「…こんなところで貴方に会うなんて思ってなかったわ、文次郎」
「奇遇だな、俺もだ」
ニッと笑いながら苦内を構える彼は私の旧友。
彼が緑色の制服に身を包み私の隣に立っていたのをつい昨日のことのように思い出す。
でも、それはもう随分昔の話。
お互いに黒い忍び装束で、手に持つのはお互いの体を傷つけるもの。
覚悟はしていた、学園を卒業したあの日から。
お互いに就職先は違ったし、今のこの世だ。
敵とならないことの方が少ないだろう。
割り切ってきた、これまでどれだけ見知った顔が居たとしても躊躇なくやってきた。
でも、どうしてだろう。
悲しいんじゃない、寧ろ、胸が躍るようだ。
これも、私が立派な忍になった証拠だろうか。
「私さ、いつか貴方と戦ってみたかったのよね」
「ほう、どこから出るんだ?その自信は」
「これでも学園で遊びほうけてた訳じゃないからね、それに卒業してからいろいろなことをやってきた…貴方に遅れをとるつもりはさらさらないわ」
「はっ、よく口が動くようになったな、梨音」
「まあね」
お互いに顔は笑っているのに緊張が抜けない。
空気が張り詰める。
お互いの足元で、ジリッと音が鳴る。
一呼吸した瞬間、互いの足が地面を蹴り、目の前に文次郎の苦内が飛び込んでくる。
それを交わし、文次郎の背に向って一気に小刀と振り下ろす。
だが、刃先は宙を切り、文次郎の姿は消えた。
どこかと視線を巡らせていると、背後から手裏剣が投げられる。
身を翻し避けると、綺麗に着地した文次郎がニヤリと笑った。
「言うほどはあるようだな」
「そりゃ、大した実力もないのにあんなこと言わないわ」
呼吸を整える。
あと少し遅かったら私の体は赤く染まっていたことだろう。
流石だな、本当に。
私は苦内を持ち、すぐに構えをとる。
しかし、私たちのすぐ傍で、大規模な爆発が起こる。
「な、何?!」
「…火攻めが始まったようだ」
「火攻め…ですって?!」
「ああ、お前の城を火攻めにする為に内部を撹乱する…それが俺の任務だ」
ニッと笑う文次郎。
しまった、文次郎との勝負に夢中になりすぎて、城に意識を向けるのを忘れていた。
「まだまだのようだな、梨音」
「…っ」
「まあ、精々足掻いて生き残れよ」
「ちょ、ちょっと…文次郎!」
去ろうとする文次郎に向って叫ぶ。
文次郎は振り返ると、またあのニヤリとした笑みを浮かべた。
「勝負はお預けだ、ま、お前の城が無事だったらな」
そう言うと、彼は完全に気配を消した。
一枚上手
(次にあった時覚えときなさいよ!)