chapter2ー16『夢魔の一人語り』

終末アリス【改定版】



 
 何処でもない場所。狭間の世界で彼女はそれを眺めていた。
 便宜上、彼女としたが、外見からは彼、とも、彼女、とも見れる。少年のような少女、少女のような少年。
 どちらでもあって、どちらでもない彼女は口上を述べるかの如く、口を開く。語る。誰にともなく、誰かに聞かせる訳でもない物語を。
 さてさて――。
「いよいよ終幕が近付いてきたのでしょうか。ワタクシがここで何を語ろうと、物語は関係なく進むでしょうが。
「いまいち分かりにくいという誰かの為に不肖ながらワタクシが簡単にあらすじでも語ってみましょう。ではまず前提として物語は今から二年前――258代目である先代ハートの女王が元ジョーカーの蜥蜴に裏切られた事から始まりますわ。
「それを切っ掛けに発狂した女王から、幼い娘が現ハートの女王を受け継ぎ、先代は紅の騎士と共に姿を消した。裏切り者の蜥蜴のビルは『アリス』と呼んだ少女――ナナシと共に同じく行方を眩ませ、逃亡を手伝ったトゥイードル兄弟も行方知れず。
「そして二年後である現在。現ハートの女王とスペードの王である兄妹と役持ちたる彼等、並びに役持ちの騎士と関わっていくのはこの世界に迷いこんだ少女――アリス。
「彼女が元の世界に戻る為にと話を聞いていけば、彼等もまた思いも寄らない過去に気付く。彼等、あるいは彼女等の様々な思惑が絡んでこんがらがった結果にして経過がこの物語、といったところでしょうか。
「さて、では改めて。迷いこんだ少女――乙戯アリスがワンダーランドに落ちてきたのは蜥蜴の仕組んだ計画だった。
「蜥蜴のビル曰く、ワンダーランドの理(ことわり)を壊す為。厄に介入されない者であれば誰でも良く、たまたま彼女は選ばれた。それだけの経緯だそうですわね。
「前例として蜥蜴のビルはもう一人のアリスこと厄介者。堂羽ナナシに出会った事によって役から抜けた身である。それにより二年前の裁判で女王を裏切り、紅の騎士と共謀した――ここまでが語られたまとめですわ。
「それら含めた二年間。こんなに不自然な出来事をどうして今の今まで誰も疑問に思わなかったかーーは、ワタクシには知る由はありませんが、
「そうですわね。
「誰にでも思い出したくない記憶があるように、引っ掛かりながらも曖昧に誤魔化していた、と考えれば如何でしょう。
「人は忘れる生き物ですわ。狂った世界の住人とてそれは然り、ワタクシとて忘れる生き物ですもの。忘れてしまえるのですから、仕方ないのですわ。
「例えば、それが大切な事でもーー
「とはいえ、ワタクシはただの傍観者ですから、この物語が終わらない以上の真実は語れませんけれど。まあ、それは追々、いつかの機会があれば」
 頭を下げた彼女は幕を閉じた舞台の上に立つかのように口上を終える。
この茶番劇がどのような結末を迎えたとしても彼女は淡々と語るだろう。
 何故なら彼女は舞台から外れている。どこにでも居て、どこにも居ない、ただの夢。
 夢魔(ナイトメア)は夢を見ないモノ。
 夜の帳が落ちていく。薄暗い闇が満ちていく。さあ、再び幕が上がる。
夜明けまではまだ遠い、長い長い一日は終わらない。


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