可愛くて甘えん坊でわがままで男女問わず大人気のアイドル、それが私の彼氏だ。

「あーもう疲れた!過労で倒れるっつーの!」
「はいはい、今日もよく頑張りました」
「当然!あたし偉いでしょ?」
「うんうん、林檎ちゃんは偉い、とってもいい子!」
「もう梨音大好きー!」

ガバッと抱きついてくる林檎の頭を撫でると、猫みたいに気持ちよさそうに私に顔をすり寄せてくる。二つ下…その年の差でこうも幼いと感じるものか。龍也からは「お前物好きだよな」と憐れんだ目で見られる始末。まあ物好きって言ったらそこまでだけど、好きになったものはしょうがないのよ、うん。私に抱きついた状態でキョロキョロと周りと見渡す林檎。まあここは楽屋だから私たち以外の人間がいるわけもなく、一通り辺り様子を確認できたのか、林檎が不敵な笑みを浮かべる。こういうときは何かやる、この勘はよく当たる。

「ねえ、キスしていい?」

やっぱり、そうきたか。

「駄目、いつ誰が来るかわかんないもの」
「鍵だってかけたし大丈夫だって」
「今ここでじゃなくていいでしょ」
「いや、俺は、今、ここでしたい」
「わがまま言わな…ちょ、待ってって!ん!」

有無を言わさず林檎の顔が近づいてきて唇を奪われる。許可なんて最初から意味ないじゃん、自分がやりたいことは全部私を無視してやっちゃうんだから。何度も何度も味を確かめるみたいにバードキス。息が苦しいということはないのだけど、さすがにもういいだろうと肩を押すけど退こうとしない。逆にがっちり腕を首に回されてこれ以上身動きがとれなくなる。本人に言ったら絶対怒るけど見た目女の子なのに力かなり強いんだよね。そういうことを私だけ知っているって優越感があるけど、この状況そんなのに浸っている暇はない。いくら収録終わって楽屋戻って鍵かけたからって、誰か挨拶に来たらどうするのよ、あんたみたいに演技派じゃないのよ私は!

「り、んご…!ストップ!もう充分でしょ!」
「まだ足りない、梨音をいっぱい補給したい」
「私補給したってなんのエネルギーにもならないでしょ!あ、そうだ!スタッフさんからあんたが好きなケーキ頂いたの、疲れた時は甘いものって言うじゃない?一緒に食べよう、ね?」
「後でいい、今は梨音が優先」
「私は今食べたいな、ね、お願い」
「…仕方ないなあ」

腕の力が緩んで安心したのもつかの間、顔を両手でつかまれて歯がぶつかりそうな勢いで再び唇を奪われた。今度は体の奥まで貪られるようなキス。飢えを満たしていくかのようにどんどん求めていく林檎に私がついていけなくなる。なんでこんなに元気なのよ、これも年の差の影響?私そんなに老けてる?じゃなくて、この状況どうにかしないと、龍也や社長なんかにバレたらどんな目に合うか。満足したのか唇を離し、最後にぺろっと舐められた。今ので生命力かなり吸い取られた感じがする。

「ごちそう様、さーて!ケーキケーキ!」

るんっと効果音がつきそうな可愛らしいしぐさをして、ケーキの箱を開ける林檎。その切り返しの速さは尊敬に値します。

「ねえねえ、梨音はどれがいい?あたしはこのチョコレートケーキがいいなあ」
「うんうん、林檎の好きなのを先に選んで、私はなんでもいいから」
「わーい!梨音ありがとう!」

私がお皿とフォークを用意すると、幸せそうな顔でケーキを口に運ぶ林檎。さきほどまでの雰囲気なんて微塵も感じないけど、どちらの林檎も好きな私ははなっから林檎に勝てないのである。

うさぎの姿の狼さん

林檎ちゃん男前過ぎてふいた