「お疲れさまです、取締役!」 そう呼ぶと彼が嫌そうな顔をした。毎度毎度本当にいい反応、社長の無茶ぶりとかは軽く流しちゃうのに私のこれはちゃんと受け止めて反応してくれる。それが嬉しくて私はいつもやってしまうんだ。 「お前…飽きないのかそれ」 「残念ながら取締役の反応が毎度良すぎて飽きません」 「・・・」 「うわあ…ガンつけるの止めてくださいよ…射殺されそう…頼まれていた書類持ってきましたよ、龍也先輩」 「最初からそう呼べ、馬鹿後輩」 馬鹿とは酷いじゃないですか!なんてむくれる私を他所にスラスラと渡された書類に目を通して行く。そしてデスクにある別の書類を取ると、ん、とこちらを見ずに渡してきた。はあ…これは…。受け取ってパラパラとめくれば予感的中。一度先輩をキッと睨んで自分のデスクにつきノートパソコンを立ち上げる。渡されたのは予算案、しかも早乙女学園体育祭のもの。もう慣れたけど相変わらず酷くてこんなもの何に使うというものも含まれている。書類を見ながら数字を入力していけば案の定予算オーバー。削れそうな部分は却下と書いて生徒たちにやらせても問題がなさそうな部分も除いていく。 「先輩、これも生徒たちにやらせて大丈夫ですか」 「ん?ああ、それくらいなら問題ねえだろ」 「わかりました、じゃあそうします」 怪しいところは先輩に確認をとって整理していく。程なくして作業は終わり、メールを先輩のパソコンに送って背筋を伸ばす。 「おう、なかなか整理されてるじゃねえか」 「なかなかは余計です、何年貴方の部下やってると思ってるんですか」 「言うようになったじゃねえか」 「実力が伴ってますから」 ニヤリと挑発的な笑みを浮かべれば先輩も同じような笑みを浮かべる。とりあえず疲れたから何か持って来よう、先輩にはコーヒーがあればいっか。二つのマグカップの中には片方はブラックコーヒー、片方にはミルクたっぷり。ちょっと小腹も空いたから…あ、そういえばリン先輩にマドレーヌ貰ってたっけ。 「はい、先輩どうぞ」 「おう、気が利くじゃねえか…ってお前何食ってやがる」 「マドレーヌ、リン先輩から頂いたんです」 「林檎から…?じゃねえよ!上司が仕事してんのになんだお前!」 「うわあもうマドレーヌ欲しいなら言ってくださいよ!糖分足りてないからって私に当たらないでください」 「ちげえよ!ああもう!俺も休憩する!終わったらお前にも残りの仕事片付けてもらうからな」 「お手柔らかにお願いしまーす」 美味しそうにマドレーヌの頬張る私の前に先輩が座り、机の上に置かれたマドレーヌを一つ頬張る。 「…あまっ」 「そりゃあお菓子ですから」 「そんなレベルじゃねえぞこれ、砂糖どんだけ入れてるんだよ」 「うーん、まあそこは特別ですから、私は丁度いいんですけどね」 「お前どんな味覚してんだ」 「こんな味覚です」 どや顔でそう答えれば先輩が一瞬げっそりとして「可愛くねえやつ」と呟いた。可愛くなくて結構です、先輩がそう言ってくれなくてもファンの方がたくさん言ってくれます。 「にしてもすごいですよね〜、私たちの在学時は人気なんてなかったのに、今じゃ競争率200倍とか」 「そうだな、お前の時はほぼ全入だったか?」 「うーん、まあ志望者自体少なかったからですね…私が受かったぐらいですし」 「それもそうだな」 「ちょっとそこ否定してくださいよ!私たちの代だって頑張ったんですよ!上の代が偉大過ぎて意地の悪い方々からは不作だなんて言われちゃって!」 事務所設立当時はまだしも龍也先輩やリン先輩たちの人気が出始めてからは酷かった。私や私の同期も頑張ったのだけど、行く現場行く現場で「あの月宮林檎や日向龍也の後輩なのに」と言われることも少なくはなかった。 「それでも今お前らはそう言わせねえようになったじゃねえか」 「先輩たちに負けないぐらい死に物狂いで働きましたからね、まだリン先輩の売上には勝てませんけど」 「下克上ってか?いい心がけじゃねえか」 「根性でのしたがってきましたから」 負けず嫌いの私はパートナーを巻き込んでのしあがっていった。未だに「あの時のお前は怖かった」って言われるけど…まあそれがあって今があるから。 「お前のそういうとこ、俺は気に入ってんだぜ」 「あら、ありがとうございます先輩」 「…よし、飯でも食いに行くか」 「え、仕事は?」 「食って帰って来たらやる」 「やっぱりか…もちろん先輩の奢りですよね!」 「アホ、稼いでんだから自分で出せ」 「ええっ、ひっどー!この間一ノ瀬くんたちに奢ってたのにー!」 「あいつらとお前じゃ全く違うだろ、ほら行くぞ」 デスクチェアにひっかけていたスーツの上着を羽織り、先輩が歩いていく。その後ろをマドレーヌを頬張りながら、遅れないようについていった。 ≠Love? もはやタイトルが私の感想 |