珍しく黙々と机に向かって何かをやっている彼。見慣れない光景にすごく興味がわいて近寄ってみれば、ああやっぱり、この言葉がしっくり来る。

「ん、ああお前か」
「珍しく机にへばりついてるから何事かと思えば…やっぱ隆文は隆文だよね」
「うるせえ、いいだろ別に」

隆文が熱心に見ていたのは旅行雑誌。ぽいっちゃぽいけどなんていうか…面白味にかける。

「何、白鳥くんたちとでも行くの?」
「ああ、弓道部の面子で卒業旅行に行こうってなってな、場所決め任されたわけ」
「元副部長さんは大変ですね」
「羨ましいか?」
「別に」

嘘、羨ましかったりする。学園は男子ばっか、まさか男子数人に女子一人で行くわけにも行かないし、行くなら隆文と…なんて考えてたけどこれじゃ無理か。

「ん?弓道部ってことは…月子ちゃんも?」
「ああ、宮地・夜久・白鳥・俺」
「…それっていいの」
「まあいいんじゃね?合宿とかもやったし」
「合宿と旅行じゃだいぶ違うでしょ」

なんていうかまあ、あの仲のよさを見ていたらそういうの気にしない感じだけど、旅行でさすがにその面子は…あ、でも月子ちゃんの性格だと行きたいって言っ

ちゃうのかな、でもでも七海くんや東月くんが反対しそうだし、うーん。

「なんだお前、百面相になってるぞ」
「男子三人に月子ちゃんを混ぜて安全か必死に考えてるの」
「べっつにあいつどうこうしようとか考えたことねえし…なんならお前来るか?」
「いくら仲いいからって弓道部でって中にそんなずかずか入れるわけないじゃん」
「お前なら宮地たちもいいって言うと思うけどな」

寧ろ夜久が喜ぶと思うぞ、なんて笑う。あくまで月子ちゃんがなんだ。ねえじゃあ隆文は喜んでくるないの?私が行ったら。

「でも可愛い子紅一点がいいよね」
「お前さっきと矛盾してるぞ」
「だって学園のマドンナ独占できるんだよ?」
「俺はあいつをそんな風に見てねえよ」
「でも隆文月子ちゃんみたいな子タイプじゃない?守ってあげたくなるような」
「俺はナイスバディなお姉さんがタイプだ」

そんなきっぱり言われても…ナイスバディ…うーん、ほど遠い…。

「じゃあその…私は?」
「は?」
「私は対象に入る?」

私の質問に隆文がポカンとする。状況を呑み込んだ後、私のことをじろじろと見る…なんか落ち着かないんだけど。

「お前、お前ねえ…」
「…そうだよねえ、隆文私のこと女として見てないもんね」

態度を見てたらわかる。私はこいつの対象にはなってない。学園に女子は二人だしちょっとは意識してくれたり、なんて期待しているのにお前になんか興味ないですよって。何それ、女子としての私のプライドずたぼろじゃない。

「なーにいじけてんだよ」
「べっつにぃ?ただ誰かさんに男子高校生というものを垣間見すぎて言葉を失ってるだけ」
「この学園にはそんなやつばっかだろ、お前と夜久をそんな目で見る野獣たち」
「美女と野獣って?」
「夜久は美女でもお前は召使いAだな」
「何それひっどい!」

本気で傷ついた、なんか泣きそうになってきた。隆文もいくら仲がいいからって言っていいことと悪いことがあるでしょ。ばーかばーか!隆文の無神経!だから彼女出来ないんだから!出来たら出来たで私は泣いちゃうけど!

「どうせ召使いですよ…お姫様みたいに騎士はつかなんだから…」
「…ま、そんな召使いでも一応か弱い女の子、だもんな」
「何が言いたいのよ」
「召使いにいつか王子様が見つかるまで、かわいそうだから庶民が守ってやるよ」
「…私はいつまでも庶民に守られたいんだけど」
「今のは聞かなかったことにする」
「何それ?!乙女の告白聞き流しちゃうわけ?!」

掴みかかる勢いで隆文に詰め寄れば頭をガシガシと撫でられる。ああもう髪ぐちゃぐちゃ!しかも隆文の顔が見えないじゃない、ちょっと手どけてよ。

「ほら、ぼさっとしてねーで宮地のとこに私も行くって言ってこい」
「は?私行くなんてひと言も…」
「羨ましそうな顔してよく言うぜ、召使いなら大人しくお姫様についてこいって」
「…しょうがないから庶民のお守りもしてあげるわよ、ていうか隆文が宮地くんに伝えてくれれば」
「俺はちょーっと用事を思い出したから、じゃあ頼んだぞー」

私に顔を見せないように手をひらひらとさせながら教室を出ていく隆文。ねえ、見間違いなんかじゃないよね、今隆文の耳が真っ赤だった気がするんだけど。なんだか口角上がってきた、このまま追いかけちゃうのもいいかもしれないけど、今はまだその時じゃない気がする。ゆるゆるになった頬のまま宮地くんのところにいけば、「お前どうしたその顔」なんて、どいつもこいつも本当に失礼!だけど私も行くって伝えると「大歓迎だ」って微笑んでくれた。まだ隆文は教室には戻ってこない。決戦は旅行当日?それともやっぱりもっと早めがいいかな。なんにしてもどうやってぶつけてやろうかと今の私はワクワクして仕方なかった。これで勘違いでした、なんて絶対に言わせないんだから!

今から唱える君への言葉
(面と向かって好きって言ってやったらどんな顔するかしら)

最後意味分からなくなりましたがとりあえず犬飼くん素敵