#01.
番外SS
物心ついたときには もうそばにいて。
しろくて きれいなきみに僕は ひとめぼれをした。
xx純愛セレナーデxx
僕と彼は俗にいう<幼なじみ>で昔はよく一緒に遊んで泣いて笑っていた。
それがだんだんとなくなって僕が《役持ち》のクローバーになった12歳の日を境に突然、彼は僕を避けるようになった。
呼び掛けても、抱き締めても、冷たい視線を返されて理由も何も分からないままひどく悲しくなってしまう。
こんなに僕は君がすきでたまらないのに どうして。
「……ッ加減 ウザってぇんですけどね。どうしたらテメェは俺に構わなくなるんです?」
ある日しつこく問いかけたら可愛い顔で吐き捨てる様に告げられた。
「ッ…しろたん変だよ!あんなに仲良しだったのに何でそんな事いうんだよ」
溜まっていた憤り。つられて叫んでしまった言葉は、大好きな彼の表情を曇らせてしまう。
そんな表情をさせたいわけじゃないのに。以前の様に、笑ってほしいだけなのに。
「…しろたん…ごめんね?でも…っきみを苦しませるつもりはないんだ。ただ、僕は――しろたんが大好きで側に居たいと思っているだけなんだっ!!」
抱きついて叫んだら鞭でしばかれて閉め出された。ひどいと思う。
たまたま通りがかった茶髪の兵士くんが何でか大爆笑してたけど、それでもひどいと思う。
こんなにも大好きで仕方ないのに、しろたんは僕がキライなのかなぁなんて悲しくなっていると、黒くて短い髪にピョコンと茶色いウサギ耳の生えた同い年くらいの少年と目があった。
「…何してんだ?アンタ。そんなトコで座り込まれると邪魔なんだけどな」
だったら避ければいいのにと思った。道はさほど狭くもないのだから、いくらでも通れるだろうに。
「何様のつもりだよ?避ければ良いだろ。僕が何をしてようが僕の勝手だ」
睨み付ければ 彼はきょとんとこちらを見返す。
「…まぁ、確かにそうだけどな。アンタが何をしてようがアンタの勝手だし、俺には直接関係ないけど、邪魔なもんは邪魔だ。他に与える迷惑も考えろよ」
………正論だ。
でも もっと他に言い方って言うものがあると思うんだよね。
「…躾(しつけ)がなってないウサギだね。僕が《役持ち》だと知ってもそんな口を聞けるか?」
ムカついたから見下す様に言ってやった。
大体、こんな風に偉そうな奴に限ってそういう肩書きに弱いんだよ。ひざまずいて 謝れ。
しろたんに冷たくされた八つ当たりも込めて僕は言った。なのに
「知ってるよ。アンタがクローバーの帽子屋だろ?」
………………知っていてそんな態度を取る奴を僕は初めて見た。もしかしてこの少年も《役持ち》かと思ったが
「白兎を口説くキチガイだって、兵士の間で有名だしな。嫌でも目に入る。……因みに俺はただの一般兵の1人に過ぎないからな」
あっさりと消したきゃ消せよと静かに告げた。虚勢を張っている訳でも、無気力な訳でもなく、何でもない事の様に。
「変な奴だね。君は。……死は怖くないの?」
「へぇ。殺すつもりだったのか。まぁ…消したきゃ消せよって言ったけどな」
曖昧に言葉を切って少年は笑んでいた。その手には兵士が扱う<剣>ではなく、銀色に鈍く光る<銃>があって。武器を出す隙もないまま胸元に押し当てられていた。
「出来るモンならやってみろっていう事を前提で、な。生憎と大人しく従う程 飼いやすいウサギじゃねーんだ」
………相変わらず表情は変わらないし 淡々とした話し方のまま彼は指を引き金にかける。
殺される?僕が、こんな簡単に。しかも、役持ちでも通称を持つでもないただの一般兵士に?!
なんて天変地異だよ。有り得ないし嘘みたいだ。思わず少年を見つめたら、不意に見知らぬ声が聞こえた。
「……ッなにをしているんですか?!三月さんっ!!」
見れば、可愛い女の子が血相を抱えて驚愕に目を見開いていた。
「…………メアーリンか。見たら分かるだろ?」
「分かるも何も分かりたくないですっ!!あぁあ もう 大丈夫ですか?見知らぬ人」
ととと と走り寄って即座に救急セットを鞄から出した女の子が心配そうに僕を覗き込む。
「怪我はないですか?」
「…え あ うん。大丈夫」
あれ?不覚にもトキメイた。優しさに弱いのかな僕。
「…退けよメアーリン。アンタを傷付けるつもりはないし、ただ単に痛い目見せるだけだから」
冷静そうに見えて 意外と粘着質らしい奴は未だ狙いを定めたまま告げた。
「性格悪ッ!」
思わず口に出してしまった突っ込み。聞いた少年の耳がぴくんと動いた。
「そりゃ、どうも」
お互い様だなという呟きと共に引かれた引き金。思わず目を瞑って女の子を庇った。
銃声が聞こえて耳鳴りがする。
硝煙の匂いが鼻について数秒間の間 僕は固まったまま動けずにいた。