『ワンダーランドとハロウィン』

番外SS



 
10月31日。はろうぃん。

どうやら この不思議世界にも ハロウィンは存在するらしい。
そもそもアリスとしてはハロウィン自体 何を目的とした行事なのか未だ判ってはいない。

仮装して お菓子を貰うだけなのか。と 冷めた認識で事足りているし、そんな年齢でもない。

(……なのにどうして私 魔女のコスプレをさせられているのだろう…)

黒いローブを着て 手にほうきを持ちながらアリスは遠くを眺めた。

「とりっく☆おあ☆とりーとぉ〜♪」

目の前では帽子屋がドラキュラの格好をしてはしゃいでいるし、隣で眠りネズミがうつらうつらとしながらお化けの布を被って手を上げる。
…そのままでも充分コスプレだと思うのだけど。

「チェシャ猫…この世界でハロウィンって そんなに重要なイベントなの?」

アリスは振り向かないまま傍に居るチェシャ猫に聞いた。

「別に俺とか 三月ウサギ的にはなくても構わないけどね。帽子屋がお祭り騒ぎ好きだから 必然的に付き合う羽目になる」
「………」

そう笑いながら言うチェシャ猫の格好は包帯がぐるぐると巻いてあるミイラ男のコスプレになっていた。
凄く納得出来るのが何だか悲しいが。
帽子屋ならもう何でもアリな気がしてアリスは諦めの溜め息をついた。

「…まぁ あれはあれで良い退屈しのぎになるから。それに貴女の可愛らしい姿が見られてアタシとしては悪くないわね」

フランケンシュタインのコスプレをした芋虫はアリスにバスケットを渡しながら微笑んだ。
バスケットの中には芋虫お手製のお菓子が沢山入っていて、とても美味しそうだ。しかし、ここである疑問が生じる。

(あれ?ハロウィンってたしかお菓子を貰いに近所を回るんじゃなかったかしら?)

アリスが首を傾げているとひょいとお菓子を1つ掴んでいく手があった。目線で追えば、狼男の格好をした三月ウサギが何の躊躇いもなくお菓子を食べている。

目が合うと 三月ウサギはニヤリと笑った。

「帽子屋みたいにイベント好きな奴は少ないからな。お菓子を貰って回るんじゃ直ぐ終わりだ。だから 仮装してお菓子を配って行くんだよ」

淡々と言葉を連ねて説明してくれたけれど、それと摘まみ食いは別だと思う。
そんなアリスの心の突っ込みは言わないまま
かくして不思議世界のハロウィンは開始された。

xxハートのお城・門前
xx

さっそく 門の前に着いた芋虫以外のメンバーは門番らしき人物に声をかけた。

「とりっく☆おあ☆とりーとぉ〜♪ってアレ?今日は門番じゃないんだ☆」

トリックオアトリートの間違った使い方は気にしてない帽子屋が門の前に立つ二人の兵士にお菓子を手渡して聞いた。

「はい。門番は急用があるらしく 本日は私達が代理を務めております」

礼儀正しく敬礼をして赤い服を来た兵士が告げる。

「うーん、そっかぁ☆じゃあ今日はお城の中には入れないね〜。残念☆」

帽子屋はくるりと向きを変えて次へ進む。

「お城の中は門番の許可がないと入れないんだよ」

チェシャ猫が補足説明をしてくれた。

「まぁ またの機会って事だな。っと 忘れてた…これ 女王と王の分な」

三月ウサギが兵士に幾つかお菓子を手渡し 帽子屋の後へ続いた。

「お預かり致します。では お気をつけて下さい」

緑の服を着た兵士がお辞儀をして去っていくアリス達を見送った。

xx時計の塔xx

乱雑した部屋を2つ程通ってアリス達は時計屋の居る部屋へ辿り着いた。崩すと怒られるぞと言う三月ウサギの忠告など聞きもせず帽子屋が突き進んだ結果。

案の定、帽子屋は積んである本を崩した挙げ句、見るも悲惨な状態にしてしまう。
ぐちゃぐちゃにしてしまった本を見つけ、物凄く機嫌の悪くなった時計屋に20分程みっちり怒られた帽子屋は暫し凹んで部屋の隅で小さくなった。

「まぁまぁ そんな怒んなって。帽子屋だし 仕方ないだろ?」

三月ウサギが時計屋を宥めて 眠りネズミがじっと見つめている事に気付いた時計屋はふぅ と息をつく。

「…何の用だ。用がないならお前とキチガイ帽子屋は今すぐ去れ」

三月ウサギと帽子屋限定で名指しして時計屋は言った。

「時計屋 つめた〜い☆折角会いに来たのにぃ〜」

よよよっ とお姉さん座りで嘆く帽子屋に

「相変わらず だな。もうちょっと心を開けよ時計屋」

くい と時計屋の顎を持ち上げて楽しそうに笑う三月ウサギ。
時計屋の気持ちが解らないでもない。と アリスは思った。

「と いうかね☆もう 時計屋のところでお菓子配り終わっちゃうんだよね〜」

時計屋のイラつき等 気にも留めずに帽子屋はソファーに腰掛けてぼやく。

「だからさ☆お菓子くれなきゃ 悪戯するぞ♪の通りに悪戯しちゃおうかな〜。なんて」

するり。帽子屋の手がガッチリと時計屋を拘束して。

「…へぇ♪帽子屋にしては気が合う案だ。大賛成」

三月ウサギが心底 楽しそうに笑って時計屋の身体に手を伸ばす。

「…お前等…何する気だ…!?離せ。近い」

時計屋が眉間に皺を寄せて目を菅める。
アリスは沈黙したまま眠りネズミの目隠しをして階段の踊り場に避難した。チェシャ猫はにんまり笑みながら事の行く末を眺める。

「ふっふっふ〜♪観念するんだ!!トッキー☆」
「諦めて 良い声で啼けよ。時計屋」

楽しそうに笑う三月ウサギと帽子屋に為す術もなく。

「……―――っは…や め…っっっ――!!」

時計屋の必死に声を押し殺して耐える声がアリスの耳に数分間聞こえた。

xxx

「…―は…お前…等…ッマジで――っ…殺す!!」

数分後。くすぐり地獄に ぐったりとして時計屋は息も絶え絶えに呟いた。

「やんっトッキーだって案外嬉しかった癖に☆こぉのツンデレ☆」

帽子屋が笑いながら時計屋のほっぺたをつん、とつつく。

「…やっぱ お前の嫌がる面は好みだな。なぁ 俺専用になれよ いい加減」

三月ウサギがひょいと時計屋の顔を除き込んで口説く。
チェシャ猫に終わったと聞いて部屋の中へ戻ったアリスと眠りネズミはドSコンビに絡まれる時計屋を見た。

「アリスも見れば良かったのに。必死に笑いを堪えながらくすぐり地獄に喘ぐ様は必見だったよ」

……時計屋の滅多に見られない姿を見られるのは良いんだけど、
来る度にあぁも無体な事ばかりされていたら その内ハゲるんじゃないかな。時計屋。

「…笑い猫…お前も俺に喧嘩売ってるのか…っ」

チャキ。時計屋の手に日本刀が握られる。

「うあ☆キレちゃった〜」

帽子屋がいつもの変わらないノリのまま呟いて、アリス達は逃げる様に
(と いうよりは 実際に逃げながら)時計塔を後にしたのだった。

xx帽子屋の家xx

「…はぁ…それにしても…帽子屋の事だから もっと沢山の場所を回るのだと…思ってたけど」

やや 息を切らしながらアリスは呟いた。

「大体はお城がメインだからね。街に行っても良かったんだけど 変人扱いされるだけだし」

チェシャ猫が息切れ1つせずに笑う。

「時計屋に お菓子…渡した?」

ぽてぽて と歩きながら眠りネズミが聞いた。

「ん あぁ。一応 置いてはきた」

抜け目なく三月ウサギが答える。

「お帰りなさい。早かったわね?楽しかったかしら」

芋虫が出迎えてくれて、

帽子屋は鼻唄を歌いながら早くも席について激甘なホットミルクだったモノを飲んでいる。

「うん お城に入れなかったのは残念だったけど…楽しかったよ」

アリスは思ったことをそのまま告げて同じく席についた。
そしてハロウィンというイベントも悪くはないかなと思った。

xxオマケの時計塔xx

乱雑した部屋で脱力感に襲われた時計屋の前に青い服を着た兵士がひょっこりと顔を出した。

「うっわ。何これ!!また派手に暴れたな」
「……聞くな。部屋を変えれば良いんだ…所でお前は何の用だ…スペード」

両手を上げたまま兵士は あーと声を出してポケットからお菓子を手渡した。

「ジャックだって。スペードは部隊の名前だし、あとハッピーハロウィン♪って事ではい」

にぱっと笑うジャックのお菓子を受け取りながら 時計屋はもう1つのお菓子の存在に気付く。

「…茶でも淹れてやる…待ってろ」

微かに微笑みながら時計屋は台所へ向かった。


ワンダーランドとハウィン。終。



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