構いませんか?

腰に手を回して更に密着してみたら意外と抵抗はなくて、じっと見つめていたら無表情で見つめ返される。

あれ?これは唇を奪っちゃっても構わないって意味かな?
わぁい☆それじゃあイタダキマ――ごりっ。

……冷たい金属がヒヤリと頭皮に触れて押し付けられた。

「死ぬ覚悟があるなら、続けろよ帽子屋。その瞬間アンタの脳髄が飛び散る羽目になるけどな」

静かに低い声で囁く三月ウサギの声。あはは☆ごめんなさい。すっごく嫌です。

即座に時計屋くんから離れてキスは潔く諦めた。

そんな事がきっかけで僕はいつしか彼等と仲良くなっていって。

しろたんが、僕の知らない間にいつの間にか女王様の側近になっていたと知るのはもう少し後の話だった。


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