「きゃあああああ!」
ガシャンと大きな音を立て、俺の後ろで何かが倒れる。
振り向いて見てみると、可愛い後輩が手に持った虫籠と供に顔面から地面に倒れ込んでいた。
そんな後輩の姿に唖然としているのもつかの間、倒れた虫籠から先程苦労して捕まえた毒虫達がここぞとばかり逃げ出した。
「「ああああああ!!!」」
「す、すいません!!」
慌てる一年と供に、ソイツは走り出した。
「すいません…竹谷先輩…」
やっと捕まえた虫達を小屋に戻していると、後ろから声を掛けられる。
振り返ってみれば、先程の後輩…梨音が顔を上げずにしゅんとしていた。
そんな姿を見て笑う。
「そんな気にすんなって」
「でも…孫兵からは「またですか」って呆れられちゃいました」
「孫兵は素直じゃないからなー」
「へとへとだった一年生達にもまた走りまわせちゃったし…」
「アイツらも結構楽しそうだったし…梨音だから大丈夫だろ」
「え?」と言いながら顔を上げる梨音に、ニコリと笑いかける。
「俺が同じことやってたら皆から許して貰えなかったぞ」
「そんなことないですよ、竹谷先輩のこと皆大好きですし…」
「いや、梨音の方が好きだな…やっぱり”お兄さん”より”お姉さん”だよ」
「は、はあ…」
梨音は俺より1つ年下で、生物委員の中で紅一点だ。
普通女子って虫が嫌いだったりして入らない委員会だが、梨音の場合は全くそんなことがないらしく、平気な顔で虫を触る。
まあ、その方が此方としても有難いんだけどな。
寧ろ梨音で良かったと思うし…。
「竹谷先輩…?」
「あ…ああ、すまん」
「い、いえ」
思わずじっと見つめてしまった。
そんな俺に梨音が困ったような表情をする。
あー…その顔が駄目だって分かってないんだろうなー…。
「竹谷先輩…」
「ん?何だ?」
「ま、前から聞いてみたかったことがあるんですけど…いいですか?」
「いいぞ?」
「その…今…お付き合いしてる方とか…いらっしゃいますか?」
「へ?」
思わず間抜けな声が出る。
え…今何聞かれた?
「す、すいません!答えにくい質問だったら別に答えなくても!!」
「あ、いやっそういう訳じゃない!い、居ないぞ!」
「そ、そうですか!」
二人とも同じくらい頬を染める。
な、何なんだこの空気…。
気まずいぞ…。
それにこんな質問してくるなんて…。
「その…梨音はどうなんだ?」
「わ、私ですか?!い、居る訳ないじゃないですか!」
「い、居ないのか?!」
「私みたいのにそんなっ」
「いや、梨音は可愛い!!」
「へっ?!」
梨音の肌が真っ赤に染まる。
それにつられて、俺も全身が熱くなる。
い、今俺勢いで何を言った…?
「あ、そ、その…」
「…有難うございます竹谷先輩、優しいんですね」
「ちっちが!俺は本気で言ってるんだぞ!」
「あはは、有難うございます」
駄目だ、本気にとって貰えない…。
もう此処は言うべきか、言うべきだな。
ゴクリと自分でも分かるくらい喉が鳴る。
真正面の梨音の顔を見据えると、俺はしっかりとした声で言った。
「梨音」
「は、はい…」
「…もし良かったら、俺と付き合ってくれ」
「え、虫取りですか?」
「そういうボケかますとこも大好きだがな!違う、俺と恋仲になってくれという意味だ」
「え、ええ?!」
急なことで頭がついていかないのか、俺の前で口をパクパクさせる梨音。
あー可愛いな、抱きしめても罰あたらないだろうか。
「返事…聞かせて貰えるか?」
「え、えっと…」
「…正直なことを言ってくれ、それで態度変えたりとか絶対にしないから」
まあ正直へこむけどな、なんてことは絶対に言わない。
「そ、その…宜しくお願いします…」
「え?」
「わっ私で宜しければ…!」
「ほ、本当か?!気使わなくてもいいんだぞ?!」
「い、いえ!気なんて使ってません…!私、ずっと竹谷先輩のこと好きでした…!」
「っ…!梨音!」
「きゃっ」
嬉しさのあまり梨音を抱きしめる。
女子特有の香りと柔らかさに、体全体がむずむずする。
それでも、今はこうしておきたかった。
「竹谷先輩…」
「ん?」
「その…これから、宜しくお願いします」
「ああ、此方こそ!…大好きだぞ」
「…はい」
淡い恋
(このむず痒さも苦しさも全部全部大好きだ)
〜おまけ〜
「…先輩、どうしましょう」
「どうもこうも…これじゃあなあ」
「でも、二人ともおめでとうございます!」
「でもどうする?せっかく食堂のおばちゃんにおやつ貰ってきたのに」
「うーん、これじゃ中に入れないもんね」
「はぁ…仕方ない、別の場所で僕達だけで食べよう」
「「「「はーいっ」」」」
「(先輩方…イチャつくなら別の場所でやって下さい)」