閑話番外ー06『トゥイードル兄弟』

終末アリス【改定版】



 
 双子なんて珍しくも何ともない。例えばこんな狂った世界だってさ、探せばいくらでも居る。
 トゥイードル家のダムとディーは似ている双子ではあったけれどそっくりそのままは似ていなかった。
 違いが分からないと他人は言うね。よく見れば違うだろ?
 でも考えてみれば同じような顔の奴が世の中には居るんだから双子だからって何だと言うのか。同じ腹から産まれた血を分けた兄弟に違いはない。
 そういう思考で育ち、たった二人の兄弟である彼等は実に好きなように生きた。
 気紛れに同じ格好をする事もあれば、反対に全く違う格好をする事もある。
 え? 双子? どっちがどっち? 名前間違えなんてしょっちゅうなんて質問は飽きた。人生は退屈にして単純である。
 思春期の青少年にありがちな斜に構えて大人をバカにする。下らない他人を見下して、自分たちが特別だと思った時期もあった。
 しかしそれを黒歴史だとは思わない。
 いつか思い知るとは分かってるのにそれでも正そうとは思えないから諦めろと笑い飛ばす。
 好きなように生きて、楽しんで、適度に刺激的であれば良いのだ。

「だからぼく達のルールを作ろう」
 言い出したのはディーだった。ダムとは違って冷静な彼の提案にあっさりと乗った。退屈だったからだ。
「ペナルティはあんのかよ?」
 ニヤニヤしながら聞き返せば、ディーはつまらなさそうに眉を寄せる。
「まだルールを決めてないのに罰を決めるのかい。お前らしいけど」
 退屈なのはお互い様。しかし遊び心でも何でもやるからには全力でがモットーだ。その内忘れるけれど。
「ひゃは、何事もルール違反にペナルティはお約束だろぉ? ぼく達は邪道で王道を狙うトリッキーなツインズだぜー♪」
「……横文字にハマってるのは構わないけど歌うな。同じ双子として恥ずかしいよ」
 げらげらと笑い転がるダムに呆れた目を向けるディー。まぁ冗談はさておくとして。と言ったダムはニヤニヤとした笑みのまま胡座(あぐら)をかいていた膝をとんと叩く。
「よっし! ゲートガーディアンに相応しく、グゥレイトッなザ=ぼく達はこれより誓いを交わす!」
「……」
 誰かこの痛々しい片割れを止めてくれ。と蔑みの視線を送ろう。ディーは冷ややかな目をダムに向けた。
「我が血に誓う。これより我が二人で一人の誓約者は門を守る為以外には殺さずを貫くと」
「急に西洋化? どこのなんちゃってラノベ?日本武士?いや日本節? どれでも良いけどそれがルールか」
「ノれよ! ここは見つめあって契約の禁断近親ちゅーをぶちかますとこだっぜぇ?」
「普通に気色悪い台詞だし有り得ないんだけど死ねよバカ微生物に例えるのすら微生物に失礼だからとりあえず土に埋まれ」
「罵詈雑言!? …まぁ確かに気色悪いや。いっくらありがちな設定でもぼく達はナルシストじゃねーし邪道だからなぁー」
 下らない会話を交わす。時々というか常にこの同じ顔でありながら違いすぎる片割れは死んでくれと思わない日がない。
「重症だな……帽子屋の影響受けすぎじゃない?」
「あんな異常味覚破綻で白兎狂いと一緒にすんなよなぁ。アイツはガチでぼく達の設定はネタだ」
 ネタだったのかとディーは衝撃を受けた。それにしたって限度を考えろとも思った。
「ぼくも入ってるのか、止めてくれよ切実に。…で、ペナルティとやらはどうするんだ」
「んー、そーだなー」
 ダムは目を細めて両腕を後頭部に回した。
「その時はきっと、ぼく達が門番じゃなくなったって意味だよなぁ?」
「でも……他にやる事もないじゃないか。そこまで真剣に守ってる訳でもないんだし」
「おいおい、あの野郎にテメェより有能な門番になってやんぜ! って啖呵きった手前でかっこ悪ぃじゃねーかよ」
 現在の上司にして門番。憎たらしいが実力は双子よりもはるかに強い。
「下らないプライドだね。でもまぁ同感かな、大人にナメられたまま諦めるなんて物分かりがイイコ過ぎる」
「悪には悪の美学とプライド! ぼく達は善でも悪でもねーけどな」
 互いに不敵な笑みを浮かべて、ダムとディーはとある退屈しのぎのルールを決めた。
「もしも門番の仕事以外にぼく達が誰かを殺したら、その時は」
「ぼく達がぼく達ではなくなる。つまりは双子としての遊びは終わる……かな」
「だな。ぼく達が兄弟じゃなくなるのがペナルティだ」
 所詮、退屈しのぎの遊びだけどな。
 それでも、そんな下らない遊びを破らない為にぼく達は結構、真剣だったりしなくもない。


 二人ごっこの一人び。終。


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