閑話番外ー01『芋虫と眠りネズミの出逢い』

終末アリス【改定版】



 

「おどれは毎回毎回毎日毎日、とっかえひっかえワレの前を通ってからに。
嫌がらせか。遠回しなイジメか。むしろモテモテ自慢かコンチクショウ!」
 城に居る恋人に会う度に門を通る為、必然と顔見知りになった門番に愚痴られながらの突っ込みが入り、芋虫は何よそれと振り返る。
「アタシはただ、来る者を拒まず、去る子には感謝を惜しみなく伝えるだけよ。アンタがモテない理由はその言葉遣いじゃないかしら」
「この口調はワレの一部や! そない簡単にやめられるかい。これを含めて好きやねんて子がきっと運命の赤い糸で繋がっとるんや。
全然羨ましくなんかあらへんねんからな!!」
 悔し涙を流しながら訴えられても負け犬の遠吠えにしかならない。
 門番とのコントじみた会話をそこそこ楽しみつつ、芋虫は妖艶な笑みを浮かべた。
「安心なさいな、折角こんなに男前なんですもの。どうしても運命の子が現れなければアタシが隅から隅まで愛してあげるわ」
「………笑えへん冗談や」
 勿論、冗談でも本気でもあったのだけれど、芋虫は肯定も否定もしないでニッコリと笑いかける。
 門番は拗ねたような表情を変えて、「せやけど」と言葉を続けた。
「正味な話、おどれもそない遊んでばっかりいられへんのとちゃうか? 役持ちになったんやろ、騎士とか決まっとるんか?」
 真面目に問いかけられて、芋虫は言葉に詰まる。
「……それ、なのよねぇ…どうしても騎士を選ばなきゃいけないモノなのかしら。
強いだけなら誰でも良い訳じゃなし。アタシはどちらかといえば守るタイプだと思うのよね」
 騎士は強制ではない。しかし、騎士の居ない役持ちは、その事情がどうであれいつ死んでも良いと見なされる。
 期限はないが、選ぶのが遅れれば遅れる程。それは役を全うする気のない意思とされ、世界から削除されるという。
 別段、そんな伝説めいたオカルトを信じていた訳でもないが、女王に睨まれても困るので一応といった感覚だ。
「まぁ、なんとかなるわ」
 流れに身を任せ、ひらひらと手を振った。

――――――

 出逢ったのは、偶然。 拾ったのは、必然。
 眠りネズミに出逢ったのは、役持ちになってから。路上で無防備にも寝こけていた幼い少女を放ってもおけず、芋虫は不思議に思いながらも家まで運んだ。
 衰弱していた様子もなく、ただ本当に眠り続ける少女に思うのはどうしてあんな所で寝ていたのかという素朴な疑念のみ。
 彼女が目を覚ますのを待つ事半日。芋虫はよく寝たわねぇと素直に思い、まずは名前を聞いた。
 寝惚けている少女は数秒後にようやく「ネム」とだけ告げる。
 次いで、身内は居るのか。家はどこか。
 どうしてあんな路上で眠っていたのかを丁寧にゆっくりと問いかけて、返事を待てば、返ってきたのはすやすやという寝息。
 迷惑とか、苛立ちはなく、芋虫はその余りのマイペースな幼子を面白いと感じた。
 それは今までの誰にも思った事のない感情で、だからこそ、運命のように。
「ねぇ、貴女。行く宛がないのなら、アタシの騎士にならない?」
「…き、し?」
 次に目を覚ました少女にそう言ったのはもう直感でしかない。断られたって、それでも言わない選択よりは良いと。
「深く考えなくていいわ。アタシは貴女が気に入った。だから、貴女がイヤじゃなければ。アタシに守られるつもりはないかしら?」
「………それは、ネムが、ひつよう?」
 拙い言葉ながらに、芋虫の意図は伝わってはいた様で、じっと少女は芋虫を見返した。
 芋虫は安心させるように少女の頭を撫でて、頷いた。
「貴女だから、良いのよ」
 この時、芋虫はこの少女がどんな時間をここに至るまで過ごしてきたか等、知らない。
 ましてや、生まれて初めて少女を必要としたのが、自分だとは思ってすらいない。
「………ッ…」
 だから、どうして少女が涙を流して、芋虫にしがみついて何度も頷いたのか、分からないながらも優しく抱き締め返した。

 偶然にして必然の出
(この時、わたしがどんなに救われたか。どんなに嬉しかったか。誰かに生まれて初めて必要だと言ってもらえた気持ちは、きっと、わたし以外に知りようはないんだろうけど、貴方が必要だとしてくれた瞬間からわたしは息をして生きている事を知った。貴方の為のわたしでありたい。わたしの為の貴方でなくても構わない、唯一絶対の存在でいられたなら、それはきっと、しあわせという奇跡だと思うから)

終。


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -